愛する我が祖国の為
激動の始まり
轍という名字は名簿順で最後になる可能性が極めて高い。入学しての席順は専ら名簿順だろう。名簿が一番最後ということは、席順で一番後ろになる可能性、自分より後ろに人がいない可能性が非常に高い。計算通り席順は一番後ろでなんと1人飛びぬけている座席だった。隣もいないのは喜ばしい。
くぁっと隠さず欠伸をしながら黒板に掲示された席順を改めてみた。八百万、名家のお嬢様じゃないか。斜めには轟…エンデヴァーの息子。要警戒人物の1人目だ。彼の場合、ヒーローとしての素質がきちんと備わっているかという意味で警戒している。今はなき個性婚、エンデヴァーの処遇については長きにわたり議論が繰り広げられていたらしい。私が省に入る前の話だ。とはいえ父親として腐っていてもNo.2。オールマイトとの差は歴然ながらも実力やヒーローとしての心構えについて文句はない。
私と同じ列、前方から3番目…運も実力のうち、本命の名前に心の中でほくそ笑んだ。
(緑谷出久…実技試験は会場が違ったから個性が見れていないが、同じクラスならいくらでも見れるな)
違和感なく、不自然なく、観察させてもらおう。
「おはよう!ぼ…俺は飯田天哉!よろしく!」
ビシィっと腕を直角に手を出してきた男、飯田天哉。ヒーロー一家で兄はインゲニウムだったな。
「はよー、朝から元気だね。私は轍錬、よろぴー」
またも漏れ出た欠伸、手を当て口元を隠す。
「よろぴ…?」
「飯田ってお堅いね、まあいいや、よろしくってこと」
差し出した手は握手を求めているわけではないようで、ロボットの様にビシビシ手を動かしながら「ああ!よろしくな!」と改めて挨拶をしてきた。
席に着き先にいた八百万や轟にも自己紹介と挨拶をする。轟は随分興味無さそうだ。
HRの時間までわずかというところで本命が現れた。緑谷出久、写真で見た通り人畜無害な印象を抱かせる。後から教室に入って来た麗日への態度を見るに女子慣れはしていなそうだ。
「お友達ごっこなら余所へ行け」
彼らの話をぶった切り、クラスに沈黙が落ちる中黄色い寝袋をもぞもぞしながら教壇に立った男。
「担任の相澤消太、よろしくね」
(イレイザーヘッドか…昨年受け持ったクラス全員除籍してっから、想像は着いたがやはりそうきたか)
除籍してなければ今頃2年の担任だったろう。クラスがいないから1年を再び受け持ったってところか。
降谷と諸伏から話は聞いている。彼の個性もまた戦闘向けではない故に、降谷達と切磋琢磨して鍛え上げたと聞いた。つまり身体能力は降谷達に近い。
「さっそくだけど、これ来てグラウンドに集合」
寝袋から取り出したのは雄英の体操着。…あれ温そう…。
全員に体操着が渡され、私たちは言われるがまま更衣室で着替えてグラウンドに集まった。これから個性把握テストとやらを行うらしい。
(平均的な結果は知ってるけど…個性を使って良しとなれば、自身の個性を有効活用する頭が必要か)
目立つ目立たないではなく、個性をどれだけ有効活用できたかにかかるなら使い方を考えなければいけない。難しく考えずパッと思い浮かんだやり方でやっていこう。
走る系は走るというより飛んだ。反復横跳びは左右の足から出した衝撃波のバランスが崩れて微妙な結果に。扱いが良過ぎるのも問題だからな。握力や長座体前屈は普通に。
超パワーを持つ緑谷の成績は芳しくない。最下位は除籍、その言葉に焦燥を漂わせている。個性を使えば焦る必要もないだろう。ということは個性を使えない理由があるということ…。とはいえこのままだと除籍待ったなしだ。ソフトボール投げ、意を決したようにボールを握りしめていた。
(…漸く個性が見れ……)
ると思った。それを止めたのがイレイザーヘッドだ。ちょっと舌打ちしそうになった。クラスメートは個々で漸くイレイザーヘッドというプロヒーローだと気付いた。アングラ系だもんな、パッと出てこないのも不思議じゃない。それでもゴーグルと個性でヒーロー名が出てくるくらいには知名度があるわけだ。
それでも緑谷は諦めた眼をしていなかった。
(…ホォ?これは想像以上だったな)
