意外に大人しいね
やっと
「だからその答えも間違いじゃないけど、正答はこうなるってわけ」
「…おう」
「後は大丈夫そうだね」
爆豪はリスニングが一番苦手らしい。今までは動画で勉強していたそうだが、間違えた時の答え合わせが難しいらしい。英語教えてる時に発音を聞いてリスニング問題やって欲しいと言ってきた。英語なんて暗記ゲーだし教えることほぼないんだけどね。
「そういえば冬休みってヒーロー科ちゃんとあんの?」
期末試験が終われば冬休みだ。12月23日から1月10日まで。夏休みは合宿があったから冬休みもそんな感じで普通科とは違うカリキュラムが組まれていそうだ。その合宿で爆豪は大変な目にあったわけだけど。今年起きている事件、爆豪の身に起きたこと、それらについてお互い話題に出したことはない。私は外野だから口に出さないとして、爆豪も過去のこと掘り返す質じゃないだろう。
「25日から28日、3泊4日で救助訓練の合宿はあるって聞いた」
「冬季だと色々勝手が違うからってことか。流石雄英」
「実家帰るんか」
「今んとこはね。24日にクラスでクリパやるって言うから25日に帰ろうかと。つっても家こっから徒歩圏内だからクリパ終わったらそのまま帰ってもいいんだけどね」
時間も時間だからお互いノートや筆箱を片付ける。爆豪はその手を止め、何か言いたそうにこちらを見ている。
「おっとどうした」
「……23日は、空いてんのか」
「今んとこは」
「…………」
爆豪が何を言いたいのか察する。眉間にしわを寄せながら、面白いことに目線逸らさずギッともはや睨んでるだろってくらい見つめてくる。何とか言おうと口を開くもプライドが邪魔すんのか言い辛いのか、中々言い出さない。
「……23日…」
「うん」
「……俺予定ねぇ…」
「私も今なら空いてるね」
「だ、から…………」
「………………」
「………俺に1日寄越せ……」
爆豪の心臓の音が聞こえてきそうだ。きっとバクバクしてんだろうなぁ。ギラギラ睨んでくるのに目は潤んでるし耳が赤い。23日は天皇誕生日、ただの休日。24・25日の予定を聞いたうえでその日を、というかクリスマスでなくてもその近くの休日を寄越せと言った。
「それは、どういう意味かな?」
我ながら意地の悪い質問だと思う。とはいえ、その日を指定するなら関係をはっきりしておいてもいいかもしれない。
「君との関係を表すなら“先輩後輩関係”だね。クリスマス当日じゃないし、“そのまま”の関係で遊んでも問題はないだろう。なあ、爆豪勝己君、君はその日を“先輩”として欲しいのか?それとも“一歩進んだ関係”で欲しいのか?」
「!!!てめえ悪趣味だなおい!気付いてんのかよ!クソ!死ね!」
「覚悟してたわその罵倒」
爆豪は可愛い、そう思ってる時点で多分もう落ちてる。先生に言った通り年明け前に無事陥落してるわけだ。くつくつ笑ってると爆豪は右手で小さく爆破を起こした。
「笑ってんじゃねえ!」
「ふっ、はは!何、私から言おうか?私は」
「言わせっかよ!!てめえが好きだ!付き合えコラ!!!」
「あっはははははは!!!威勢良すぎだろ!」
「だあああ!!笑ってんじゃねえ殺すぞ!!」
「あーあ、うん、知ってた。私も好きだぞ、爆豪勝己君」
「クッソ!何でこんな女!」
「え、ひでぇ実はモテモテなのに」
「知っとるわ!!」
「知ってるって…それはそれで複雑だわ」
爆豪はこれでもかってくらい顔を真っ赤にさせ乱雑にノートをカバンに突っ込んだ。ズカズカと机の合間を縫い勢いよくドアを開ける。
「帰るぞ!!」
「ふっ、うん、帰ろうか」
照れ隠しが分かりやすすぎるぞ爆豪。くつくつ小さく笑いながら爆豪の隣を歩くと、笑うな!とまたキレられた。
