意外に大人しいね

出会い

「つーわけで、エリのこと頼む。念の為、今いる寮から別の寮に越してもらう」
「へあ、はい」
 “巻き戻し”の個性を持った女の子を保護することになったと。暴走した時に対応できるのが相澤先生だからってのが理由らしい。とはいえ普段は先生として授業あるし、プロヒーローとして学校をあけることもある。さらに相手が女の子ということで日常生活の面倒を見るのは難しい。そこで白羽の矢が立ったのが私だった。
 その子の個性を食らうことが無い、周囲への被害を最小限に抑えられる、同性、座学1位だから勉強面の心配はない。その子の日常生活のサポートと、勉強を教えるのが私の役目だそうだ。学校では3年の先輩とか先生が面倒見るらしいから、学校外でのサポートを任された。でももし相澤先生がいないとき学校でこの子の個性が暴走したら、多分呼び出される。
「初めまして、消谷心です。よろしくねエリちゃん」
「…よ、よろしくお願いします…」
 住む人間が少ないから生徒寮より小さい寮だ。2階建てってことを除けば構造は同じらしい。男子寮の方に相澤先生が常駐するそうだ。仕事関係のものがごろごろしてるから立ち入り禁止。
「心…お姉ちゃん…?」
「んん!!」
 幼女からのお姉ちゃん呼び破壊力パネェ…。ニヤニヤしながらエリちゃんを撫でまわしているところに相澤先生が来てドン引きされた。


 学校外での生活が変わったことを除けば、それ以外の日常は変わらない。原作突入でわちゃわちゃした半年だったけど、渦中のクラス以外はあまり実感はない。
 相澤先生がいないときは私がエリちゃんの暴走を止めないといけない為、相澤先生が学校にいないときは必ず私に連絡が来るようになっている。今日もヒーロー活動の為遅れてくるそうだ。
「Hey!消谷リスナー!」
「あ、マイク先生」
「ちょおっと頼まれてくれねえか?」
 申し訳なさそうにマイク先生に言われて「エリちゃん関係かな」と着いていけば、1-Aに来た。おっと?
「リスナー!救世主連れて来たぜ!!」
「「「マイク先生!」」」
「ぬぉっ!?」
 ドーン!とマイク先生が私を前に出した。こんな形で彼らと対面することになるとは、というか
「え、救世主ってどういうことすかマイク先生?」
「って説明してないんですかマイク先生!」
「みりゃわかると思ってな!」
 1-Aの生徒は全員いる、ある2人の生徒の様子を伺うような、囲っているような感じだった。その2人は、体育祭2トップ。マイク先生は2トップをそれぞれ指しながら説明した。
「こっちが爆豪in轟!こっちが轟in爆豪!」
「「「説明雑!!」」」
「個性かなんかで中身だけ入れ替わっちゃったけど相澤先生いないから私が代わりに呼び出されたってことすか」
「「「今ので分かったの!?」」」
「さっすが2年トップだぜ!」
「2年のトップなんだ!」
「ってことは先輩じゃん!」
 体育祭確かに1位だったけどヒーロー科のここでそれ言ったら誤解を招く。慌てて訂正する。
「いや私普通科、トップちゃう」
「え、普通科?」
「それより直すから、2人とも両手出して」
 眉間に皺寄せてない穏やかな爆豪とメンチ切らす轟。何これレア。爆豪in轟はすっと手を出してきた。轟in爆豪も素直に手を出してきた。ちょっと意外。失礼、と一言詫びを入れて2人の両手をそれぞれ掴む。個性を発動させると髪が逆立つのが分かる。
「…はい、どう?」
 手を放して2人を見上げる。背ぇ高いなおい。
「お、…あ、戻った」
 轟は両手をグッパーしながら確認した。生轟、思ったより幼い顔立ちだな、可愛いかよ。
「………」
 爆豪も掴まれた手をグッパーした後ポケットに手を突っ込んだ。眉間に少し皺を寄せている。そんで私を見てきた。何だ?と目を逸らさず爆豪の出方を伺っていると、爆豪の肩をバンと赤毛の、切島が叩いた。
「良かったな爆豪!」
「穏やかな爆豪ってのもレアだったけどなー。写メッとけばよかった!」
「人の顔勝手に写メるんじゃねえぞアホ面ぁ!」
 くわっと目を吊り上げ金髪、上鳴を睨んだ爆豪に「ちゃんと戻ってた」と密かに安堵する。
「助かったぜ消谷!」
「いえいえー、じゃあ失礼しますねー」
「ありがとうございました」
 轟のお礼にひらひら手を振る。爆豪から礼はまあないだろうけど気にせず、教室の喧騒を背に自クラスに戻った。その背を爆豪が見ていたとか普通思わないよ。

