意外に大人しいね

手が早い

「消谷、そこに直れ」
「なんすか突然」
「気づいていないクラスメートがほとんどだが、夏休み明けてから爆豪の様子がおかしい」
「ほう?」
「緑谷と切島…幼馴染と一番仲いいやつは変だと気付いてる。お前心当たりあるか?」
「……………」
「…あるんだな」
「因みに具体的にどう様子がおかしいんです?」
「ボーっとしてることが増えた。つっても実技試験中や授業中じゃねえから支障はないが、実技の授業は少しの油断も怪我に繋がる。特にあいつは溜めやすい傾向にあるからな。不安があるなら取り除いておくべきだ」
「ボーっとしてる…。その状態の時に声かけたら「何でもねえよ!」とか言ってキレながら顔ちょっと赤くしたてりしません?」
「……そういえばそう………おい、まさか」
「黙秘します」
「……………何か、聞いて悪かった」
「それ私じゃなくて彼に言って、いや思ってください」
「というか普通逆じゃないか?」
「…………ふっ」
「…………(あの爆豪が手を出された側かよ)お前が怖い」


 体育祭は当然優勝した。去年よりマシだが、クソデクがヴィランとの戦いで負った怪我が完治しておらず体育祭欠席。完膚なきまでの1位ではない。「完治したら殺す!!」とクソデクに言っておいた。有言実行、完治した後の戦闘訓練でボコボコにしておいた。強ぇやつに指導してもらってるのに、あいつはまだ俺より弱い。
 体育祭の後にはインターンがあった。秋にもあるらしい。インターン中、俺、クソ髪、クソデク、半分野郎、アホ面がヴィラン連合と戦闘になった。全員負傷したものの大事には至らず、それでも1週間は入院することになった。
 インターンが明け、期末試験があり、夏休み最初の1週間は強化特訓で帰省は出来なかった。合宿ではなかったが代わりに外部からプロヒーローが来た。ベストジーニストが来たのは驚いた。それと同時に密かに安堵したのを目ざとく相澤先生とベストジーニストが気付いた。気付かなくていいんだよそういうのは!!
 東京大学を目指す心の勉強を邪魔するわけにもいかないと、俺なりに気を遣い期末試験の試験勉強は一緒にしなかった。…別に「次会ったら覚悟しとけよ」の言葉に怯えていたわけじゃない。ただ、何かと忙しかったのもあり会うのを先延ばしにしていた。正直言おう、会いたかったし声聞きたかった、ぜって―言わねえけど。
 家に帰ってスマホを見ると、心からラインが来ていた。強化特訓のことは相澤先生から聞いていたのかもしれない。だからこのタイミングで来たのか。

心:夏休み中は模試で会えそうにない。ただ23-24日は大丈夫

 こっちも忙しかったけどやはり受験生、向こうも向こうで忙しい。心の成績なら余裕だろうけど、驕っているとどうなるのかは痛感している。

爆豪:俺も空いてる
心:うちに泊まりに来い

 とまり…?泊り…
「はああ!?」
 男らしい誘い言葉に困惑する。それって…いやいや、まさか…、つかなんだよこれじゃまるで俺が抱かれ
「うがあああああ!!!」
「うっさいよ勝己!!」
「るせークソババア!」
 抱くなら俺だろ!あいつ女だぞ!俺男!!!俺は男だ!!!つかあいつが女らしくないからこんな思想になるんだ!!俺が抱くんだ!!!ってそもそもそうと決まったわけじゃ
――次会ったら覚悟しとけよ――
「………覚悟…」
 ごくりとつばを飲み込む。心のラインへは虚勢を張って「仕方ねえから行ってやる」と上から目線で返した。その後俺はシークレットタブで検索を始めた。


「トイレはそこ、こっちが風呂ね。その部屋と隣の部屋は親の部屋。私の部屋は2階ね」
 訪れた一軒家は一般的なもの。親は仕事で夜帰ってくるそうだ。親がいない今に緊張するべきか帰ってくることに安堵すればいいのか残念に思…ちげえぞ!!つか親が帰ってきたら親に挨拶しねえといけねえ、態度に気をつけないと。
 出された課題は終わってる。どこか行こうかという心の提案に「勉強教えろ」といつもの口調で答えた。心の気を遣っているわけじゃなくて、折角久々に会えたのに外に行ったら、なんか、色々耐えれんくなった時困ると思ったからだ、主に俺が。
 覚悟して来たのに心は特に何もしてこなかったし何も言ってこなかった。変わらな過ぎて拍子抜けだ。勉強しつつ、休憩を挟んで体育祭の話をしたり、去年の2年のテストを見せてもらったりした。
 夕飯は心が手料理を振る舞ってくれた。去年言っていたエビとトマトのクリームパスタ。俺の方が美味いと言ったら今度楽しみにしてると返って来た。料理の美味さは俺の方が自信あるけど、好きな女が作ったもんは自分が作ったもんより美味いだろ。
 客人だから先に風呂に入れと言われ風呂を頂き、歯磨きをすませて心が風呂に入っている間部屋にいた。そういえば心の部屋に、俺今一人なんだよな。女らしさのかけらもないシンプルな部屋。本棚には本の他に小物や雑貨が置いてある。俺がやったレザーのブレスレットもあった。寮の部屋も見たことないけどこの部屋を見る限り、やっぱりシンプルなんだろうな。
「あー、そうなんだ。…いや大丈夫」
 階段を上る音と共に心の声が聞こえる。多分電話してる。
「彼氏紹介しようと思ってただけだから」
「ゴフッ、ゲホッ」
 まさか俺が来ることすら言って無かったのか、嘘だろ。器官に入った水に咳をしていると扉が開いた。咳している俺に心が怪訝そうに見下ろしてくる。
「この機会逃したら卒業まで紹介できねえなって思って、うん…年末年始は忙しいでしょ、休日だってそう簡単に帰ってこれないし。……え、母さんまでそれ言う?相澤先生にも同じこと言われた。…いやなんかもういいや、突っ込むの疲れた、うん。じゃあ」
「…母親?」
「うん。仕事長引いて帰ってこれないって」
「は、え」
「因みに父さんも母さんと同じ仕事しててさぁ、母さんが帰ってこないなら父さんも帰ってこないし、逆も然りなんだよねぇ」
 ニヤリと心は笑った。スマホをことりとテーブルに置いて、俺の肩に手を置いて耳元で囁いた。
「覚悟して来たんだよな?勝己」