転生魔術師は警察が怖い
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ミーハー心が勝って高校に入るや否やポアロでバイトを始めた。テストの点数が悪くなければバイトOKな学校だった。進学校はダメっていうところ多い印象があったけど、帝丹は緩かった。そこでNGだったら今頃工藤君は退学処分だったね。
工藤君がコナン君になって、同じく小さくなった科学者哀ちゃんが探偵団に入ったってところまでは知ってる。でも私が知ってる原作知識なんてこれくらいだった。だから最近転校してすぐにまた転校していった本堂君や、転校してきたボーイッシュな同級生世良ちゃんや、新しく入ってきたアルバイター安室さんがどういうポジションが全く分からない。そういえば安室さんが入ってきてからポアロにお客さんが増えた。特にJK。そしてそれに伴いネットで炎上するのが嫌だからと、梓さんが休日や下校時間のシフトを嫌がるようになり、必然的に私が入るようになった。あと、ポアロの求人が増えたって聞いたな。今十分手が回ってるから雇う気は無いってマスターが言ってた。
さて、私は今よく分からない状況にいる。夜のドライブひゃっほー!とバイクを走らせていたら偶然にも安室さんの姿を見つけたのだ。とても急いで走っている。走る安室さんに並行するようにバイクを走らせたら警戒されたけど私を見て足を止めた。
「安室さん、急いでるなら届けましょうか?」
「…助かります」
前に毛利ちゃんとか鈴木ちゃんを家まで送ることがあってから、2ケツ用にヘルメットは持っていた。それを安室さんに渡すと被りながら後ろに乗って来た。…今私安室さんと2ケツしてる。JKに見られたら刺し殺されるわ。あ、私もJKだわ。
「で、どちらまで?」
「東都水族館へ、お願いします」
東都水族館?そんなところまで急いでいく…まさか、デートに遅れそうとか?それにしては服ちょっと汚れてない?大丈夫?でも探偵さんでもあるから下手に聞かないでおこう。
東都水族館まで届けると礼を言うや否や安室さんは猛ダッシュで中に入っていった。なんかすごい鬼気迫る感じだったぞ、大丈夫か。しかしせっかくここまで来たし、ちょっと中見ていこうかなー。ぼっちで中入るのには抵抗ないぞ。
次は毛利ちゃんたち誘って遊びに来るのもいいなー。とプラプラしてたら見覚えのある少年がダッシュで観覧車の方に向かっていくのが見えた。コナン君じゃないかー!え、これ原作の話?知らんけど。毛利ちゃん探してるのかな。ってことは毛利ちゃん今よろしくない状態?え、ここで爆発でもおきんの?
主人公とか毛利ちゃんの近くにいれば大抵巻き込まれても死ぬことは無い、というのが私の中の常識。主人公とヒロインの近くならそうそう死なないでしょ。その考えからコナン君を追ったらこの子、立ち入り禁止に入っていったぞおい。
「ちょ、コナン君流石にここは行っちゃダメでしょ」
「里桜姉ちゃん!?何でここに」
「コナン君が鬼気迫った様子で走るときって大抵毛利ちゃんの身に何かあった時じゃん?毛利ちゃんヤバいんじゃないの?」
「蘭姉ちゃんは大丈夫だから、里桜姉ちゃん早くここから…」
お、何だ毛利ちゃん大丈夫なんだ。じゃあコナン君の言う通り早速行こうとしたら何か見つけた様子。てけてけ後について様子を見ていたら、コナン君たら「爆弾!?」って、いやだなーそういう冗談よくないよ。
よっぽど緊急事態なのかコナン君は私がいるのもお構いなく上に向かって「あかいさーん!」と叫んだ。だれやそれ。
「コナン君!?里桜さん!?」
「うぇ?安室さん?」
上から顔を出したのは安室さんだった。ん?さっき赤井さんって読んでなかったっけ?安室さんは赤井さん?というか安室さんデートどうした?
