意外に大人しいね

個性

「今日の授業は以上。相性の悪い個性との戦闘方法、どう相手するか各自考えて置くように」
「実践できたらええんやけどね」
「そうだよなー、ぶっちゃけ俺たちにとって一番近い相性悪いのって相澤先生だけじゃね?」
「蛙吹とか葉隠だと相澤先生相性悪い相手じゃないよな」
「…この前、2年の消谷来ただろ。爆豪と轟の個性事故解除に」
「来ましたね。そういえばあの先輩個性何だったんだろう」
「俺がお前らにとって相性悪いってなら、蛙吹も葉隠も含めあいつとの相性も全員悪いぞ」
「でも消谷先輩って普通科なんですよね?」
「普通科相手にってのもな」
「そう思うならやめておけ。因みにあいつは体育祭2連覇している」
「「「体育祭2連覇!?」」」
「マイク先生が言ってた2年トップって本当だったんだ…」
「優勝してるのにヒーロー科じゃないんだね」
「ヒーロー目指してないんじゃねえか?普通科全員がヒーロー科狙ってるわけじゃねぇだろ」
「そんなに強いのに、ヒーロー目指してないんだ…」
「話聞きに行ってみようかな…」
「うちも行きたい!デク君一緒に行かへん?」
「え!?う、うん!いいよ!」
「………………………」


爆豪:体育祭2連覇ってマジか
シン:おっふ、聞いたのか
爆豪:相澤先生が言ってた
シン:相澤先生ェ…
爆豪:お前の個性なんだ
シン:無効。自分に掛かる個性とか、相手に掛かった個性とか、頑張れば半径10m範囲内の個性全部無効化できる。個性で作り足しだものとかだと、威力0にしたりボロボロになったりするかな
爆豪:俺と戦え
シン:面白い冗談だねHAHA
爆豪:明日午後1時。モブどもに見られるとうぜえからグラウンドβ。使用許可は取っておく
シン:待ちたまえ
爆豪:待たねえ
爆豪:許可取った
シン:早くない!?
爆豪:デクなんざに先取られっかよ
シン:誰だよデク。取る取らないってなんやねん
シン:あれか、相澤先生の話聞いた君のクラスメートが私と戦おうとしてるとか、そういうあれか
爆豪:戦うかどうかは知らねぇが、話聞きに行こうとしてた
シン:あー、さようで…。だったら自分で言うのもなんだけど先に取るってのは正解かもね。特に戦闘交えるなら
爆豪:どういう意味だ
シン:戦ったらわかるよ。まあいいや、非常に面倒だけどやるからには本気でやってやろう
爆豪:俺が勝つ
シン:楽しみにしてるよ


「爆豪とやるらしいな」
「先生クラスに言わんでいいこと言うからっすよ」
「お前がヒーロー科に移れば何ら問題ない」
「いやだから私ヒーロー目指してないですって…」
「もったいねえな」
「お眼鏡かなって嬉しいっす期待に応えられずすみません」
「素晴らしく棒読みだな」
「ところで聞きたいんですけど、先生の目から見て爆豪は“強い奴は片っ端から蹴り落とす”タイプです?」
「いや、少なくとも体育祭2連覇と知ったからと言って戦闘しようと考えるやつじゃあないな。お前、何かしたのか?」
「何もしてないっすよ。………あー、まさかなぁ…」
「?まあいい。くれぐれも無茶しないように」
「はーい」


