便箋にA4が1枚
行き着く先に救いはあるのか
第1事件
とある審神者が起こした初めての「ブラック本丸」案件であり初めて刀剣男士が審神者を斬った事件。思うようにならない現状に癇癪を起こし刀剣達を次々に自らの手で破壊。審神者の悪行を止めるべくやむを得ず所属する刀剣男士が斬った。とされている。初めて起きた事件で割り当てられた事件番号が「1」だったことから「第1事件」と呼ばれている。
審神者への批難とともに良くも悪くも「刀剣男士の人権」を考えさせられることになった。また主へ絶対服従と思われていた刀剣男士が審神者を斬れることに恐怖する審神者も続出。例え真っ当な運営をしていたとしても、慕われていたとしても、自分を簡単に殺せる存在がいることへの恐怖は拭えない。この事件を期に、曖昧だった刀剣男士との契約周りが見直され「契約を交わした審神者は斬れない」枷が追加された。しかしそれが仇となりブラック本丸を増やすことになる。
「思い通りにならなかった腹いせに刀を故意に破壊し報復を受けた」と知られているが、真相を知っているのは関わった職員と刀剣のみ。当事者の審神者名や斬った刀の名前は表に出ていない。
拝啓、今日の君の話
真相
第1事件の関係者である審神者:
溢れ出る恋の気持ちが零れ落ち誰かに気づかれないようにと、渡す予定のない恋文を認めていた。量が増え管理が難しくなり、捨てて誰かに見られるよりは燃やしてしまおうとする。
初期刀であり初鍛刀の歌仙兼定は焚き火を前にする主の姿を見る。手紙を燃やそうとしているのを何故か燃やしてはいけないと焦り止めた。「ままならないものだね」と寂しそうに零す主から話を聞いた歌仙は、人としての幸せより主として人生を歩む決意に敬意と、きっと綺麗だろう恋心が表に出ることのない悲しみに涙をこぼす。
主が恋を否定するなら、僕だけは肯定しよう。肯定したい、そう思った歌仙は「君の恋はきっと雅なんだろう。その雅を僕は見てみたい」と主の手紙を預かることを提案。誰にも見せないことを約束し歌仙は主からの手紙を預かっていた。
そんな国広は第1回特命調査「聚楽第」で配属された山姥切長義と幾度の衝突の末恋仲になった。2振りの交際は本丸公認で主である蓬も祝福した。きしむ心を無視して。
本丸襲撃も乗り切り、大侵寇でも1振りも欠けることなかった。しかし、母の危篤で現世に向かったまま帰らぬ人となってしまった。不慮の事故と不運が重なった結果だった。
長義と国広は政府所属へ、ほかの刀剣は刀解や本丸異動で別れとなる。歌仙だけは主の黄泉への旅路を追いかけるという。誰も止めはしなかった。
歌仙は主の恋を抱え追いかけようと思った。歌仙から主への思いは恋ではなく、友としての愛だけがあった。だからこそ、1人抱え死んでしまった主に、恋が破れても泣くことのなかった主に「つらかったね、でも頑張ったね」と言ってあげたかった。
主の恋を知っているからこそ長義と国広の恋を心から応援してあげられなかった。長義に対する「先に主のほうが彼を好きだった」「主なら彼をきっと悲しませなかった」という思いが出てしまう。そして同じくらい「主が身を引いたのだから、幸せになってくれなければ恨んでしまう」という思いもあった。
誰にも見せないと約束した手紙だった。主はきっと望まないだろうと分かっていたけれど、どうしても長義に八つ当たりがしたかった。だから歌仙は手紙の内容を長義にだけ読ませた。国広を想えば想うほど主を思い出すだろうという呪いでもあり、主として立ち続けた彼女の祝いでもあった。