爆弾が仕掛けられているとコナン君が訴えると、安室さんは直ぐにしたに行くとひっこんだ。やがて安室さんと見知らぬ男性が下りてきた。お、そういうことか。
「安室さんこの、赤井さん?って方とデートで急いでいたんですね、なるほど」
「誰がこいつと!!!」
「大丈夫ですよ安室さんイケメンですから何でもありだとおもいますし、私そういうのに偏見ないですから」
「違う!断じて違う!」
「ボウヤ、爆弾はどこに」
いつもと様子の違う安室さんが必死に否定しているのを見るとますますそうにしか見えなくなる不思議。赤井さんとやらはなんでか嫌そうな顔してたけど、直ぐにコナン君に視線を移していた。赤井さんの方は知られるのが嫌だったみたいだな。申し訳ないことをした。
その後は何かよく分からないけど、赤井さんとやらはどっかに言ってコナン君もなんちゃらリストを守らないと!ってどっかに行ってしまった。残された安室さんは爆弾の解体作業をしている。
「すげー、初めてみます解体作業」
魔術の修行で使うことはあったけど大抵被害なく爆発させる方法とか、爆発した時に被害を最小限に抑える方法とかそっちばかりでそもそも爆発させないという手段は身に着けてなかった。解体作業を見ると、さっぱり分からん。解体は私には無理だな。
「里桜さんはどうしてここに?」
「コナン君がめっちゃ走ってるの見つけて、毛利ちゃん探してるのかなーと思って追ってたらここに」
「全く、あの子も君も」
ぱちっぱちっと手際よく切っていく様子はポアロで料理を作っている時と似ていた。イケメンは何でもできるんだな、羨ましいぜ。その時、いきなり電気が消えた。
「あれ、停電?」
「くっそ、あともう少しだったのに…。いや、焦りは最大のトラップだったな、落ち着け」
本物かどうか、多分本物だけど爆弾解体しているんだった。ポケットからスマホを出してライト機能をオンにする。それで爆弾の手元を照らしてみた。
「これで見えます?」
「ああ、ありがとう」
爆弾を解体し終え(ギリギリだったらしい)安室さんはやたら高いところに張り付けられていた何かを回収してきた。これが爆弾らしい。するとドドドドというか、まるで銃弾が連射されているような音が響いた。
音のする方向へ身体を向けた瞬間、チリっと頬を何かがかすった。触れてみたら、何故か血がついている。じわじわと頬がピリピリしてきた。
「ん?なんだ?」
「何で君はほんとに!僕から離れないでくださいよ!」
ポカーンとしている私に安室さんはとても焦っていた。私の腕を掴むとどこかへ走っていく。縺れそうになりながら安室さんに必死についていった。運動神経ないんだよ!
「そのライフルは飾りかFBI!」
ゼーハーしながらなんとか引っ張られるままに足を動かしていたら、赤井さんとやらとコナン君がいた。え、赤井さんとやらはFBIなの?え、無理。安室さんの陰に隠れるようこっそりする。でもコナン君は私に気付いた。
「安室さん!里桜姉ちゃんも無事だったんだね」
「お、コナン君も無事みたい?この状況って無事って言っていいのか分かんないけど」
ドババババとまた爆音が響く。認めるよこれ銃弾でしょ!外を覗いたら安室さんに頭を押さえられた。
「顔を出すな!撃たれるぞ」
「さーせん」
微かに見えたあれはヘリコプター?にしてはごつかった。軍が使いそうなでかいヘリコプターだった。軍が使いそうなヘリコプターなんて知らないけど、何となくそう言う感じ。
映画にありそうな緊迫した空気に興奮する。すげー、最初血界戦線の世界だと思ってたし術者の修行も中々ハードだったから、コナンの世界がぬるく感じる。このスリルは凄い楽しい。絶対に死なないと言う確信の中、この後どうなるんだろう?というワクワク感。
何やらあれを落とすとかいう物騒なことを言い出したお三方。黙って成り行きを見守る。安室さんは解体した爆弾をガチャガチャしたあと盛大に投げた!!そのカバンってさっき赤井さんが渡してくれたやつじゃなかったっけ?そして爆発したのに「見えた!」とコナン君がベルトからサッカーボールを出して蹴り飛ばす。なんで花火上がるんだあのボール、博士ヤバすぎ。そしてパァンと久々に生で聞くライフル音。
「すげー、あれって普通に落とせるもんなんだ」
血法の使い手でも魔術師でも、人外でもない普通の人間が空に浮かぶヘリを落とせることに密かに感動をした。銃刀法違反の国でライフル持ってることとかサッカーボールをあそこまで蹴り飛ばすこととか、爆弾解体して投げ飛ばしたりとかってのは普通に考えると普通じゃないけど、今の私の中の普通は血界戦線の世界か否かでしかない。あれ、私はどっちよりだ?