結果は700m越え。人差し指にのみ個性を使い飛ばしたようだ。どう考えても身体全体に使った方が結果が出せそうなもんなのに。その答えは人差し指を見れば一目瞭然。随分リスキーな個性のようだ。
「ボール一投で指一本ってやべぇね」
「なー、すげえよな。ところで俺上鳴電気!君は?」
金髪の明るい男子生徒がサラッと自己紹介してきた。フレンドリーな性格、ムードメーカー的な存在になりそうだ。しかし個性帯電か…今回の個性把握テストじゃあまり使えないな。でも緑谷より結果は上だろう。運動神経の良さはこれまでのテスト結果で分かっている。
「轍錬ー、よろぴー」
「おうよろぴなー!」
そしてノリが良い。付き合っていて気が楽なタイプだ。ちょっとチャラそうな雰囲気があるのは否めない。
「最後、轍」
ソフトボール投げはボールの飛ぶ方向によって他の人の邪魔をする可能性もあるとかで、全員の前で1人ずつ行う。中々の公開処刑。いや、クラスメートの個性を把握させる目的もあるのかもしれない。
圧力波、この個性が最も生かされるのが恐らくソフトボール投げだ。ちゃんとやらないとそれこそ除籍されかねない。
「いっくぞー、……」
深呼吸。轍錬の身体能力を考えると、振りかぶって投げながら使うと方向が安定しないからそのやり方はよくない。両手でバスケのシュートをする構えをしつつ、バスケの様に真上ではなく前方方向へ構えた両手を伸ばす。
「てやあああああ!!」
ドォォン!!!!
鼓膜が破れそうなほどの衝撃音、身体が耐え切れず尻餅をついた。ギリ円の中、セーフ。ボールは見えない。
尻餅をついたままイレイザーヘッド…相澤先生を見上げる。先生はタブレットをじっと見つめた後、画面を見せてきた。
「1028㎞。その辺りで撃ち落とされている」
「1028!!??すげぇ!!」
「つうか撃ち落とされてるって…」
「国外に飛んでいったんだろう。レーダーか何かに引っかかって撃ち落とされた可能性がある」
方向的にアジア。中国辺りで感知されて落とされたかも。結構飛ぶな。加減できなきゃ色々吹き飛ぶ…。もっとしっかり調整しないとダメか。ソフトボール投げは麗日に次ぐ2位の結果。まあ悪くない成績だ。ダッシュに使うさいに人体が吹き飛ばないくらいの調整はできるから、轍錬の努力次第だろう。
個性把握テスト、結果は8位と中々の好成績。八百万の万力は流石に敵わないって…。最下位の名、緑谷出久にちらりと当人を見遣る。覚悟は出来ていたらしく驚きの表情は無かった。
「除籍処分は嘘な。君たちの個性を最大限発揮させる合理的虚偽」
……いやあれはぜってー本気だった。八百万は「ちょっと考えれば分かる」と言っていたけれど、昨年一クラス除籍している事実を知っている身からすればまさしく「珍しい」の一言に尽きる。
(…それだけ緑谷出久は見込みがあると考えているのか…)
こちらの先入観がないイレイザーヘッドはそう捉えている。緑谷が黒か白か見極めるポイントの1つが担任である相澤先生、正確にはヒーローであるイレイザーヘッドの評価だ。一先ず入学初日、イレイザーヘッドは緑谷出久をヒーローとして見込みのある生徒として見た。
超パワーにしてはリスキー過ぎる個性。初日にして報告内容のインパクトが随分デカいな。ボール一投であの怪我なら、もし個性が発現してからあれを使用していれば病院に掛かっている筈だ。調べてみるか。
特務公安省は直接的にヒーローと関わることはほぼない。必ず間にヒーロー公安委員会だの警察だのがいるのだ。オールマイトも同様、ヒーローとしての人間性は大衆が抱いているイメージやメディア、委員会や警察から聞いたものだけになる。オールマイトが素直で嘘を吐けないヒーローらしいヒーローだというのは初めから分かっていた。だからこそ…あからさまな態度に拍子抜けした。
(オール・フォー・ワンの手駒線じゃねえな、まさか風見の言ってたお気に入りの方だったとは…)