「八つ当たりだ」と渡された手紙を長義は読む。本編は主の国広への想いが綴られた恋文を長義が読んでいる構成。幕間に歌仙視点や長義視点が入る。
手紙は最終的に歌仙が黄泉の道へ持っていく。
蓬
第2期世代の審神者。同期の審神者が刀剣男士への恋の果に自殺した事件のあらましを知っている。事件を知っているのは歌仙だけ。
転生でもトリップでもない純正の審神者。卑屈ながらも健気で優しい国広に恋をしていた。長義についての相談を国広から受けていたので、国広が長義へ恋をする過程をすべて知っている。
ポーカーフェイスが得意で、平安刀も政府刀も誰も主が懸想していることに気付かなかった。
全ての特命調査で「優」判定をもらえるくらいには優秀。刀剣との向き合い方や付き合い方、本丸の運営の仕方、人付き合いもよくストレスチェックも問題なしと言われていた。新たな世代の審神者が増えていくにつれ「最も理想的な審神者」「最も理想的な本丸」と政府内で評価されていた。亡くなった時はみながみな「本当に惜しい人を亡くした」と悔やむほど。
主を慕っている刀剣が他の審神者を主とするのが難しいことや、扱いに困ることが多いので基本的に審神者が亡くなった後は全員刀解処分。それが特例で刀解以外の選択肢を与えられたのは、「蓬の刀なら問題ないだろう」の信頼から。実際異動した刀剣達の素行に問題はなく、むしろ「襲撃事件」「大侵寇」を乗り切った刀として頼られている。
余談
第1事件の当事者:
歌仙兼定
主の恋を唯一知っていた刀。長義が手紙を読み終えたら手紙を持って主の火葬に混ざる。
国広と長義の恋愛を唯一祝福出来なかった刀。表向きは取り繕っていた。恋仲になった2振りに主が「素敵だね」とあまりにも寂しそうに、辛そうに言うものだから主の代わりに号泣。
主があまりにも泣かないので代わりとばかりにとても泣く。「涙もろい歌仙」と思われていた。自分が泣いてるんじゃない、主が泣いてるんだ。とは言わないものの。主のポーカーフェイスと極めた短刀ですら気付かない主の傷心にままならない。口では主一番と言ってもこうも気付かないものなのか、と実は他の刀に対する信頼度が低い。
山姥切長義
紆余曲折を経て写しと恋仲になった。歌仙からどうも喜ばれていないと薄々気付いていた。「戦時に恋にうつつを抜かしているから」「主を最優先しないのではないか」という疑念からだと勘違い。今回手紙を読んで歌仙の本当の気持ちを理解した。
主から祝福されていたと思っていたし、手紙の内容にも自分たちの恋に否定的な言葉がなかったので驚いている。「きっとこういうのが綺麗な恋というんだろうな」と思った。
手紙を読んだ後は今まで以上に国広を大事にするし喧嘩もしなくなる。主の想いの上に自分たちの幸福があるのだと強く感じている。手紙の内容も主や歌仙の想いも国広には言わない。
政府での識別名は「朝焼」で浄化部隊に所属。
山姥切国広
名前だけ出てくる修行済み写し。修行には本歌と恋仲未満友人以上のときに行った。
主や歌仙の本当の気持ちを最期までどころか恐らく一生知らない。それなりに勘は鋭い方なので、政府所属になって以降長義が今まで以上に大切にしてくれたり以前は恋仲になっても2振りきり以外は偽物くん呼びだったのに、政府所属以降は人目を憚らず国広呼びだったりは、主が死んだからではなくその後に歌仙に呼び出されたことが理由だろうとなんとなく察している。
主のことは勿論大事だった。ただそれはあくまで忠義を尽くす相手として。
