そうきたかぁぁ!!
中3
降谷零の妹として中途半端な高校には行けない!!一番最寄りの進学校は…霧崎第一…だと…?
「クロスオーバーかよぉぉぉ!?」
「出たww降谷語」
「そういえば高尾いるじゃあぁぁん!!!」
「俺がなんだよwwww」
進路希望調査が配られ漸く調べた、家から一番近い進学校がまさかの霧崎第一…。そして今年同じクラスになった高尾があの高尾だと漸く認知した中三の春…。
「あのハイスペックカレシの高尾がまさかお前だったとは…」
「は!?」
「え!?降谷ちゃん高尾と付き合ってるの?」
「え?私じゃないよ」
「ちょっとまって俺誰とも付き合ってないから!何言ってんの!?」
「ああ、こっちの話だから気にしないで」
「超気になるんですけど!!」
「降谷ちゃんの中で高尾が誰かと付き合ってる…」
そういえば記憶にある高尾と同じ気がする…原作一回しか見たことないし残り2巻で終わりってところまでしか読んでないから最後まで読んでないけど…ゲンドウポーズでじーっと高尾を見つめる。
「そういえば高尾だったな…」
「意味分かんねwwwんで、降谷ちゃん霧崎第一行くの?」
「どーしよーかなー…お坊ちゃんってイメージあるしなぁ…」
いやでも花宮真見てみたいな…黒バスで好きなキャラトップ3に入るうちの一人だし。学年違う時点でまず会える可能性は低いか。
「ねね、俺秀徳に行こうと思ってんだけど、悩んでんなら学校説明会一緒にいかね?」
高尾はやはり秀徳に行くんだな。秀徳にもトップ3の一人いるしありっちゃありだな。なんてミーハー心だよ。
「秀徳って徒歩圏内だっけ、最寄り駅どこ?」
「〇×駅」
「めっちゃ徒歩圏内じゃん。行ってみるかぁ」
何故かガッツポーズをした高尾に「どんだけボッチ嫌なんだよ」と突っ込んだら何故か複雑そうな顔をされた。隣の席の山田ちゃんが高尾に「ドンマイ」と慰めている。大丈夫だよ、高尾ならすぐ友達出来るって。
夏休みが明け殆どの生徒は部活を引退した。私は特定の部活に入らず助っ人としてそこかしこの手伝いをしてた。メジャーな運動部とか文化部ではなく、社体扱いで人数が足りない運動部とかコンクール出たいけど伴奏してくれる人いない!という音高を狙ってるサックス吹いてる友人の伴奏とか、何か色々手伝った。ニュースでどっかんばっかん爆発してる中継見て兄貴を労った。
勝とうが負けようが最終的に楽しかったと思えればいいと思う。後悔なんて何度したってしたりない。反省しようにも次が無い。だから次の日でも来年にでも「中学の部活は楽しかった」と言えればそれでいいんじゃないってのが私の感想。勿論みんながみんなそういうわけじゃない。
聞こえてきた男子生徒の会話は漸くすると「負けたのは高尾のパスが悪いせい」らしい。悪いタイミングというタイミングの良さを発揮した高尾はそれを壁の向こうで聞いてしまっていた。のを私は廊下で見た。泣きたそうな悔しそうな、それらを全部我慢したようなへらりとした笑い方にムッとする。彼らの間に入るには部外者だし、試合も見てないのに「そんなこというなよ!」とかそれこそ高尾を馬鹿にしているような気がするので、高尾の腕をとってその場を離れた。
「へったくそな笑い方してんなよ」
「はは…ちっと、堪える…」
「チームメイトに言われた悲しみも、言いたいように言われた悔しさも、責任全部自分のせいにされた憤りも、全部必要な感情だろ」
連れてきたのは体育館。教師陣の都合で運動部はどの部も今日はやっていない。半面コートの真ん中に高尾を放置し、鍵が閉まった倉庫をヘアピンでピッキングで開ける。バスケットボールを持って高尾の前に立った。
「終わったことうだうだ言っても変わんないし、口から出た言葉は冗談でも消えやしない。全部受け止めて消化して明日見るしかねえんだよな。っつーわけで、1on1やろう」
「ちょww文脈ww」
未だ無理して笑う高尾の顔面目掛けてボールを投げる。顔でなくちゃんと両手で高尾はキャッチした。
「高尾は内側で消化するタイプじゃないっしょ、発散させるタイプだろ、おらやるぞ。5本先取で負けたらジュース一本ね」
「はは…んじゃコーラ奢ってくれよ!」
バスケの為に鍛えてたわけじゃないけど運動神経は頗るいい。あの兄をして運動できませんとか言えねえよ…言えねえわな…。
身長差や男女差も相まって勝率は低い。だからといって手も足も出ない程ではない。視野の広さと経験の差をあえて利用し「こう動くだろう」と予測させその反対の行動をとる。そうすればシュートの1つや2つ簡単に入る。つっても身長差でまずシュートを防ぐのは難しいから、結局3-5で高尾が勝った。
「…俺のパスコースが悪かったなんて思ってない」
多分大会のことを思い返している高尾がポツリと零す。
「…………」
「全部が全部良かったって、そこまで驕っちゃいねえけど…でも…」
