そうきたかぁぁ!!

入学式

 在校生は入学式は出席しなくてもいい。でもほとんどの生徒が登校している。その理由はいたって単純、部活の勧誘だ。
「おいおい聞いたか!?」
「なんだよ木下」
 サッカー部の看板を持つ木下がバスケ部の看板を持つ俺に興奮気味に声をかけてきた。
「学校説明会で来てた可愛い子いるらしいぜ!」
「いや誰だよ」
 俺の代わりに木村が突っ込んだ。木下は有り得ないという顔で俺たちを見る。
「見てねえのかよ…すげえ噂になってたのに」
「学校説明会のときは部活だったからな、バスケ部は」
 彼女募集中と喚いている面食いの木下にとっちゃビッグニュースかもしれないけどあまり興味がわかない。みゆみゆが一番だ。
「新入生来るぞー!しつこい勧誘しないように―!」
 陸上部の顧問が勧誘の為にいる俺たちに向かって大声で叫んだ。各々の部活がそれに返事をする。バスケ部は人数よりもやる気のある奴だけ入って来てくれればそれでいい。今の2,3年にマネージャーがいないから、練習時間を増やす為にもマネージャーは確保したい。
 春休み中にあった入学説明会の時に教科書は配られているから入学式の今日新入生は身軽の筈だ。だからこうして勧誘ができる。重たい教科書持って勧誘されちゃ流石の新入生が可愛そうだ。逆の立場なら鬱陶しいと思う。
 緩やかに流れてくる新入生に向かって「男バスはここでーす」と木村が声を張る。仮入部に参加する人向けの男バスのスケジュールと、ただ興味がある人向けのビラが用意されている。インハイに出てる秀徳のバスケ部に興味あるだけで来るような奴は正直いない。マネージャーは別として。
「おい宮地!来たよあの子だよあの子!みゆみゆより可愛くね?」
「あぁ!?みゆみゆが一番かわいいに決まってんだろ轢くぞ!」
「まあまあ見てみなって、ほらあそこの、黒髪の女の子…隣の男子と仲良さげだな…まさか彼氏!?」
 指さされた方向を見れば新入生がごたごたになっているし黒髪の女子なんてそこらじゅうにいて分からない。木村も「分かんねえな」とそうそうに探すのをやめた。人ごみで木下も直ぐに見失ったらしく「ああ!麗しの美少女!」と神奈川の強豪校のSGみたいなことを言っていた。
「すみませーん!入部希望なんですけど」
 バスケ部の看板に現れたのは黒髪短髪、お調子者っぽそうな男子生徒だ。どこかで見覚えがあるような気がする。
「男バスで間違いないな?」
「はい!お、マネージャー募集してるってよ!降谷ちゃんやらない?」
「マネージャーかぁ…高校は何か入ろうかなって思ってんだよね、考えてみようかな」
 大坪がスケジュールの紙を男子生徒の方に渡す。その隣にいた女子生徒にこの子が例の子かと納得した。セミロングの艶やかな黒髪、健康的な白い肌に綺麗な蒼い瞳、他の女子生徒に比べて目を引く容姿だ。綺麗系か可愛い系かで言うと可愛い系。確かに可愛い、騒がれるのも理解できる。
「マネージャー興味あるの!?サッカー部とかどう?名前なんて言うの?」
 目を輝かせ木下がぐいぐい迫った。女子生徒は困ったように笑った。
「マネージャーやるとしてもサポート業務したことないので、よく吟味したいと思います。ビラ頂いていいですか?」
「あげるあげる!あ、俺サッカー部副キャプテンの木下大悟!3年2組ね!」
「おい木下、新入生困らせんなよ」
 出会って間もないぐいぐいくる先輩に困っている女子生徒に助け舟を出す。木下が「なんだよー」と不満を漏らした。
「バスケ部のビラも頂いていいですか?」
「あぁ、はい」
 ありがとうございますと受け取った女子生徒の手はすべすべしていそうで綺麗だった。失礼しますと一礼をして2人は歩いていった。
「降谷ちゃんならできるっしょ、出来過ぎてドン引きされるでしょ」
「高尾、それ褒めてないよね」
 聞こえてきた会話から女子生徒か降谷、男子生徒が高尾だと知る。
「…思い出した、高尾って全中5位のPGだ」
 同じく会話が聞こえていた大坪が高尾の正体を当ててくれた。監督が目を付けた生徒のリストにあった名前だ。キセキの緑間が印象強すぎて忘れていた。
「っつーことは入部確定っぽいな」
「どんなプレイすんだろうな」
 監督が目を付けるほどだ、緑間ほどではなくても何か持っているに違いない。今年の一年は骨があるといいと祈るばかりだ。


 他に比べて特別親しくても怪しまれない先輩や同級を作っておいた方がいい。その判断から高校では部活に入ることにした。昨日の入学式で貰ったビラを、頬杖を突きながら眺める。
「どこ入るか決めた?」
 同じ中学校出身はばらけると踏んでいたけど意外にも高尾とはクラスが一緒になった。勿論、高尾はバスケ部一択だ。
「バスケ部のマネージャーにしようか割と真剣に悩んでる」
「マジ!?やろうぜー!高尾ちゃんめっちゃ喜ぶ!」
「そういわれっとやる気無くす」
「ごめんってwwでもマネしてくれんならすげー助かると思う」
「私に期待しすぎじゃない?」
「だって降谷ちゃんだし」
 なにがだってだよおい。ハイスペックに言われると複雑なんだけど。仮入部は今日からもう始まってるらしいし、さっそく行ってみようかな。


 宮地兄弟が勧誘にいた理由が分かった気がする。あの見た目だもんな、そういう考えで入るマネがいてもおかしくないって感じか。そこから篩にかけるんだろうなぁ…。残ってくれればラッキーの感覚かもしれん。私含め5人も志望したマネージャーは仮入部が終わる1週間後には見事私のみになってしまった。仮入部でも容赦ない厳しさに音を上げたのが2名、宮地先輩に怒鳴られて折れたのが2名。
 仮入部期間に他の部活からも当然声がかかった。マネージャーだけじゃなくて助っ人関係で知ったらしいいくつかの部活から「是非!」と勧誘された。正直あまり興味がわかず、若干のミーハー心が勝ってバスケ部のマネージャーになった。
「最後、マネージャーの紹介」
「はい、マネージャーさせていただきます。1年降谷理桜です。皆さんが練習に励めるよう精一杯マネージメントしますので、宜しくお願い致します」
 宮地効果か、仮入部中に無駄に絡んでくる部員はいなかった。どちらかというとマネージャー業務中に他の部活の生徒に声かけられて困った。適当にいなして支障は出さなかったけど。
 生緑間、生宮地兄弟、生大坪主将に生木村パイセン。荒ぶる心を抑え至極丁寧に接していた。いつまでも抑えないよう早く慣れなければ…。