他の生徒に比べ緑谷を見る時間が長い。上に何か他とは違うものを思っている。コスチューム初お披露目、オールマイトによる初授業、入学2日目にして緑谷出久が白だと断定できそうだ。…個性については調査継続に変わりはない。敵ではない、オール・フォー・ワンの仲間ではない、これが分かれば不安要素の一つが無くなったようなもんだ。
1-Aは奇数クラスだ。だから2vs2のこの授業は1人あぶれる。お得意のPlus Ultraで2vs3にするのか、まさかの1vs2?それとも組みなおして2vs2にするのか…。見事にあまりくじを引いた私は「わー1人だ―」とオールマイトに聞こえるよう言った。
「じゃあ轍少女は余力のある組と最後に1vs2だ!」
「ファ!?1vs2!?マジかよー!」
まさかの選択肢が選ばれ驚きの表情でオールマイトを見る。全員の個性が予め分かる、加えて相手は1戦終えた後だから疲労度もある。というハンデは確かにあるかもしんないが。
「Plus Ultraだ!轍少女!」
「おっふ…」
嫌そうな顔を隠さずげんなりと、引いたくじを忌々しそうに握りつぶした。
「あー、どんまい」
耳たぶが特徴的な個性イヤホン・ジャックの耳郎が慰めてくれた。その流れで自己紹介をすませる。
爆豪・飯田vs緑谷・麗日の戦闘は入学2日目実技授業初にしてはあまりにも重っくるしかった。
(オールマイトは教師向いてないな。爆豪と緑谷に私情が入っているのを分かっている、その上で静止せず“その先”を、緑谷の成長を見たがっている。…お前のそれも立派な私情だ)
特別を作らなかったオールマイトの特別になってしまった存在。教師として新米とは言え…ヒーローとしてこの戦いは止めるべきだと判断で来ているだろう。それでも緑谷を優先した。全く、このままじゃ緑谷は怪我ありきのヒーローになっちまうぞ。
(…にしても超パワーで建物をぶっ壊すほどの風圧を出せるとはちょっと信じがたいな。ただの筋肉増強型で片づけるには少々異質だ)
そう、まるでオールマイトの様な。
オール・フォー・ワンとオールマイトの間には因縁の様なものを感じる・ヴィランは専ら個性がそのままヴィラン名となりやすい。…オール・フォー・ワン、みんなは自分の為に。オールマイトとは対極にありそうなものだ。対極にするならワン・フォー・オールってところか。
(……そういえば随分前にオールマイトと似たような個性持ったヒーローがいたじゃないか)
私らが、幹部が把握しているのは何も現代のヒーローだけではない。つか局長も他の幹部もオールマイトより年上なわけだし、ヒーローや個性については私が生まれる前のことも良く知っている。文字や映像としてしか知らない私とは別だ。
(オールマイトの出生から今に至るまで、改めて調べなおす必要がありそうだ)
緑谷の個性の謎、オールマイトにあるような気がしてならない。
橘の思考を切り替え、轍として八百万の講評に「ちょーきびしー」と言葉を漏らす。上昇志向の強い彼女は好感が持てる。熱に浮かされず冷静に判断でき、まあ入学2日目ってこともあってまだ交友関係深くないからこそはっきりと言えたんだろうけど。今後の学生生活に影響が出るような学科じゃないし、雄英はそんな生ぬるい場所じゃないはず。彼女の今後の交友関係もきっと問題ないだろう。一癖二癖ある人間ばかりだし。
色々ぶっ壊れて怪我もしてな第1戦に比べると、第2戦は驚くほど静かに終わった。圧勝、その一言に尽きる。轟が本当にヒーロー足る素質があれば、日本の未来は明るいな。当人の心次第ってところが難しいけれど。
その後の対戦もトントンと進み、愈々最後私の出番だ。
余力のあるペア。轟・障子か尾白・葉隠。そして選ばれたのは轟・障子ペアだった。なんて面倒な…。私がヒーロー、彼らがヴィラン役だ。
音波で相手の位置を視覚的に分かりやすくするためのゴーグルと、付随しているヘッドホンは衝撃波による固縛の影響を防ぐためのもの。ヘッドホンには電磁波で通信できるようになっている。グローブとブーツには衝撃波で破れない特殊なもの。動きやすさ重視でパツパツのスーツスタイルの上にはコートを羽織っている。内ポケットに何を仕込んでもバレない。
さて今回の様な孤軍奮闘の場合、一番痛いのは2人同時に現れること。いや轟相手だと関係ないな?