「ここも危ない。急いで出ないと!?」
落ちゆくヘリは悪あがきとばかりに銃弾をバカバカ撃って来た。そして何を思ったのか私は謎の反射で思わず安室さんを庇うように抱えた。お母さんの「衝動のまま動きなさい、それが生き残る方法よ」という教えがここで発揮されてしまった。安室さんを庇うことは私が生き残ることに繋がるのか?でも衝動的に動いちゃったしいいよね。まもなく鳴りやんだ音にホッとする。
「安室さん大丈夫すか?」
「それは僕のセリフ…はぁ…」
あ、みんなに大人気のイケメンを抱きかかえたんだからもっと感触味わえばよかった。今更後悔。
安堵の空気が流れるのも許さないくらい大きな音が響く。安全な場所に早く逃げろ!と言うだけ言って彼らはどこかへ行ってしまった。これで付き合ってたら彼氏失格だぞ、付き合うだなんて烏滸がましいにもほどがあるけど。コナン君いるし大丈夫っしょ。なんて思いながら安全な道を探してゆっくり動いていたら、見えてしまったよ、なんか観覧車が転がってるのが。
「いやいやいやいや!!それは流石に無い!」
ミステリーじゃないのかよ!アクションかよ!コナンのジャンルなんだよ!転がる先にはドームが見える。あれだけライトが光ってるならきっと大勢の人がいるに違いない。
「…あああもうなるようになる!」
この距離で術を放つのは結構骨が折れる。少しでも近くに行かないと。ただでさえ運動が苦手なのに、なんとかよく見える位置まで行くと安室さんが誰か投げ飛ばしてた。てかコナン君じゃん!?
「ええええ嘘おおおおお投げたあああ!?」
「里桜さん!?逃げろって言ったじゃないですか!」
「観覧車ヤバないですか?」
「ああ、コナン君に、かけるしかない」
よく見ると黒い線が観覧車からコナン君に向かって伸びていた。あ、サスペンダー。
「これでこの観覧車と向こうの観覧車をつなげて止めようってことか。えー、できるのそれ」
「できるかどうかじゃな、やるしかないんだ」
視力は人並みだから投げ飛ばされたコナン君がどうなったか分かんない。赤井さんとやらがいないから、もしかしたら赤井さんは向こう側にいるのかも。転がる観覧車、ドームとの間に大きなサッカーボールが膨らんでいくのが見えた。それでも止まる様子はない。隣に立つ安室さんからも嫌な空気を感じる。
「……まあ、別に、友達に見られてるわけじゃないし最悪両親のとこいけばいいか…」
能力を持った人間は良い値段で売買されるんだって。だから両親からは口酸っぱく「同類や近い人がいないところで絶対に術を使うな」と言われてきた。コナン君が信頼しているみたいだし安室さんは大丈夫でしょ。これで何かヤバそうな感じしたら諦めてHL行こう…。両親はライブラと関係あるのかな、ないか。
「里桜さん?」
パンと手を合わせ精神統一。集中、集中。そして弓矢を持つ構えをすると白く淡い光を出しながら魔術でできた弓矢が現れた。観覧車に狙いを定め放つ。光の矢は長く尾を引くことなく観覧車に命中し、一瞬白く光ると消えた。あれが言わば魔法陣の代わりだ。持っていた弓矢は消え、そのまま右手は観覧車に向けたまま詠唱を唱える。白い魔法陣が右手の前に現れた。
「我が名に答えよ、我が
魔法陣が光を放つ、矢が当たった場所にも同様の魔法陣が光り、ともに消えていった。一瞬観覧車に突風が吹き、そして止まった。
時間を操るのはかなり疲れる。しかもあんな馬鹿でかいもので、こんだけ距離が離れた所から放てばどっと疲労が押し寄せるのは当然だった。へたり込む私を支えたのは安室さんだった。
「ひいぃい、疲れるうう…帰って寝たい…」
「…君は、一体…何者なんだ…」
「ちょっとばかし特殊な家系に生まれたただの女子高生ですよ…。安室さんは私をその手のところに“売らない”って信じてますからねー」
その後安室さんの手を借りながら観覧車から脱出した。今度詳しく聞かせてもらいますから、と言い残すと安室さんはどこかへ行ってしまった。野郎どもどこかへ行くの好きだな。避難誘導に紛れ東都水族館から出る。この疲労感でバイク…事故りそう。でもこの状況でバス乗れるのはいつになるか分かんないし、だったら頑張って乗って帰るか…。道路が混みあう前に重たい身体に鞭を打って私は家に帰った。
- 東條 里桜(17)
- 帝丹高校に通う転生トリッパー。魔術師の家系で本人も魔術を使えるが跡を継ぐ予定は今のところない。両親はHLにいるため日本で1人暮らし。一時期アメリカに暮らしていた。修業時代にFBI職員によって事件解決のために能力を使うよう脅されていたことがあり、警察に対しては恐怖心がある。両親がすぐに気付いたおかげで実際に使われることは無かった。
本人はただの魔術師だと思っているが、禁術を扱えるほどの逸材。いち早くそれに気付いた両親が娘が悪用されないよう「決して魔術師だと気付かれるな」と徹底的に叩き込んだ。