ポケットに入らないモンスター
6
注意すべきは間違いなく使役した未知の生物だ。どんな技を使ってくるか分からないし、現実世界からかけ離れた存在だから。ピンク色のカービィという生物は、現れた時炎を纏っていて、やはり何か持っていたと判断が正しかったことを確認した。他の生徒の体力測定はよく覚えていない。だから、使役している本人の身体能力については良く知らなかった。だからといって油断していたわけじゃない。ただ、甘く見ていたのは事実だった。
講評で知った彼女…渡世の動き。俺のいた周辺は階段を含め、俺の氷が張られていたりカービィが溶かしたことにより水浸しだった。階段を含め、俺の周囲も、倒れた障子の周囲も、だ。
(足音どころか気配すらなかった)
カービィの炎に対応しピカチュウとかいう生物が電撃を放つと分かってからそれに警戒していた。とはいえヒーロー志望、先に倒れたペアを放置するわけにはいかない。障子に2匹の攻撃が行かないよう庇いつつ相手にしていた。油断はしていなかった、ただ、間違いなく渡世の存在が頭から抜けていた。張られた氷に足を着ければパキりと音が鳴るはずだし、水浸しであるなら尚更音が響く。一気に間合いを詰められた、音もなく、気配もなく。
講評では2匹の行動が評価されていた。指示もなく動いたこと、息の合ったコンビネーション、渡世が来たことを気付かせないよう気を引いた動き。渡世はまるで漁夫の利といった評価を受けていた。でも、違う。
(一番注意すべきは、渡世本人だった)
後ろががら空きだという声に振り返った、氷ですぐ捕らえようにも障子を人質にされ、巻きんじまうから躊躇した。その瞬間を見逃さず電撃を食らい炎を食らいかけた。それでも確かに渡世の存在は気を付けていた。だというのに、一瞬視界から外れたその瞬間を狙われた。
(…足音どころか、気配すら…しなかった)
あの距離を一瞬で詰めた素早さ、足場の悪い中音も気配もなく近づく動き、ちょっとやそっとで身につくものじゃない。
彼女は、何者なんだろうか。
放課後、反省会と自己紹介タイムが行われた。爆豪や轟は先に帰ってしまったけど、他の人はみんな参加するみたい。
「へぇ!口田って動物と会話できるんだ」
こくこくと頷く口田は無口を通り越して喋られないんじゃないかと言うほど口を開かない。
「じゃああの子らの言葉も分かるん?」
個性が帯電という上鳴に大層懐いた…というより電気に惹かれたピカチュウは上鳴に抱っこされている。そしてカービィは葉隠からの餌付けでずっと飴を舐めている。
その2匹を指さし聞いてみると口田はしゅんとしながら首を横に振った。
「そっかー、まああの子ら生き物だけど動物ってよりモンスター的な感じだし、なるほどなぁ…」
口田は基本ジェスチャーか筆談で会話をしてくるようだ。わたわたジェスチャーする口田にけらけら笑って返す。
「いやいや、そんな気にしないで。動物と違うから分からなくて当然なんだしさ」
「……?」
「あー、もしかしたら有り得るかも…?そしたらあの子らの話し相手になったげてよ」
「!」
「すげぇ、何て言ってるか分からない相手を入学2日目にして攻略してる…」
爆豪を追いかけた緑谷が戻って来た。ちょいちょいおふざけが入りながらも、比較的真面目に反省会が開かれた。