「ガチでやらないと私も危ないからガチでやるぞー」
「ハッ、当たり前だ。手加減したら殺す」
「手加減どころか余裕すらないっての」
 普通科の人間はまずグラウンドβに用はない。だからここに来るのは初めてだ。街を模したその場所はまさにヒーロー科がヴィラン退治や救助訓練の為に使うんだろう。ちゃんと信号とかに電気通って妙なこだわりを感じる。より現実に即してないと授業にならないからかな。
 爆豪の爆破も私からすれば手がボンボンなっているだけ。だけど、爆破で壊れたコンクリの破片は個性で作ったものに入らないから当たればダメージを食らう。ヒーロー科だけど今回はガチの戦闘で、街への被害は考えていないらしい。爆破が通用しないと分かると動揺することもなく、ビルをぶっぱして瓦礫で攻撃してきたり、個性使わず純粋な力で攻撃してきたりした。まあ先に個性の話してたしね。最初私に爆破向けたのは確認のためだろう。個性が効かないからこそ求められるのは身体能力による力業。これでも昔はヒーロー目指してたんだよ一応。その時の習慣が未だ抜けきらず、体術は極めに極めてる。
「はぁ、はぁ、おま、まじタフネス」
 爆豪の背中に乗せた膝にぐっと力を籠める。地面に爆破向けて上体起こされたら面倒だ。膝と背中の間には爆豪の左腕が、右手で爆豪の右手を握り地面に縫い付ける。両方とも手の平は上を向いてる。これで爆破されても私はノーダメージだし、地面にぶっぱされる心配もない。左手は爆豪の頭を地面に押し付けている。顔を横に向け左目だけで私を睨み上げる爆豪にニヤリと笑う。興奮状態、アドレナリンがバンバン出ている。ぐっと力を入れた左手の感触に、見当違いな感想を持った。
 この程度で終わる男じゃないから警戒はずっとしている。でも手触りがいい。圧を掛けていた左手を緩め優しく頭を撫でた。
「!!??」
「うわめっちゃ髪さらさら…」
「っ!クソが!!!」
「いっ!」
 爆豪は思い切りひざを曲げかかとで私の背中を殴った。痛みで右手の力が緩み、その隙に手を離され地面にぶっぱした。反動で爆豪の身体が少し浮きバランスが崩れる。掴まれる前にとすぐさま離れ距離を取った。爆豪の攻撃に備え構える。
 体育祭のトーナメント戦は障害物が無い中の戦闘。ここは障害物だらけで、背の高い建物もの多い。しかも相手は爆豪。上から降り注ぐ瓦礫やガラス片を食らったら一溜りもない。だから避けるしかないのだが、爆豪はその隙を狙っているのは明白だ。
 相手の爆風をむしろ利用してその場から跳躍し着地しようとした。しかし瓦礫に足を取られ思い切り捻った。
(ま、じか!)
 それを狙わない爆豪じゃない。思い切り殴りかかってくるのを左腕で防御したが、爆風の勢いもあり吹き飛ばされた。ビルにたたきつけられ、痛みで息がつまる。とどめを刺さんと爆豪がボンと両手を爆破させ勢いよくこちらに飛んできた。避けるべく身体に力を入れた。口角を上げ先ほどまでとは打って変わり余裕そうな爆豪にたらりと頬に何か流れた。
「死ねええええ!!」
「そこまでだ」
「あぁ!?」
 ひゅんと飛んできた白いものは爆豪を巻き付け静止させる。見覚えのあるそれにきょとんとしながら爆豪と同時にその方向を見れば、毛を逆立て赤い目をした相澤先生が捕縛武器で爆豪を止めていた。
「んでとめんだよまだ時間じゃねえだろ!」
「はぁ…消谷、お前説明してないのか」
「本気な相手に水差すようなことしたくないじゃないですか」
「馬鹿か、いや、お前は馬鹿だ」
「ひでぇ」
 どさっと座り込む。今はまだ興奮状態だから痛みはないけど、後でヤバそう。たらりと頬をまた何かが流れた。触れると血だった。頭切ったくさい。
「爆豪、この馬鹿ばあさんとこ連れていけ」
「馬鹿馬鹿言わんでくださいよ」
「お前は馬鹿だ、合理的じゃない」
「私の精神に10のダメージ」
 動けるうちに行ってしまわないと、痛み感じたらヤバそうだなと立ち上がる。足捻ったけど存外しっかり立てるし歩けそうだ。

 おせぇんだよと途中から爆豪におんぶされて保健室に連れていかれた。担ぐ方が似合うぞ爆豪…。
「あんったは本当に馬鹿だね!全くこんな怪我して!!」
「ひいぃリカバリーガール激おこ…」
 爆豪の治癒を早々に終わらせ、リカバリーガールは私の手宛てに移る。服を脱がないといけないから爆豪は一旦保健室を出た。帰っていいって言ったけど、「帰るかよ」と待っていることを伝えられた。
 包帯塗れで保健室を出た。リカバリーガールにはこってり絞られた。反省はしてるが後悔はしていないっとドヤ顔で言ったら益々絞られた。いや、あ、はい、スミマセン。
「治癒も効かねえってことか」
 包帯塗れの私に顔を歪ませた爆豪は、治されていないその身体と私の個性から答えを導いた。そうなんだわ、と答えるとぐっと眉間にしわを寄せた。
「戦闘ふまえると先に取るのは正解ってのは、こういうこと。治らないと次戦えないしね」
「…何で言わなかった」
「君優しそうだから気ぃつかうかなって。全力の相手に手加減するなんて嫌っしょ?体育祭見てたらわかるよ」
「………………」
「まあ気にしなさんな。普通科だと戦闘なんてまずしないし、楽しかったよ」
「てめえにメリットなんざねえだろ。何で受けた」
 何故か、その答えを言えば私は戦闘狂とか思われそうだ。事実割と戦闘狂というか、血の気が盛んなところあるけど。
「んー、ヒーロー目指してないけど、やっぱ強くなっておくに越したことないじゃん。この個性ヴィランに狙われやすいから自衛できないといけないし。体育祭で優勝しちゃったから驕ってる自覚あったんだよね。これで打ちのめされるのもありかなと」
「…マゾか」
「どちらかというと?」
「きめぇ」
「君容赦ないね。そういう気を遣わないところは割と好きだけども」
 にしてもエリちゃんのサポート任されてるのにこの状態って、あ、だからめっちゃ馬鹿って言われたのか。リカバリーガールには今夜あたり熱が出るだろうって言われて冷えピタと解熱剤貰った。帰る前に自販機で水買ってっか。
「って、どした?」
 歩くスピードの遅い私に歩幅を合わせて歩いてくれていた爆豪が立ち止まっていた。口をパクパクさせながらギッと睨んでくる。その顔はどことなく赤い。
「てめっ…クソ!死ね!」
「突然の罵倒」
 爆豪はズカズカ1人先に歩いていった。その後ろを身体に負担が無いようゆっくり追いかける。先に歩いていった割に歩幅は段々狭くなり結局隣を歩いている。
(…まさかとは思ってたけど、そのまさかだったか…?)
 見た目が美人なわけじゃない。けれど告白されたことがあるし、自分はモテる部類に入るんだろうなと理解してる。自分のことに鈍感、なんてことはない。要素を組み合わせればその考えに行くのは容易かった
 どうやら爆豪は私が好きらしい。そしてそれを自覚してる。
 切れたブレスレットを拾い渡して、そういうのが好きなのかと聞いてきたこと。そして数日後にブレスレットをわざわざ買ってプレゼントしてくれたこと。お礼したいという言葉にいらないと言わず連絡先を要求したこと。教わるほど馬鹿じゃないのに教えを乞うたこと。今回の戦闘は何でか分からん。とはいえ恋愛感情の籠っていない「好き」に明らかな動揺を見せ顔を赤らめた様子から、ほぼ確実だろう。
(…もうちっと様子見て見るか…)
 爆豪に対して恋愛感情は今のところない。そもそも爆豪が私とどうなりたいのか分からない。


