ポケットに入らないモンスター

5

 ヴィラン役…飯田じゃないけどヴィランらしく振る舞うか。
「ピカチュウ、カービィ、私たちは今からヴィランだ!全然嬉しくないけど今までの経験が役に立つ時が来たぞ」
 今までの経験、誘拐拉致強盗空き巣うんたらかんたら。ヴィラン相手は何度もしてきた。
「ピィカァ!」
「ぽよぉ!」
 ヴィラン役嫌かなって思ったけど存外乗り気だ。良かった。さて、1人は氷を使うってことが分かってるんだ。だったらこっちがすることは一つ。ウエストポーチからマッチを取り出し火をつけ「カービィ」と呼んだ。それだけで意図が分かるから決して馬鹿じゃない。ちょっと食べ物になると頭が緩くなるだけで。火のついたマッチを吸い込んだカービィはバーニングファイアなった。頭の冠や手から火が出ている。これで氷対策はOK。
 オールマイトのスタートの合図が聞こえた。合図から1分経っても氷は来ない。同じ手を2度使うほど馬鹿じゃないってことだな。向こうは索敵できる障子がいる。こっちの居場所は筒抜けって考えておこう。
 核があるのは5階。前で張ると場所を教えているようなもの。私は4階に、そしてピカチュウとカービィは3階で2人を迎え撃つ。100万ボルトにも灼熱の炎にも耐えられるという高性能通信機をつけている2匹から、彼らが来たと報告を受けた。カービィの能力はここでお披露目になるのはともかく、ピカチュウの能力はまだ彼らは知らない。しかもピカチュウは2人同時に電撃を食らわせられる。
 通信機から聞こえる戦闘音、それだけを頼りに彼らの戦況を脳内で再現する。こういう時人間の足音は聞こえやすくていい。そんでこの通信機の性能が頗る良い。サポート会社凄いな。
 ピカチュウの電撃はギリギリまでしない。物理攻撃しかできないと思っていれば勝利確定。まずは1人、確実に仕留めよう。
『ポヨォ!』
「!ピカチュウ!障子にボルテッカー!」
『ピカァ!』
 バチッと音が聞こえた。障子の「うぐっ」といううめき声が聞こえた。もろに入ったかな、『ピカピ!』ってピカチュウが成功したことを教えてくれた。索敵班が沈んだ。これで動ける。何もない部屋から出て激しい戦闘音のする階下へ足を向けた。足音を出したり気配を出したりなんてしない。小声でピカチュウに問いかける。
「轟と障子の距離は?」
『ピカ、ピカピカ!』
 ある程度離れている、そして轟は障子を庇いつつピカチュウの電撃に警戒している。更に、障子は階段側…私の方で倒れている。ニヤリと口角を上げ音もなく階段を降り、障子の背後から捕獲テープを首に巻いた。そして我ながら陳腐でヴィランっぽい台詞を吐いた。
「後ろががら空きだぜぇ?ヒーローさんよぉ」
「!しょう」
 何度ヴィランの手から逃げ出したと思ってる。カービィもピカチュウもノーモーションで攻撃は可能だ。轟が確実にこちらを捉えた、そして私は視線でピカチュウに合図を出した。…ピカチュウ、そんなあくどい笑み浮かべられるのね…。ピカチュウの10万ボルトが轟を直撃した。身体が痺れ動きが止まる。そこにカービィが炎を吐くが、ギリギリ轟が氷で電気諸共防ごうとした。再び私に背中が向いた。私が轟の死角に入った時点で私はすでに動いていた。ニッタリと厭らしい笑みを浮かべ、捕獲テープを首に巻きつけながら耳元で囁いた。
「だぁかぁら、後ろ、がら空き」
「!!」
『ヴィランチーム、WIIIIIIIN!!』
 2人にテープを巻いた時点で終わり。パッと身体を離し、身体をずらしてピカチュウとカービィにVサインをした。
「ピカピ!」
「ハァイ!ハァイ!」
「ありがとねー!いやーファイア効いて良かったねカービィ!」
「ハァイ!」
 一番の不安要素はカービィの炎が轟の氷に効くかということだった。溶けはするだろうけど凄く時間がかかったらどうしようって。瞬間的に解けるほどの高温のおかげで轟は上手いこと手こずってくれた。カービィは口からくるくる回る星を出すと同時にファイアを解除した。「えい!」とカービィが掛け声をかけると星はパリンと砕け散る。
「ぽよ?」
 カービィがちょっと不安そうに轟を見上げた。目を瞬かせる轟に通訳をする。ピカチュウはぎこちなくも動けるようになった障子の方へ走っていった。
「轟、怪我とか痛いところとかないかって」
「…あぁ…」
「ハァイ!ペポ!」
「ピカピ!」
「障子も無事か、障子ー大丈夫?」
 振り返って障子の元へ行く。少し頭を振った障子は「大丈夫だ」と存外しっかりした声で回答してくれた。
『講評をするぞ!モニタールームへ!』
 立ち上がった障子はふらつくこともなくしっかり歩いている。ボルテッカーのボルト数、ピカチュウ調整できるようになったんだ。肩に乗ったピカチュウに「えらいぞー」と頭を撫でると照れ臭そうに笑った。ところでカービィ、何故涎を垂らしながら轟の頭を見ている。それは食べ物じゃない。
 講評としては私ではなくピカチュウとカービィがべた褒めされた。…まぁ、そうよね、うん…私直接戦ってないし、縛っただけだし。カービィはオールマイトの髪型を見てバナナが食べたいと言ってくる。あとでね。ピカチュウは真正面からべた褒めされて「ピカピィ」と頭をかいて照れていた。誰かが「かわいい…」と呟いたのが聞こえた。
 今日の夕飯はトマトたっぷりのナポリタンにしよう。この子らトマト大好きだし、頑張ってくれたお礼に、久々に作るか。放課後に反省会するというクラスメートの誘いを断って下校した。