そうきたかぁぁ!!

兄の独白

 12歳離れた妹は、何と言うか…かなり変わっている。
「ただい」
「怪我無し!盗聴器無し!香水の香り無し!硝煙の匂い無し!血の匂い無し!車は!?」
「…傷無し」
「All Green!OK!おかえりー」
 警察官になってから家に帰るとまず始まる確認。初めは本当に「何言ってんだ」と笑って済ませていたが…。潜入捜査官になってからは割と笑えなくなっている。何が怖いって、車以外は俺に聞いてくるんでなく一目見ただけで何故か分かるところだ。潜入捜査を始めて間もないころ、馬鹿なことに盗聴器引っ付けて帰って来た時は無言で裾の裏を指され、そこに見覚えのない白い物体がついていた時は顔面蒼白だ。幸い発信機は着いていなかったから家を特定されることはなかったが、あのまま普通に会話していたら間違いなく次の日は蜂の巣になっていた。外にある車は流石に玄関から確認できないので確認してくる。因みに嘘を吐くと直ぐにバレる。何故だ。
「そんなに動いてないならご飯先かな」
「…あぁ、うん、よく分かるな」
「皺が少ない」
 どこの皺だよ!!皺の付きづらいスーツを着ているのに何で分かるんだよ!!と最初は思っていた。最近は「まあ妹だしな」で済ませている。
 料理の手伝いをしていると母からよく聞いていた。両親亡きあと初めて妹の料理を食べた時は只管に疑問符を思い浮かべた。手伝ってた…?にしては作れ過ぎじゃないか…?仕事で毎日帰ることができなかったが帰る度に料理のグレードが上がっていくのが分かる。ほんと何になりたいんだ…どこを目指しているんだうちの妹は…。
両親が他界後、預けられる親戚も信用できる大人もおらず家に1人と寂しい思いをさせた…ことはなかったと今なら断言できる。両親が死んだ悲しみはあっても寂しいそぶりを見せなかった。見えないところでなんてこともなく、あるときはハッキング技術を身に着けていて、あるときは「仕組み理解できれば解体できるかなって」と爆弾を作っていて、またあるときは一体お前は何がしたいんだと突っ込むほど異なる言語の本を読み漁っていた。妹は妹なりに1人を謳歌している模様。兄としてそれはそれで寂しい。
 今日も今日とてどこの料亭だろうという夕飯をとる。妹の変わっているなと思う部分はこの夕飯の会話でも顔を出す。
「普通に帰って来たけど仕事落ち着いてるん?」
「比較的落ち着いていると思うぞ」
「はいダウトぉぉぉ!!5徹とみた!部下に帰るコールされたにノーパソBET」
「…後でURL送ってくれ…」
「よっしゃ!ひろみつ君にメール送ろうとしたらヤバい空気になったからおじゃんにしたんだよね」
「メール…ってあれお前か!!」
 NOCを疑われ始末命令が出ていたヒロが無事逃げおおせられたのは、幹部全員に突然送られてきた謎のメールのせいだ。

参詣の途絶えた【協会】
旅歩きの【ヴァイオリン弾き】
御像となった磔の聖女
君は何故、この境界を超えてしまったのか
 さぁ、唄ってごらん

 メールには開いただけで携帯をジャックするウイルスがしかけられており、意味深な文面から殆どの幹部が開いてしまった。携帯だと開く前にメールの文章の一部が見えてしまう。最初に見えた「参詣の途絶えた【協会】」の文字から、協会を古巣、参詣は情報と勘繰り「古巣へ送られるはずの情報が途絶えてしまった」=「NOCとバレてしまった」と勘違いした。そしてメールを開き全文を読んで、旅歩き=どこへ行けばいいか分からず逃げ回っている、ヴァイオリン弾き=ギターを弾けるヒロを指す言葉、ここまで解読してヒロがNOCバレしたと判断した。御像となった磔の聖女=NOCとバレ見せしめのように殺されようとしていることを示唆、境界を超えた=あの世へ行ってしまったのか、と更に解読。部下を手配し即刻ヒロを見つけ出したころに幹部からスコッチがNOCだから始末しろと言う命令が下り、偽装死体を用意して「バーボンがスコッチを殺した」ことにした。後になってあの謎のメールがヒロ以外の幹部全員に送られており、更に俺を含めメールを開いた全員の携帯がダメになってしまったのだ。スコッチの最後の悪あがきと判断され、メールの送り主を組織は探っていない。当然送っていないヒロは何のことかさっぱりわからず、とはいえ携帯はダメになってしまい送り主の特定を公安側も出来ない状態だった。ヒロには同じく謎のメアドから「逃げたほうがいいっぽいよ!!」となんとも軽いメールが来ていた。そちらから特定しようにも結局できなかったという。
「ひろみつ君のアドレス分かんなくて兄貴の携帯からもらおうとしたら、丁度兄貴宛てに始末がどうのこうのってメール来ようとしててさ。兄貴のメール漁ったらスコッチがひろみつ君のことだって分かってやべえじゃんって思って、メール一旦差し止めて、とりあえずひろみつ君に送ろうとしたメール送って誤魔化して、みたいな」
「どこから突っ込めばいいのか…」
 組織はもう探っていない、公安は特定できていない、バレたらどうするは効かない、というか本当に何を目指しているんだ妹は。
「あの文面は結局何だったんだ」
「サンホラの磔刑の聖女の最初の台詞」
 サンホラとは妹がDTMで作っている音楽のジャンルの一つだ。ジャンルと言っていいか分からないが、一つのアルバムやシングルの中でストーリーが展開されるミュージカルっぽい独特な世界観の音楽で、自分で作っているのに「Sound Horizonの曲だから私が作ったわけじゃないよ」と何故か否定する。まあ降谷理桜が作ったのではなくSound Horizonが作ったということにしておこう。俺の中では同じなんだけどな。
「また新しく曲作ったのか」
「童話を元にしたアルバム。前回のイドイドの続編的な」
「…後でCD焼いてくれ」
「別にいいけど、兄貴の好きそうなジャンルじゃないのに良く聞くよねー」
 お前が作ったからに決まってるだろ、と言うとどうせまた「だから私じゃないって」と否定するのが目に見えているので「嫌いじゃないからな」と答えた。いつも聞くジャンルではないことは確かだが、どちらかというと好きなほうではある。

降谷理桜(16)
 13歳年上のウルトラベビーフェイスな兄を持つ転生者。やべえ死ぬぞと幼少期から多方面を極め、17の時点で兄貴と同等レベルまで達した(本人は気づいていない)。両親は8歳の時他界。スポーツ・座学も軒並みカンスト。米花町が意外に遠く行かない。そもそも兄貴の邪魔したくない、死にとうない精神。
 兄とは似ず褐色の肌ではなく金髪でもない、似ているのは目だけ。あの兄の妹だけあって容姿端麗ではあるが「降谷語」と呼ばれるよく分からない言葉を突然言い出したり、突然「そうじゃねえんだよおぉぉぉ!!」と叫びながら崩れ落ちたりするため、「残念な美少女」と呼ばれている。ただそのおかげで高根の花感がなく友人は多い。言動のせいで忘れられがちだが超チートで頭脳明晰。