今更ヒーローになれやしない

原作開始

 先生が戻ってくることを望んでいると弔は言っていた。先生にとって私は弔を導く、第二の先生となって欲しいのだろう。弔のが年上だし先生との時間も長いのに私が第二の先生ってところにツッコミたい。
 オールマイトが雄英高校の教師に就任、その記事に弔がいよいよ動き出すことを知る。
 オールマイトの就任記事がでかくて大きく載ってはいないが、ヒーロー殺しの存在もまことしやかにささやかれている。ステインが愈々本格的に動き出したのだ。
「…いっそがしい1年になるなぁ…」
 だからといってエンフォーサの活動を止めることは無い。が、こりゃ暫くは相手を選んだ方がいいだろう。話題性のある相手を選ぶと弔が拗ねそうだ。だいたい数年に渡る活動のおかげか、ヒーローや権力者周りでそういう黒い話は大分聞かなくなった。
 さて、私はどういう立場でいるべきか。
「…まぁ、第3勢力的な感じだよな」
 連合にも、ヒーローにも、どちらにもつかない。つか今更ヒーローになれやしないわけで。
 事の成り行きを見守る卑怯な立場に落ち着くことに決めた。


 弔から時折…というには高頻度で報告の電話が入る。USJで先生力作のとっておき脳無が吹っ飛ばされたこと、衰えていると言われたその力が一切その気を感じさせなかったこと、報告ってより愚痴だな。
『体育祭で、良いの、見つけたんだ』
「良いの?何、個性?」
『違うよ、この抑圧された社会に飲まれ暴れ足りない生徒、だよ。爆豪勝己、彼はヴィラン連合に入るべきだ』
 あぁ、この前の体育祭。そういえば原作でも見ている描写あったな。それで拉致を考えたんだもんな。
「…やめた方がいいと思うけどなぁ」
『は?仲間でもないのに口出してくるの?何様なわけ?』
 未だ仲間にならないことを根に持っているらしい。苛々を隠さずぶつけてくる弔に思わず苦笑する。
「ただの感想。口出しではない。…まぁ、頑張れ」
 絶対仲間にならないだろうけど。
 爆豪は1位を勝ちとったが、結果ではなくその過程から納得していないのは火を見るより明らか。つか難関校雄英高校へ入試トップで入ったその努力と才能っぷりから、ヴィランに落ちるとは到底思えない。…というのも原作を知っているから言える話なのだろうか。
 廃墟のビルから裏路地を見下ろす。既に毒を流してある男が見覚えのあるものを取り出した。
(…まだ出回ってたか)
 指を鳴らした瞬間、どさりと男は血を吐いて倒れた。ビルから飛び降り男の傍らに立つ。手に持っていた瓶の中には赤い錠剤が1錠。
『何、誰か今殺したでしょ』
 指を鳴らした音が聞こえたようだ。耳聡い。
「まぁね」
 瓶ごと手に取り錠剤を眺める。間違いない、“スピード”だ。
(あー、面倒なことになりそうだ)
 個性の制御ができなかったあの時に作られたもの。後で処分すべく瓶をポケットに入れた。