「てめえと付き合ってるてのは誰にも言うつもりはねえ。…相澤先生には言うかもしんねえけど」
「君の性格を考えるとまあ言いふらすことはないと思うけど、態々何でそれ言ってきたん?相澤先生に関しては私も言うつもりだったから言うけど」
「そういうの好きじゃねえんだろ、茶化されたりするから」
「ん?何でそれ知ってるん?」
「随分前に学食で話してるの聞こえたんだよ」
「おおうそうだったのか。恥ずかしいな、気をつけよ」
「おうおうそうしろ」
「じゃあいいね、私も表向き彼氏も好きな人もいないってことにするよ。名前言わなきゃ君は別に気にしなくてもいいんだけどね」
「俺だっててめえと同じだ。周りのモブどもにギャーギャー言われたかねえ。アホ面辺りが特に煩そうだしな」
「君がいいならいいけど」
「つかその呼び方やめろや」
「あー、じゃあ何がいい?爆豪君?勝己君?かっちゃん?」
「かっちゃんは絶対やめろぶっ殺す!!!」
「物騒すぎんだろ」
「何で彼女にクソデクと同じ呼び方されなきゃいけねえんだよ。勝己がいい」
「勝己の口から“彼女”って単語が出たことと「勝己がいい」のセリフに萌え死にそう」
「真顔で何言ってんだてめえは。つか名前呼びに何ら恥じらいもねえな」
「私が君呼び止めたように勝己もてめえ呼び止めた方がフェアじゃないかい?」
「……………」
「そういえば勝己からはあだ名ですら呼ばれたことないな…先輩って呼ばれたこともないし…」
「……心」
「……まって破壊力ヤバい」
「だからそう思うなら真顔やめろや!!!言ってることと表情が一致してねえんだよ!!!」
「それで?態々仮眠室まで呼び出して、どうした爆豪。消谷に何かされたか」
「なんであいつに何かされたことになるんだよ」
「あいつはまあ、腹黒いからな」
「…否定はしねえ…」
「…やっぱりなにかされたか。何された、正直に言え」
「先生あいつに何かされたんか。ってちげえ、そうじゃねえ。あいつと…付き合っ、てる」
「…おお…そうか、ああ…うん、あいつ相手は色々大変だろうが、頑張れ」
「…何だよその含みのある言い方」
「あいつ相当…モテるらしいぞ。その辺りはミッドナイトさんの方が詳しいけど」
「………去年の体育祭で告られたってのは知ってる」
「知って、いやテレビ見てたら知ってるか。まあそういうわけだから。爆豪は誰かに言うつもりないんだろ。言わないってことは、そういうところ見ても止めに入れねえってことだ」
「俺が惚れた女が他の野郎と浮気するわけねえし告られても受けるわけがねえ」
「お前…認めたら清々しい程潔いな、ほんと男らしい」
「言っとくが女に現抜かすつもりはねえ」
「そこの心配はしていない。寧ろそういう相手を消谷が選ぶわけがない」
「…俺先生があいつをどう思ってんのか分かんねえ…」
爆豪:先生に話した
シン:相変わらず早えなおい
爆豪:お前相澤先生に何したんだ
シン:おっと一体どういう話をしたんだ
爆豪:付き合う話する前に「消谷に何された」って聞かれた
シン:…遊びすぎたかな
シン:冗談だ
爆豪:冗談に聞こえねえ
シン:まあ先生に関しては今度私から色々聞くとして
シン:23日は何時にどこ集合?流石に一緒に学校から行くわけにはいかないっしょ
爆豪:10時静岡駅北口広場
シン:あいよー
シン:無事寮帰れたか?
爆豪:それは俺が言うべき台詞だろうが、取るんじゃねえ
シン:私は無事帰れたよ
爆豪:おう
爆豪:俺も今寮の自室だ
爆豪:手袋変わってんのにアホ面とクソ髪が気付きやがった
シン:よく見てるんだね君の友達は
シン:じゃなかった、勝己の友達は
爆豪:あいつらきめえな
シン:照れんなよ
爆豪:照れてねえよ!