爆豪:おい
爆豪:生きてんだろうな
シン:勝手に殺すんじゃない
爆豪:まだ熱下がらないんか
シン:相澤先生ェ…
爆豪:今回はばあさんだ
シン:リカバァ…
爆豪:んで熱は
爆豪:おい、返事しろ、無視すんなや
シン:計ってた。平熱まで下がってた
爆豪:食欲は
シン:君は私のお母さんかな?
爆豪:んなわけねえだろ!!
シン:ごめんごめん、性別的にお父さんだね
爆豪:そうじゃねえ!
シン:おふざけは置いといて。先輩命令だ、放課後チネラルヲーターよろしく
シン:ミネラルウォーター
爆豪:仕方ねえから買ってきてやるよ、チネラルヲーター
シン:誤字ったんだよスルーしろよ!
爆豪:チネラルヲーター
シン:遊ぶな
爆豪:ほかに欲しいもんないんか
シン:思い浮かばないからない
爆豪:そうか
シン:私2-Cの寮にいないから、場所は相澤先生に聞いて
爆豪:あ?なんで
シン:先生に聞きゃわかる


「……………」
「んだよその目は、文句あんのかよ」
「いや、悪い。爆豪がそこまで気にしてるとは思わなくてね」
「気にしてねぇ!!」
「命令されたからって聞くような人間じゃないだろお前は。まあいい、着いて来なさい」

「あれ、相澤先生もいる」
「熱は下がったようだな」
「おら、この俺が買ってきてやったぞ」
「俺様か。わーゼリーもあるじゃん、気ぃ利くね流石だよ、マジありがとう」
「るせー、ついでだ」
「………………」
「先生目ぇかっ開かないでください、地味に怖え」
「……しっかり休めよ消谷。エリがしょげてる」
「うぃっす、ご迷惑おかけします。爆豪もありがとね」
「………………」
「爆豪?」
「クソ!死ね!」
「突然の罵倒」

「意外っすよね」
「…気付いてるのかお前」
「鈍感キャラじゃないんで。彼のことそこまで詳しくないから、私より詳しい人から見るとどうなのかなと思いまして」
「俺を使ったな?いい度胸だ」
「痛い痛い腕掴まないでください!」
「俺から見ても、まあ、そう見えるな」
「やっぱそうっすよねー、試しに熱で火照った顔のまま若干目を潤ませて見上げながらお礼言ったら、欲情されましたよ、これはガチっぽいです」
「…………お前あれ狙ってやったのか」
「女は女優っすよ。つっても後でやった自分にめちゃくちゃ気持ち悪くなりました」
「……………お前、怖いな」
「ガチで引くのやめません?」
「爆豪の純情弄んだら許さないぞ」
「何その親友ポジみたいな台詞、いたたたた!頭握らないでください!」
「んでお前はどうなんだ」
「いってー…。ぶっちゃけ自分面食いなところあるんで、あの美形に告白されたら割とOKしちゃいそうなんですよね。不器用だけど優しいし気は遣えるし。爆豪がどうなりたいかも分からないんで、今は様子見ってところです。私自身も含めて」
「爆豪はヴィランに狙われた。うちのクラスは未だ狙われてる」
「分かってますって、私も狙われる可能性が出るってことですよね。1年ほどじゃないけど体育祭で全国放送されてるし。つか相澤先生相談しやすいんで今後何かあれば相談していいですか?」
「……………」
「面倒そうな顔しないでくださいよ」
「そういうのはミッドナイトさんの方が聞いてくれるだろ」
「爆豪の心中明かすんです?本人の知らないところで?」
「………偶にだぞ」
「わーい、ありがとうございまーす」