サプライズ

「おい」
 職員室に向かう途中、後ろから声をかけられた。先生が多くいる職員室の近くの廊下はいつも静かだ。振り返ると眉間にしわを寄せた爆豪がいた。
「これてめぇのだろ」
 ずいっと出された手の平には、レザーブレスレットがあった。左手首を見て見ると腕時計と一緒につけているそれが無かった。
「あ、ありがとう」
 人にものを渡すときって、物によるけど相手の手に乗せるように渡すことが多いと思う。爆豪とか絶対そのタイプでしょ、触られるの嫌そうだし。爆豪は相変わらずレザーブレスレットの乗った手の平を私に向けていた。からそれを拾うように返してもらう。知らないだけでこういうタイプなのかもしれないと、ちょっと違和感を覚えつつも気にせずブレスレットを見た。
「うわ、切れてる」
「…落ちてるの見た」
「だから私のって分かったんだ。ありがとう」
 ピアスやネックレスはそこまで興味ないけどブレスレットは結構好きだ。特にレザー系。これは中学の友人から誕プレに貰ったブレスレットだった。切れちゃったなら残念。手首に何か巻いてないと何となく落ち着かない。また新しいもの買うかとポツリ漏れた。
「好きなんか、そういうの」
 返したら速攻帰りそうな爆豪は未だそこにいる。眉間にしわを相変わらず寄せたまま私を見降ろしているけど、威圧感は無かった。
「そだね、ピアスとかネックレスはそこまでだけどブレスレットは結構好きかな」
「…そうか」
 爆豪はふいっと背を向け歩き出した。質問の意図が分からない。というかまずそういう質問をしてきたことに驚きだ。この前の入れ替わったあの短い時間以外で爆豪と関わりは一切ない。よく分からんけどそこまで気にしなくていいか。もう関わらないだろうし。