開始の合図が聞こえた。私がいるのは最上階の部屋。両手を床につけ音波を発し2人がどこにいるのか探る。
(にしても難しいな。橘的思考が出てきてしまう)
推薦で入って来た轟より強いことは証明したくない。ここはなんとかして負けなければ。負けるための算段…油断すればまあ余裕だな。これまでの戦闘見てたんかって講評で言われそうな気がするけど、気にしてちゃやってらんない。
開始の合図が聞こえた。右手でヘッドホンに手を当て電磁波を操る。彼らの通信機を傍受する狙いだ。
『入ってきたら教えてくれ。また凍らせる』
『分かった。だが轍は確か空気砲みたいなものを使う、氷は砕けてしまうのではないか?』
『昨日のを見てる限り細かい調整はできねえだろ。砕くときに怪我をする』
なるほど、昨日の個性把握テスト、彼はしっかり見ていてくれたらしい。入ったら障子の耳に入る、そして轟が凍らせながら近づいてきて、障子からの通信で私の位置を正確に把握。私を見る前に氷漬けしてしまおうって算段か。
さて、セコいけどダメだと言われなかったから今度は電磁波を操り、授業を見るために建物内に設置された監視カメラの映像をゴーグルに移す。音波、衝撃波、電磁波の中で最も扱いが上手いのは電磁波ということにしてある。6階建ての建物、核は5階か…。核の前には障子、そして3階に轟がいる。
「……まあ轟だっけな、と正面切って戦うのはまずキビシーよなぁ、うんうん」
歩を進める。建物には入らず裏に回った。
「轍の奴、何やってんだろうな」
「相手があの轟だし、警戒してんじゃねえ?」
開始の合図が出されてから、轍は一歩も動かずゴーグルの付いたイヤフォンに手を当てて棒立ちしていた。少ししてようやく歩き出したかと思いきや、建物には入らず裏に回った。
「あいつの個性、何か空気砲みたいなのボンって出す奴だよな」
「昨日の見てる感じそうだったな。反復で変に吹っ飛んでたから調節まだしっかりできてないっぽい?」
上鳴と切島が昨日の個性把握テストを思い浮かべる。爆豪とは違う爆発音が煩かったのをよく覚えていた。特にソフトボール投げの時。
「屋内戦だとあいつの個性ちょっと不利?」
「爆豪みたいに調節できるんなら別だけどなー」
裏に回り建物を見上げる轍がモニターに映る。そして彼女は屈伸した後、
「「「「飛んだぁ!?」」」」
垂直に上へ飛んだ。下から思い切り突き上げられたかのように急激に飛んだ轍は、5階辺りで窓に向かって突っ込んでいった。急激な角度でも突っ込めたところから、先程飛んだのと同じように滞空で足からまた空気砲を出し突っ込んでいったのが分かる。
そして突っ込んでいった部屋は、障子が守る核のある部屋だった。
「マジかよ!なんであいつ分かったんだ!?」
障子は突然窓から来た轍に驚きを隠せていない。しかし動かなければ轍が核に触れると分かっているから、轍を捕まえようと飛び掛かる姿勢をした。それを見た轍が障子に向かって両手を翳す。
「あいつまさか、核もあるのにあれを!?」
「あっぶねーだろ!」
ヒヤリと想像する。あの空気砲、他人が食らえばタダじゃすまないと思う。現に先ほど飛んだ時の衝撃で、轍が飛んだ時に近くにあった建物の1・2階の窓にヒビが入っている。止めたほうが!と切島が爆豪の時の様にオールマイトを見ようとして、モニターが予想外の映像を映し出した。障子が突然頭を抱え倒れたのだ。