突然死んでしまった主に深い悲しみと「幸福は突然消えてしまう」と、国広は国広で長義を今まで以上に大事にする。主に刀として使われ愛されていた自覚があるからこそ、主へしたかった恩返しがろくに出来なかったことを悔やんでいる。「相手にしたいと思ったことはすぐにするべき。いつ別れが来るかわからないのだから」の気持ち。そのおかげで政府では「とんでもない行動派」と認識されている。
政府での識別名は「蒼天」で怪異対策課に所属。
拝復、君の安寧を希う
真相
蓬は「知り合いの様子がおかしい、手遅れになる前に様子を見に行きたい」と何度も政府へ伝えていた。特命調査を控えて忙しい政府は見向きもしなかった。
新たに発足された監査部に配属された鶴丸国永は、職員伝いにその話を聞き髭切を誘って
蓬と連絡を取り合い、馬酔木が己の鶴丸に恋をしていたことをしり「心中では」と鶴丸と髭切は予想した。まだ事件の詳細がはっきりしていないにも関わらず、誰かの憶測が飛び交いそれが事件の全てだとされてしまっていた。
監査部は各本丸の戦力確認のために発足されたにも関わらず、その誰かたちのせいで本丸の運営を監査する部署と認識されてしまった。事件の解明を要求され、鶴丸国永が仕方なく担当することになる。
目を覚ました馬酔木は精神的にとても不安定な状態であり、発言や記憶に統一性がなくいわば狂気に陥っていた。とても話を聞ける状態ではないと頭を抱えていた時に、「鶴丸に懸想してたんなら鶴丸のふりをして手紙でもしてみたら」と髭切から提案される。
提案にのり馬酔木との手紙をやり取りを始めた鶴丸国永。1年かけて事件の詳細を知ることが出来たと同時に、馬酔木も正気に戻りつつあった。しかし精神的な不安定さは変わらず、やがて「自分の身勝手でみなを殺してしまった」「一緒に死のうと思ったのにひとりだけ生き残ってしまった」罪悪感と贖罪で自ら命を絶ってしまう。
馬酔木亡き後、遺品を現世へ送るために検閲していた膝丸が見つけたのは鶴丸からの手紙。本編は膝丸がその手紙を読んでいる想定で手紙の中身で構成されている。幕間に担当した鶴丸視点や髭切視点が入る。膝丸視点は最初と最後だけかもしれない。
馬酔木
第2期世代の審神者。家庭環境が頗る悪く人間関係にも恵まれず、高給取りだと親に売られるように審神者にさせられた。劣悪な環境下で過ごしてきた中で、自分を慕う刀剣達により「自分も生きる価値があるんだ」と少し前向きになれた。同じ本丸で研修を受けた蓬は人生始めての同性の友人。恵まれなかったせいでメンヘラ気質があり、しかし無下にすることなく親身に話を聞いてくれたり相談に乗ってくれたりした蓬への信頼は厚い。
驚きを提供する鶴丸を思わず叱ってしまい「嫌われちゃう」と焦るも「我慢しないでそうやって感情を出してる方が良いぜ」の言葉でころりと恋に落ちる。恋愛初心者で距離の詰め方を間違えながらも必死にアプローチ。昔であれば「自分なんか好きになるはずない…」と後ろ向きだったが、刀剣達に慕われていることに少し自信がついて「チャンスあるかも」と前向き。決定的に「付き合って」とはまだ言っていなかった。
初鍛刀で初期刀は秋田藤四郎。次いで来たのが乱藤四郎、鯰尾藤四郎、鳴狐、堀川国広、へし切長谷部。口下手で後ろ向きな主が前向きに考えられるようになったのはこの6振りのおかげといっても過言じゃない。しかしある出陣で全員折れてしまった。
心の支えを一気に失い蓬と連絡が取れないほど落ち込んでいた。刀剣達の支えで少しずつ前を向いていたが「自分の采で鶴丸が折れてしまう」可能性に気付いてしまう。
好きな人を自分の指示で殺したくない、本丸最強戦力の6振りですら呆気なく折れてしまった。
審神者を続けられない、でも鶴丸と一緒にいたい、でも、でも。
