ポケットに入らないモンスター
7
校門に見たことの無い人だかりがある。リュックに隠れていたピカチュウが肩口に、スポバに入ったカービィが少し開けたチャックから顔を出してそれを見た。
「ピカピィ…」
「いや…うん分かるよその気持ち」
あの中通るの嫌だ、というピカチュウに激しく同意する。ヒーローになったら何れこの子らも世間に知れ渡るだろうけど、資格を取得していない今はまだ外に晒したくないというのが本音だ。
「ピカチュウ、カービィ、苦しいかもだけど耐えてね」
「ピカ」
「ハァイ…」
リュックとスポバのチャックを、息苦しくないよう少し開けておきながら閉める。よし、と自分を叱咤して蔓延る人々に近づいた。私に気付いたリポーターが「見つけた!」とばかりにらんらんとマイクやカメラを向けてくる。
「あ!すみません一言いいですか!?」
「オールマイトが雄英の教師になったそうで、授業はどうですか!?感想お願いします!」
「オールマイトが教師になった感想を!!」
「ははーNo.1直々の指導嬉しいですー通りまーす通りまーす」
「あ!もう少しコメントを!」
掴まれそうになり避けたが、最悪なことにその手はリュックを思い切り掴み、引いてしまった。ジー!っと勢い良く開いたリュックからピカチュウが顔を出す。
「ピカピ!?」
「!!なんだこの生き物!?」
「カワイイー!」
突然向けられる数多の目とカメラ、ピカチュウの身体が強張ったのがリュック越しでもわかった。すぐさまリュックを前にしてピカチュウ事抱きしめる。
「何て言う生き物ですか!?」
「それも個性の力でしょうか!?」
「なんて個性でしょうか!?」
オールマイトの話聞きに来たんじゃないのかよ!押し寄せるマスコミを強引に押しのけなんとか校門を超えた。ダッシュで1年用の昇降口を通り抜け邪魔にならない廊下でへたり込んだ。
「あークッソマジマスゴミどもがぁ」
「ピィ…」
突然開けた視界と向けられた見知らぬ好奇の目とカメラにピカチュウは未だ怯えている。慰めるようぎゅっと抱きしめ撫でまわす。スポバからカービィも出てきて私の肩に乗り心配そうにピカチュウを見ていた。
「大丈夫だぞーピカチュウ、ここは大丈夫」
落ち着けるよう撫でていると肩が軽くなった。カービィがどこかへ行こうとしているのを咎めようと振り返ると、相澤先生がいた。
「ハァイ!ぺぽ?」
「はい、おはようカービィ」
会話繋がってるように見えるけどカービィは「あの人だかりはなに?」と聞いて居るだけだ。先生はちらりと私に目を向け、続いて腕の中で震えているピカチュウを見た。
「あ、おはよございます」
「おはよう。マスコミに何かされたか」
カービィは知ったる何か、相澤先生の長い足をよじ登り頭に落ち着いた。それを気にもせず先生は近づき私の近くでしゃがんだ。目線はピカチュウに向いたままだ。
「リュックに入れて隠しながら通ろうとしたんすけど、腕掴まれそうになって、躱したらリュック引っ張られてチャック開いて…あまりカメラ向けられなれてないんで怯えちゃって」
「なるほどな。…怪我はないか?」
「見たところなさそうですし私も大丈夫っす」
「ならいい。どうする、保健室行くか?そいつ落ち着かせた方がいいだろ」
相澤先生はピカチュウを心配してくれるらしい。その心遣いに心が温かくなる。食べ物釣られたとはいえカービィが懐く理由が分かった気がした。
「ピィ、ピカピ」
「だいぶ落ち着いたから大丈夫、だそうです。心配なので膝に抱えたまま授業受けていいすか?」
「妨害しないなら好きにしなさい」
「ぽよ」
「ありがとうございます、そしてカービィ、先生の頭から降りなさい」
「ハァイ」
いそいそ降りて床に着くとジャンプして今度は私の肩に乗った。
「ずっと肩だの頭だのに乗せて疲れねえか?重くはないが一日中はしんどいだろ」
「んー、慣れっすかね。今じゃ軽いと却って気になっちゃうんす」
立ち上がってスカートを整えて、右手でピカチュウ抱えながら左手でリュックとスポバを掴んだ。先生は教室へ直行ではなく職員室へ向かうらしい。そらそうか。先生に一礼して自クラスへ向かった。
他の人も色々聞かれたらしく、興奮してる人もいればうんざりしている人もいた。私はうんざり派です。
「召可ちゃん、ピカチュウとカービィ大丈夫だったん?」
カメラ嫌いを知っているお茶子が心配そうに声をかけてくれた。
「カバンで隠してたんだけどピカチュウがちょっとね、カービィは見ての通り」
「ハァイ!」
ピカチュウの震えは治まったけどまだ不安の様で私から離れようとしない。
「ずっと気になってたんだけど、ピカチュウとカービィはいつから渡世さんといるの?」
緑谷の腕は包帯が外れてる。昨日の怪我は今朝の治癒で漸く治ったらしい。どんだけ重たい怪我だよ…。
「カービィが…4歳んときで、ピカチュウは7歳だったかな」
「作り出してるんじゃなくて呼び出してる、んだっけ。どうやってるの?」
緑谷に他意はないことは分かってる。そんで彼はこれを人に言いふらす性格じゃないだろうってことも何となくわかる。とはいえその方法はこれまで誰にも…両親ですら知らない極秘事項だ。これまで再三その台詞を悪い方向の人間から聞いてきた私は思わず表情を落として聞いてしまった。
「それ聞いてどうすんの」
「えっ、いや、特に深い意味はない、けど」
しどろもどろに慌てる緑谷にちょっと罪悪感を覚えた。純粋に聞いてきただけで悪意は一切ないんだろう。
「ごめんごめん。呼び出し方法は秘密かなー」
「あ、そうだよね!僕こそごめんね!」
「君たち!授業が始まるぞ!席に着きたまえ!」
飯田の声で緑谷と麗日が自席に戻った。私の空気が変わったのを気付いたピカチュウが心配そうに見上げてくる頭をただ撫でた。