「何だ?またあの空気砲出すんじゃないのか?」
「障子の様子がおかしい、何かしたのは間違いないだろ」
轍は障子に対して合掌した後、核に触れた。
「ヒーローチーム、ウィイイイイイン!!!」
オールマイトが勝敗を叫んだ直後、核のある部屋に轟が現れた。
「しょーじー!大丈夫?ごめんやり過ぎた感が否めない!」
「…大丈夫だ、落ち着いてきた」
頭を抑えゆっくり立ち上がる障子、状況が呑み込めていない轟は割れた窓を見て漸く侵入方法を理解した。
「何で核の場所が分かった」
「ちょっとセコいことした。あれアリなのかなー…オールマイトとの講評で分かるか!」
ゴーグルで目元は見えないが口元から障子に対しての申し訳なさがにじみ出ている。俺の問いに答えになっていない返事をしたが、後でしっかり教えてくれるらしい。
モニター室へ戻りオールマイトが講評をした。
「確かに建物への損傷は少ない。しかし周囲の建物も巻き込んだあのやり方はBADだ!」
「ですよねー…」
3階にいた轟にも衝撃音と窓ガラスが割れる音は聞こえた。建物の裏で足から空気を放出し飛んだあと、5階に突っ込んだということか。
「中の状態が分からない部屋に突っ込んでいったのも良くないね」
「つか轍、何で核の場所分かったんだ?」
誰もが思っている疑問。上鳴が代表して聞いた。轍は頬をかきながら「あー」と少し言いずらそうに答える。
「建物内のカメラをジャックしたから」
「え、お前の個性って空気砲みたいなのじゃねえのか?」
「あー、私の個性は“圧力波”っつって、音波・電磁波・衝撃波を操れるんだよ。電磁波を使って先ず轟と障子の通信機を傍受して作戦を聞いた。んでその後このモニター室で見えるようにって配置されたカメラの映像を、このゴーグルに映して核の場所と2人の配置を把握した。轟と真正面からぶつかったら正直勝てる気がしなかったし、かといって障子も正面切ってぶつかったら自身が無いから5階から突撃して奇襲した。オールマイト、これってありすか?」
建物内にカメラが設置されているのは訓練だから分かっていたこと。八百万の言葉で言うなら、「訓練だから勝てたこと」である。実際に突撃する建物にカメラがあるとは限らない。
「Umm、微妙なところだね。とはいえ実際にヴィランが籠城する建物によってはカメラは当然ある。先に潰されている可能性の方が高い、とはいえ実際に壊したら私たちが見られない。訓練だから許されたというのは否定できないね」
「ですよねー…」
勝ったのに講評でがっくりと肩を落とす轍。空気砲、はその圧力波の中の一つに過ぎなかったということ。正確にはあれは衝撃波に入るのだろう。
「最後に障子さんが崩れ落ちたのは、音波を使って脳を揺さぶったということでしょうか?」
「八百万っちパネェな!そうそうそうなんだよ、ビビってやり過ぎちゃった」
たはーと笑い「障子今調子大丈夫?」と気遣う。障子も既に問題ないようで「ああ、治った」と返した。
「圧力波ってよく分かんねえけど、轍が実は凄いことはよく分かった」
「上鳴頭悪そーだもんね」
「思ってもそう言うこと言うなよ!」
ケタケタと笑う轍、頭使うような人間に見えなかったが、あるものをうまく利用して勝利したという事実は変わらない。個性で言うなら爆豪に次いで相性が悪そうだと轟は思った。