シン:さっき相澤先生が私のマフラーみて意味深な目を向けてきた
シン:オレンジと黒ってやっぱ勝己カラーなんだね、つか何でだ
爆豪:コスチュームの色がそれだから、それのせいだな
シン:ああそうなんだ、なるほど理解
シン:相澤先生に呼び出された
爆豪:待てこんな時間に何で呼び出されてんだ
シン:わからん
シン:とりま受けて立ってくるわ
爆豪:てら
「ヤるなら俺らや他の生徒に分からねえようにヤれよ」
「色々言いたいことあるんで1つずつ言っていきますね。まず曲りなり気にも女子高生に男性教諭が言う台詞じゃないと思います」
「…そうだったな」
「そういえばこいつJKだったみたいな表情やめません?つかイレイザーヘッドがそんな分かりやすくて大丈夫?」
「仕事中はそんな分かりやすいわけないだろ」
「あ、そうすか」
「お前が所謂ビッチではないって分かってるんだがな。他の生徒に比べて随分大人びてるせいか、こう、口が緩む」
「緩みすぎ。次、付き合って間もない人間がいきなり行為に及ぶわけないでしょう。方やヒーロー目指してる人間ですよ、おたくの教え子ですよ」
「だからお前に言ったんだろうが。あいつには早すぎる」
「先生の中で彼は小学生かな?うん?」
「合意でも既成事実はやめろよ」
「まってツッコミが追い付かないからまだ私のターンにしてください。教員としての立場であるなら寮生活であることも踏まえてそういう行為をしないことを勧める方が一般的だと思います。つっても女性は16から結婚できるし相澤先生のことだから、よっぽど淫らでなければ男女交際に口を出すことはまずないので置いておきます。既に口出してますけど」
「お前は特殊だから言っておくべきだと思った」
「特殊ってなんだ特殊って」
「こういう話を真顔で平然と顔赤らめずまくしたてられる時点で普通じゃない」
「褒め言葉にしておきます」
「褒めてはないんだがな」
「次、その言い方だとまるで寮や学校で行為に及んでいいとも聞こえるので言い方を変えるべきです」
「…じゃあお前らが2人そろって休日に外出届出したら」
「頭ぶっ飛んでな。つか私はともかく爆豪が気まずすぎるでしょそれ、担任に知られるとか」
「お前はいいのか」
「相澤先生担任じゃないしうちのクラスの授業持ってないから接点無いし」
「そういえば2-Cは1つも持っていないな」
「とにかくまだ手ぇ出すつもりはないっすから」
「“まだ”」
「だからまだ付き合って間もないすから」
「爆豪じゃなくてお前が手を出す前提何だな…」
「出される可能性もありますけどね?彼クソ真面目だし忍耐強そうだから突発的にってのはないとみてますが」
「……お前本当に高校生だよな?個性で縮んだ大人とかじゃないよな?」
「戸籍謄本持ってきましょうか」
「いやいい」
「…爆豪相手にこういう話しないでくださいよ」
「言うわけないだろ、教え子だぞ」
「特大ブーメラーン場外ホームラーン!」
「お前は持ってないからな、授業」
「そうだけどそういう話じゃない」
「まあ消谷のことも爆豪のことも信用している」
「違う内容だったらその言葉感動してたのに…」
爆豪との交際は相澤先生以外伝えず、何だかんだ穏やかに…向こうはまたヴィラン連合に襲われたり連合じゃないヴィランと戦ったりと穏やかじゃなかったけど、交際自体は順調に進んでいた。進級して愈々卒年次。高校生最後の歳。JKと呼ばれるのもこれで最後…。
この1年は只管勉強の日々だろう。学年トップだからと言って驕っていると大学受験で失敗する。
「心は、何になりてえんだ」
ヒーロー科に所属する爆豪は言わなくても将来が明確。そういえば私の話はあまりしたことなかったな。
「カウンセラーになりたいんだ」
「大学は決めてんのか」
「東京大学」
「クッソ頭良いところじゃねえか…」
「模試はA判定だし先生もこのままなら大丈夫だろうって言われてんだけど、天下の東大だからね」
「自信ないんか」
「センターで自信無くさないよう勉強してんのさ」
「……受かるだろ、いや、受かれ」
「命令口調。ふは、ありがとう」
心配
シン:おいくたばってねえだろうな
爆豪:誰が死ぬかよ
シン:先生から聞いた
シン:部外者だから見舞い行けない
爆豪:分かってる、俺も先生に言われた
シン:爆豪にも言ったって、あの人結構甘いよな…
爆豪:今どこにいる
爆豪:時間あんのか
シン:自室、時間あるよ
「よう」
『どのくらい怪我したか聞いてないんだけど、将来に影響のある怪我じゃないんだよね?』
「俺を誰だと思ってんだ、こんくらい問題ねえ』
『…あああぁぁぁ、クッソ、見舞い行こうかな…』
「あぁ?ダメだって言われてんだろ。内申に響くぞ」
『声だけ聞いて完全に安心できると思うなよ馬鹿野郎。入院するほどの怪我だったんだろ』
「…てめぇ俺のこと好きすぎだろ」
『好きに決まってんだろ』
「…………………………」
『…………………(そこで黙られるとちと照れ臭いんだけど)』
「…………俺も、好きだ」
『………え?会えないって分かってて煽るの?勝己お前ふざけんなよ?は?』
「キレんじゃねえよ!」
『お前…はぁ、まじ…次会ったら覚悟しとけよ』
「(声ひっく)」
「爆豪!病室戻れってさ!」
「クソ髪うるせえ!」
「いやお前方がうるさ、あ、電話中だったのか、すまん!先戻ってるな」
『ああ、もう切った方が良さそうだね』
「……心」
『うん?何だ、勝己』
「(んでこういう時無駄に甘ったるい声出してんだよ)…何でもねえ」
『?そう?』
「ああ、切るぞ」
『お大事にな』
「…………………………」
(クッソ、会いたいなんて言わねえからな)