 そう思っていた時期が私にもありました。
「おい」
 自室は誘惑が多すぎる。だから放課後学校で課題を終わらせたり勉強したりしてから帰る。入学してからずっとこの生活だ。先生が見回りに来る前には帰るようにしてる。そういうわけで教室を最後にするのは基本私だ。
 人気のない廊下を通り玄関へ向かっているとデジャブを感じた。振り返ると爆豪が。
「あ、お疲れ」
 挨拶として何も考えずお疲れと言う。爆豪は特に何も言わずズカズカと近寄ると、グイッと小さな紙袋を渡してきた。思わず受け取る。
「やる」
「おっと心当たりがないぞ」
「うるせー、大人しくもらっとけ」
 怒鳴りもせず睨みつけることもせず、じっと私を見下ろしてくる。心当たりがないと言っておきながら思い当たるのは入れ替えの件。いやでもあれ解消しただけでお礼するような子かぁ?轟だって言葉一つで終わったし、というかあの程度なら最悪相澤先生戻ってくれば直るから、礼をもらうほどじゃないと思うんだけど。って考えるとやっぱ心当たり無いな。
「よく分かんないけど君がそれで納得するなら、まあもらっておく」
「開けないんか」
 家に帰ってから開けようと思いカバンに突っ込もうとしたら遠回しに開けろと催促された。何その開けた時の反応気になるから今開けろよみたいなやつ。え、どうした爆豪。お前そんなキャラじゃないだろ、個性混乱か?生まれてこの方一度も個性を食らったことのない私に爆豪は個性混乱を使ってきたか?爆豪の個性実は混乱だった?なわけ。
 じゃあ、と言われるまま紙袋を開ける。中からは淵がオレンジ色の黒いレザーブレスレットがでてきた。落ち着いたシンプルなデザインにおお、と声が漏れる。
「すげえ好み」
 身につけるものはシンプルなデザインが好きな私にはドンピシャだった。最近のブレスレットは両極端で、女子高生が如何にも好きそうなやつだとキラキラしすぎて、見る分には好きなんだけど身に着けるかって言われると微妙だ。こういうシンプルなレザー物はそこそこ値段が張る。ちゃちいのか高いのか、その両極端なのだ。これ結構いいやつなんじゃ。
「はっ、そうかよ」
 爆豪はしてやったりというようにニヤリと口角を上げた。目を瞬かせ思ったことをそのまま口にする。
「何でくれたか分かんないけど貰いっぱなしは性に合わない。欲しいものなければ超主観で一方的に送るけど欲しいものある?」
 爆豪が何を考えているか分からない。これを機に関わりを持つことになりそうだけど、つか既に謎の関わり持っちゃったけど、事情も分からず貰ったままというのは釈然としない。爆豪は少し考えるそぶりをした。え、つまり欲しいもんあるの?なに自分で買ってきそうなのに?あ、もしかして何か事情があって欲しいけど買えないものがあるから、同じクラスでも学年でもなくヒーロー科でもない赤の他人にお願いして…いやねえな、多分。
「……ライン教えろや」
「おっと予想外過ぎて先輩パニック」
「てめえが聞いてきたから答えたんだろうが」
「私のラインが欲しいの、何、私ヒーロー科に知り合いいないぞ?」
「てめえのが欲しいんだよ!んでヒーロー科が出てくんだ」
「やっべえ君が分かんねえ。でも金掛からないから私としちゃ儲けか?はい」
 わけわからんままスマホを出しラインのQRコードを表示させた。爆豪はスマホでそれを読み取る。友達かも?の欄に爆豪の名前が出てきた。そういうことだよな、と友達追加する。今私の頭の上にはクエスチョンマークが踊りまわってることだろう。爆豪はスマホを見て満足そうな笑みを浮かべた…爆豪の笑い方ってなんでこうヴィランっぽいのか不思議だ…。
 訳わからないまま寮に帰り夕食後、ゲンドウポーズで脳内整理した。正面にはエリちゃんが交換日記を書いている。コミュニケーションを図ることと、何かこれまで大変だったらしいエリちゃんの心が癒えるように、そしてもし良くも悪くも心境に変化があった時直ぐに分かるように。私よか相澤先生の方がよっぽど事情を理解してるから、エリちゃんの為に果たしてなってるか分からないけど。
 爆豪と初めて会ったのはあの時1-Aで。それ以前に会ったことはないと断言できる。折寺中出身じゃないし私の家は折寺の通学範囲じゃない。そもそも雄英高校まで徒歩圏内だったわけだし、原作描写見るに緑谷は電車通学で、幼馴染の爆豪も当然電車通学の筈。学校内でも学年違うし私は普通科だし。体育祭の結果で私を見て覚えてた…なんてあるかぁ?
 ライン交換した爆豪から連絡はない。交換した理由分からんけど連絡ツールであるラインを交換したってことは、連絡したい用事があるってことだよな?今すぐの用事じゃなかった?まあ、出方見て様子見て見るか。
 エリちゃんの「書けた」という声に意識を切りかえる。拙い文字と絵から3年の先輩とデクがカッコいいと言いたいことだけは強く伝わって来た。

名前
消谷 けしや   しん
個性:無効
 相手の個性が一切効かない。常時発動型の個性でオンオフの切り替えは出来ない。自身に対してではなく、他人に対しての個性を無効にするときは目が赤くなり髪が逆立つ。応用で半径10m範囲の個性を無効化することもできる。八百万の創造や轟の氷・炎のようなもの場合、個性で作ったものであれば脆く一瞬で砕けさせることができる。筋肉増強系の個性による物理的な攻撃も、“個性による攻撃”であれば一切効かない。
 難点はカバリーガールの治癒個性すらも無効化してしまうこと。
備考
 転生者。雄英高校普通科2-C。普通科でありながら体育祭2連覇中。ヒーロー科への転入を打診されるも蹴っている。将来はカウンセラーになりたく、ヒーローを目指しているわけではない。