そうきたかぁぁ!!
卒業式
数日食欲不振が続いたけど2週間もしないうちに通常のご飯は食べられるようになった。甘いものやお菓子は既製品でもダメになったのは言うまでもない。嫌なトラウマを抱えてしまった。長い間休んだ私を心配する声に「夕飯が当たって食中毒」と嘘を吐いていた。もらったお菓子は全部食べたことになっている。ただ相手が誰であれホワイトデーをあげる気になれず、何て言われもいいやと開き直って「お返しできない」と宣言した。お返しよこせなんて催促するような人がいないのがせめてもの救いだ。
ホワイトデーから大して日を跨がず卒業式を迎える。これを着るのも今日が最後かーと鏡の前でくるりと回ってみた。
「卒業式、行けなくてごめんな」
仕事でどうしても行けないと申し訳なさそうに眉をハの字にする兄貴の頭をわしゃわしゃした。ゴールデンレトリーバーを撫でまわしている気分だ。キューティクルヘアーマジサラサラ。
「あんな撮影パラダイスに行ったらヤバいでしょ、兄貴的に。それに私の妄想アルバムじゃ兄貴とのツーショット写真めっちゃ保存されてるから大丈夫」
「…敵わないな、理桜には」
兄貴がどこに所属しているのか直接聞いたことはないし言われたことも当然ない。ただ察しているだけで、兄貴も察しられてることを知っている。ひろみつ君の件があれば否応なしにも気づかれていると分かるよな。
「卒業パーティ終わったら早く帰るんだぞ」
「はーい。一応パーティ前後と帰ってきたらLIMEいれとくね」
「そうしてくれ」
先に家を出た兄貴を見送り、掃除と洗濯を終えて私も家を出た。
「降谷さん!好きです!!第二ボタン貰ってください!!」
「ごめんね。まだ特別を作る気はないんだ」
このやり取り何度目だろう。そしてもはや最後だからと人前で堂々と、前にもフッた人も含めて告白してくる男子生徒…偶に女子生徒を悉くフる。ようやく落ち着いたころに青井ちゃんと山田ちゃん、高尾がきた。
「流石」
「いや何が」
「ほんと最後の力すげえ」
割と真面目にドン引きしている高尾に「誰よりも実感してる」と遠い目で答える。告白の前は「一緒に写真撮ってください!」列ができてて、本気で帰りたくなった。兄貴もこんな感じだったのかな…今度ひろみつ君にも聞いてみよ…。
卒業パーティは気持ち的には穏やかに終わった。卒業式後も、パーティの時も連絡先を知りたがる人たちには申し訳ないけど「この日に限って携帯忘れちゃった」と嘘を吐いた。中学は携帯の持ち込み禁止だから誰も私の連絡先を知らない状態だ。
「そういえばずっと気になってたんだけどさ、降谷ちゃんの親ってどれ?」
田中がオレンジジュースを飲みながら聞いてきた。近くにいた人も「そういえば知らないな―」「気になるー」と興味津々だ。親、両親はもう他界してるけど祝いの場でんな空気重たくするこたないよな。
「どうしても来れなくて来てないんだ」
「マジか、卒業式もこれないほど忙しいって何の仕事してるの?」
「親と仕事の話ちゃんと聞いたことなかったなぁ…公務員だったような。親から仕事の話ってあんまり聞かなくない?」
「言われてみると俺も細かく何してるか知らねえや」
「うちなんか「仕事場に来られると嫌だから」って教えてもらってないよー!飲食系の仕事ってのしか分かんない」
嘘は言っていない。死んじゃったからどうしても来れなくて来てないし、8歳の時に死んじゃったから漠然と公務員だったような気がするだけで、どんな仕事してるかちゃんと聞いたことはない。そのまま話の話題を逸らして、最終的に「マジバで一番おいしいメニューは何か」になった。その隙にするりと会話の輪から抜ける。
卒業パーティが終わりみんなは親と一緒に帰っていった。私も感づかれないようそれとなく帰路に着いた。