涙声で前髪をくしゃっと掴みそのまましゃがみこんだ。シュートされたボールのバウンドが漸く止まる。
「キセキだからって諦めなきゃ…もっといい試合…できた…!」
言えることは何もない私は、ぐずぐず悔しそうになく高尾の頭を泣き止むまでぽんぽん撫でた。
「キセキ相手にかなうわけねえんだよなぁ」
「負けるってわかってんのに高尾むきになっちゃってさ」
「前から思ってたけどあいついきなりパス出し過ぎなんだよ、ちゃんと出してくれればもうちょい点差なかったかもしんねえのに」
教室から聞こえてきたのはチームメイト…いや、元チームメイトの愚痴。全中、特にボロックソに負けたキセキの試合の内容だった。黙ってその場を去れなかったのは、廊下に降谷ちゃんがいたからだ。
(はなから諦めてたくせに何言ってんだよ…俺だけのせいじゃねえじゃん…つか降谷ちゃんぜってー聞こえてるよな、最悪…幻滅されたかな…)
込み上げる怒りや悲しみ、悔しさを全部抑え誤魔化すように降谷ちゃんにいつも通り笑いかけたらムッとした表情が帰って来た。降谷ちゃんは良く残念だって言われてるし、ぶっちゃけ俺もちょっとそう思ってるけど、黙っていれば凄く可愛い。
「へったくそな笑い方してんなよ」
俺としてはいつも通り笑ったんだけど降谷ちゃんからしたらそう見えなかったらしい。
「はは…ちっと、堪える…」
影で言われている内容も、降谷ちゃんに聞かれたことも、そんでうまく笑えないことを指摘されたことも。俺だって男だし?女子の前ではカッコよくいたいじゃん。降谷ちゃんは何を思ったのかムッとした表情のまま俺の腕を掴んで歩き出した。思ったより力強く引っ張られそのまま着いていく。
「チームメイトに言われた悲しみも、言いたいように言われた悔しさも、責任全部自分のせいにされた憤りも、全部必要な感情だろ」
抑えた感情を全部言い当てられ「どこに行くの」と聞こうとした言葉が詰まる。陰口叩かれたから叩き返す、高尾和成はそんなキャラじゃない。全部全部負の感情は抑えて消してきた。降谷ちゃんはその感情を「必要なもの」だという。
連れてこられたのは誰もいない体育館だった。
(何で部活してないんだっけ…あ、そういえば総体連がどうのこうので運動部の先生いないんだ、だからか)
鍵が閉まってるはずの倉庫をどうやったのか開けた降谷ちゃんはバスケットボールを持って俺の前に立った。
「終わったことうだうだ言っても変わんないし、口から出た言葉は冗談でも消えやしない。全部受け止めて消化して明日見るしかねえんだよな」
なんだかとてもカッコいいことを言っている。降谷ちゃんってこういうキャラだっけ…いつもの残念さはなくて、可愛いというより今はとてもカッコよく見える。
「っつーわけで、1on1やろう」
「ちょww文脈ww」
どうしてその発想になったのか分からず吹きだした。何となくまだ笑いに力が無いのは自覚済みだ。
「高尾は内側で消化するタイプじゃないっしょ、発散させるタイプだろ、おらやるぞ。5本先取で負けたらジュース一本ね」
高尾ってよく人のこと見てるよね、気を遣えるしムードメーカーだから一緒にいて楽しい、そうよく言われる。じゃあ俺は?俺を見てくれて、俺に気を遣ってくれる人は?その答えが目の前でニヤリと笑った。
「はは…んじゃコーラ奢ってくれよ!」
特定の運動をしていたわけじゃないのに降谷ちゃんは運動神経がとてもいい。聞いた話だと体力測定は全国レベルらしい。運動部文化部問わずよく助っ人として色んな部活や、個人的な手伝いをしているのをよく見かける。可愛くて運動も何でもできるってどんだけチートだよ。そんで普段の会話のせいで全部台無しになる降谷ちゃんは最高だと思う。台無し、どころか降谷ちゃんがどれだけ凄いかってのを気付いている人案外少ないんじゃない?そういうの表に出さないし。
身長差と日常的な運動経験の差を考えれば圧勝してもおかしくないのに、降谷ちゃんは3本シュートを決めた。そのシュートスタイルがお手本のようにキレイで、絶対に超えてやるとあの日誓った緑の頭を髣髴とさせた。
「…俺のパスコースが悪かったなんて思ってない」
あの場面で最適だと思うコースを選んでパスを出していた。今までだってそうだった。相手がキセキだから、出せるパスコースが厳しくなってしまっていただけなんだ。
「…………」
「全部が全部良かったって、そこまで驕っちゃいねえけど…でも…」
降谷ちゃんは何もしゃべらない。喋り辛さなんてなく、零れるようにあの時最も感じた不満を、愚痴を聞いて真っ先に思ったことをそのまま口から落とした。
「キセキだからって諦めなきゃ…もっといい試合…できた…!」
ぐずぐずと情けなくも泣き崩れ顔を上げられない俺に、降谷ちゃんは黙って頭を優しく撫でた。「高尾は頑張ったんだよね」と認められているような気がして、ますます涙が零れ落ちた。