思いつめられた結果に心中を試みる。全員の顕現をとき「ごめんね、こんな主で、ごめんね、私幸せになりたかったんだ、大切なみんなを失いたくない、大好きな人を自分のせいで殺したくない、ごめんね、ごめんね」と泣きながら破壊していった。刀解ではなく破壊だったのは、この後自分が死ぬから一緒に死んでほしいという重い愛情から。
最後に鶴丸を破壊し、折れた鶴丸を心臓に刺した。はずだったが心臓に届かず致命傷にはならなかった。
鶴丸国永-馬酔木本丸
主に懸想されていることを知っていたが、主へ恋の気持ちは抱いていなかった。メンタルが弱い主だと分かっていたので、アプローチを蔑ろにしたりフッたりはしていなかった。ただ気を持たせたら申し訳ないとそういう行動は謹んでいた。
恋仲になっていたら支えられたんだろうかと思う反面、恋仲でないのにこうなってしまったのだから、いっそ辞めるのを引き止めなければ良かったと後悔しながら破壊された。
監査部
特命調査に先立ち発足された部署。戦力の確認を目的に発足されたが発言力の強い審神者が「ブラック本丸を摘発するための部署」と勘違い。第1事件が起きて正すどころか「まさに」と持ち上げられてしまい引くに引けなくなってしまった。
どちらにせよ今後同じことが起きるなら解明と対策をしないといけないが、相応の部署が無くやむを得ず対応。
特命調査に係わる組員を「監査部特命調査班」とした。特命調査ギリギリまでその存在は監査部の一部しかしらなかった。
鶴丸国永-監査部
雑談混じりに聞いた話に「まあ今ちょっと手が空いてるし、戦力確認の先駆けに見に行くのはありかもしれない」と、同じく暇そうな髭切を誘って馬酔木本丸に凸った。
事件の解明を頼まれ、蓬からの聞き取りから「どうせ心中だろ」と初めは適当だったが手紙を通して馬酔木の苦悩を知る。この事件を担当したから審神者への理解もある程度深まった。
ブラック本丸は瘴気にまみれ淀んでいるのに、馬酔木本丸優しい風に包まれていたこと。無傷の刀剣を折るのは審神者とて難しいこと。それが馬酔木の手に怪我もなく綺麗に折れていたのは、恐らく刀剣達は同意の上で折れたのだろうこと。それらに気付いたのは馬酔木が亡くなったよりも後、いくつかのブラック本丸を担当したときだった。
第1事件は「ブラック審神者」でも「ブラック本丸」でもない。優しく臆病で怖がりな審神者が苦しみの果に選んでしまった悲劇でしかなかった。審神者名は知られていなくても悪評ばかりが広まってる現状にままならなさを感じている。
髭切-監査部
同位体の中で特に人間に興味が薄い個体。戦力確認の方法は演練システムを利用した政府刀剣との疑似戦闘と聞いていたから監査部に異動した。スパスパッと斬りたい。
鶴丸に誘われて着いていったのは本丸の刀剣の強さがどんなもんか見てみたかったから。残念ながら見れなかった。事件の解明を頼まれそうになる面倒さを察知し鶴丸に押し付けた。
余談
監査部より怪異対策課のほうが沢山斬れそう、と後に異動。怪異対策の一環で現世に赴いた時に出会った人間に興味津々。どうやら怪異と沢山戯れている(正確には巻き込まれている)らしいので一緒にいればもっと斬れるかな?と政府に勧誘。水月(のちの燐灰。【とある審神者のお悩み相談室】の主人公)を政府に誘った張本人。
怪異対策課ではなく呪具課に行ってしまったのは残念だが、暇さえあれば構いにいっている。同じ部署の弟:膝丸はそれに付き合っている。
膝丸-検閲課
世話をする髭切がまだいない膝丸。いつか俺も兄者の世話をしたい。
政府から現世へ送るものをメインに検閲している。