死んどるんかい!

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 イレイザーヘッドが東京に仕事で来て時間に余裕があるときに、よくご飯を奢ってもらうようになった。そもそも静岡にいるヒーローだから月1あるかどうか。制服姿でご飯に行くと援交だのなんだのと見目があまり良くない。私服を着てスキンシップせず…いやもともとベタベタするタイプじゃないからないんだけど。時たま興味本位で引っ付いてきた守護霊がいたとき「今日は1人引っ付いてきてます」と言うとその人の分まで注文してくれるっつー、なんつーか、めっちゃいい人。霊は食べられないから最後は私とイレイザーヘッドの胃の中におさまる。
「そういや渡来はヒーロー目指してんのか?」
 将来を考え始める時期、中2の冬。今日は守護霊がついていないので2人前で鍋をつついていた。この人結構野菜より肉食べる人だ。つみれ片っ端から食われた。
「ヒーローか警察のどっちかっすね。悩んでます」
「渡来ならなれるだろ、それだけの実力あれば」
 ご飯にするには早いけどご飯にするには早い、というとき私のトレーニングを見に来ることがあった。暇つぶしだとか。個性のトレーニングは勿論だけど体術面もみっちり鍛えていた。それを眺めていたイレイザーヘッドが偶に相手してくれた。個性の抹消は厄介だけど、一度霊に力を与えればそれが消えることはない。まああいつら使役することはほぼなかったけどね。もしかしたら現れるかもしれない除霊個性の人間相手でも対応できるよう己自身を鍛えていた。
「おお、随分買ってくれるんすね」
「渡来の年齢でそこまで動ける奴は見たことない。今からでも十分やってけるよ。んで?何を悩んでるんだ?」
前世でも警察だったけどやっぱり今世も警察はありだ。技術は前世より遥かに進んでるけど勉強すればなんてことない。サイバー課に配属されても問題ないくらいのレベルにはなったと思う。
個性使えば救けられる人が増えるならヒーローを目指すべきだと思う。私の個性ならヴィラン相手でも救助災害でもマルチに活躍できる。隠密も索敵、攻撃に守備、なんでもできるオールラウンダー。
「私の守護霊、9人中7人は生前警察関係者だったんすよ。私自身警察も考慮してるから警察官になって欲しいって言う奴もいるし、霊だからこそヒーローになって己を有効活用すべきだって言う奴もいるし。警察関係者じゃないけどある奴は、事件があれば解決したいけど警察になると個性が使えないから自分が首を突っ込めないってことでヒーロー目指してくれーってやつもいるし」
「なるほどな、守護霊の方で揉めてるのか。こういう言い方すると守護霊たちに悪いが、死んだ人間より生きている今と未来を、お前自身の気持ちを優先すべきだと思うぞ」
「そう言ってる子もいますよ」
 また警察にというのは降谷、風見、伊達、松田。ヒーローへというのは赤井、諸伏、萩原、工藤。私の判断に委ねるというのが宮野さん。喧嘩って程じゃないけど白熱すると私相手に夜通しプレゼン始めるのは勘弁してほしい。
「警察に入る場合は少なくとも高校卒業以上でその後試験あるじゃないですか。対してヒーローは在学中に免許取れば卒業後すぐに活動できる。だから高校はヒーロー科に通ってその間にどちらを選ぶか考えようと思ってます。警察としての生き方は知っ…耳が腐るほどあいつらから聞いたんで、じゃあヒーローとしての生き方はどうなのかってのを知るのも大事かなと。それで警察選んだら免許取り消して警察学校行けばいいし、ヒーローとして生きるならそのままヒーローとして活動すればいいし」
「吟味してから選んでも遅くはない、か」
「どっち選んでも根っこは変わりませんけどね」
 人々が安心して暮らせる社会にしたい。前世でもおんなじ理由で警察の道を選んだ。ヒーローになるとしてもイレイザーヘッドみたいにアングラ系にするつもりだ。ひっそりとやりたい。
「高校はもう決めてるのか?」
徒和良あだわら高校か館川たてかわ高校っすね」
 一番近いヒーロー科のある高校は徒和良高校。自転車で20分の距離にあり学力も低くはないが、被服控除がなくコスチュームは実費だ。館川高校は自転車で30分くらいの距離で、被服控除はあるものの3割負担で徒和良高校に比べると設備が劣る。どちらも有名なヒーローを1人も出していないし、卒業時にヒーローとしてではなく事務所の事務や大学進学でヒーロー活動をしないという生徒も多い。そもそも仮免許試験の時点で合格率が頗る低く、全員落ちることが不思議じゃないとか。両方とも偏差値は悪くないんだけど、ヒーロー科としての偏差値は低い。
「聞いたことないな…。雄英じゃないのか」
「えー雄英って静岡じゃないすかー。イレイザーヘッドに奢ってもらえる機会増えんのはいいすけど、1人暮らしするほどの金銭的余裕うちにはないっすよ。あと制服代と教科書代が高い」
 東京に比べれば静岡の物価は安い。雄英なら被服控除もあるし偏差値も高いし設備も整ってて言うことはない。
ただ偏差値が高いだけあって、名門なだけあって別の方でお金がかかる。3年間1人暮らしにかかる料金考えれば当然実家からの通いになる。流石に新幹線通学する余裕もない。
「金銭がかかってくると俺には何も言えないな」
「私立なら特待生制度とかで授業料免除ーとかね。天下の国立高校にそういう制度ないし。ってそれ私の白菜」
「早いもん勝ちだ」
 密かに確保してた野菜陣地を奪われた。くっ、私が狙ってた白菜…めっちゃ染みてておいしそう。
「にしても勿体ないな。雄英じゃないのか」
「イレイザーヘッド私買い過ぎじゃないすか?つか、もしかして雄英出身?」
「まあな」
 雄英出身だったな。めっちゃエリートじゃん。初見で小汚そうって思ってごめんなさい。人は見かけによらない、降谷で学んだこと。あいつはベビーフェイスの皮を被ったゴリラだ。
「雄英…雄英かぁ……考えてなかったなぁ」
「実技試験は問題ないだろうが、あそこは勉強のレベルも高いぞ。成績はどうなんだ?」
「一応ずっと満点取ってます、けどまあ中学校のレベルがどれほどのものかすら分かってないんで、点数も順位も関係ないっすね」
 一度学んだことだから教科書見れば余裕で満点取れる。見なければうろ覚えなところあるからちょっと点数落ちるけど、ずっと満点だからここで点数落ちるのはなんか嫌だから満点取るよう心掛けてる。公立の中学だからレベルなんて分からんけど。
「ま、受験まで1年ある。進学先はよく考えろよ」
「はーい。そろそろ〆食いましょうよ」
 雄英かぁ…静岡…。1人暮らしが嫌だとかできないとかじゃなくて、ほんとうちお金ないから。祖母ちゃんが手術したり父さんが怪我で仕事を辞めざるを得ず収入が入らなかったりでここ数年カツカツ。雄英という選択肢は結構低い。文句なしの環境だとは思うんだけどね。