楽観主義

 ポアロから出て駅で姉と別れる。因みに安室さんから渡されたレシートを姉からもらった。その時の姉の表情は本気で縁を切られそうだと思ったけど、私は姉を信じてる。って目をしたら盛大にため息を吐かれた。
 近くの駐車場に止めていた車に乗り、少し離れたカラオケ店に来た。2台のノートパソコンの入ったカバンを持ってヒトカラする。のではなく、仕事です。この近くにあるセキュリティ会社のシステムにハッキングして脆弱性を探す。18時から朝の5時まで、なっが。夜の時間の方が厳しいからちゃんとセキュリティ機能が生きてるかの確認とか、そういったもろもろの確認。カラオケ店を選んだのは歌いながらできるから、寝落ち対策。
 1台は仕事で使う用、もう1台はさっきの盗聴器の解析用。それぞれ起動し仕事と遊びを開始した。
(コナン少年は、座標的に阿笠邸だなー。確か阿笠邸って盗聴器他にもあるんしょ?これ波長あえば拾えんじゃね?流石にFBIに目ぇつけられるのは嫌だなー。やめとこ)
 盗聴器があるなら指紋も取れるよな。コナン少年大丈夫かお前さん…。この盗聴器は丁寧に保管しておこう。安室さんの指紋もゲットしちゃったんだよな。ふふふははは。いやどうもしないけど。
(おーこっからはいれるじゃーん)
 セキュリティシステムの穴を見つける。そこからちょちょっとつつけば、あら不思議、乗っ取っちゃったよ。
「えー…流石にこれは…」
 異変を感知したら会社に通報されるシステムの筈なのに、そのシステムが随分浅いところにある。こんなん、ここ切れば絶対バレないやん。つかセキュリティシステムのプログラム見えるんだけど、暗号化適当過ぎない?ちゃんとやれよ。
「あの会社のセキュリティシステム、絶対使わないようにしとこ」
 残りの時間全部歌ってようかな。ただ遊びに来ただけじゃんこれじゃ。まあいいや。


 ブラック社員な姉が休みを取れず日が過ぎる。あれからポアロには1回も行っていない。その間に指紋照合出来ちゃったよね。あれ、警察庁のセキュリティってこんな入れて大丈夫なん?もしかしてバレてて泳がされてる?それはヤバいやつ。
 いや、違うな、東都水族館ぼっかんしてたから忙しかったんだろうな。大乱闘オンザ観覧車やべえよな。ヤバいしか言ってねえ、ボキャ貧乙。
 ちゃんと休みがある系な会社員の私は、休みの日にプラプラと街を歩いていた。意外に米花って歩き回っても少年たちに会わないもんなんだぜ。いや、知り合いじゃないから声かけられないだけだけど。米花駅近くにある掲示板に目が止まる。
(サイバーセキュリティ対策作業員募集…へー、警察もこういうの堂々と募集するんだ―)
 履歴書が埋まるのが嬉しくて無駄に資格は取ったし試験も受けた。そういう意味ではクリアしてるけど、勤務歴がアウトだった。
「おや、貴女は…」
 この声はっ
 あむろさーーん!!
 声に振り向けば安室さんがいた。ポアロ向かう途中かな、それとも帰るところかな。時刻は14時。ああ、イケボや…イケメンや…。
「ポアロのイケメンさんじゃないですか」
「覚えてくださってたんですね。あれから来店されなかったので、残念に思ってたんですよ」
 たとえ世辞でも嬉しいよ私は。
「あー、まあ、ブラックシスターがブラックなので」
「ブラックシスター?もしかして、お仕事が忙しいというお姉さん?」
「そうですそうですー。ブラック企業過ぎて笑えないんで辞めさせようとしてんですけど、本人の意思を尊重して今は放置してます」
「姉思いなんですね」
「最後の理解者っすからそりゃもちろん」
 前世の記憶の、血のつながった、家族の、色んな意味のある最後の理解者。根はシスコンだから姉にはしゃーわせになってほしいぜ。
 安室さんは視線をずらすと私の見ていたものに気付いた。
「サイバーセキュリティ対策作業員募集、興味があるんですか?」
「今より給料上がるならありかなって思ったんですけど、勤続年数引っかかったのでダメっすね」
「この前のあれ見てもそうだとは思うのですが、情報分野やこういう方向は明るいんですか?」
「あーかるいんじゃないですかね?人と比較したことないので今一どのくらい明るいか分からないんですけど。バレなきゃいいかなって実は結構ヤバいことやっちゃいましたけどね」
「へぇ…ヤバいこと、ですか」
 安室さん中身は警察官だし、ばれたら…あれ、やばくね、お縄じゃね?
「いや、バレなきゃいい、うん」
「まるで犯罪者が言う台詞ですね」
「人を悲しませるようなこととか誰かの害になることはしてないんでギリギリセーフだと思ってます、大丈夫だ、大丈夫」
「例えば何をしたんですか?」
「言うわけないじゃないですか」
「いいじゃないですか、僕、口は堅いんですよ?2人だけの秘密ってことで」
 ウィンクがこれまで似合う人間がいるだろうか、いや、いない。私の心は天に召された。
「そこまで言われちゃあ。前置きしときますけど、私仕事柄ハッキングすることがよくあるんですよ」
「ホワイトハッカー、ですか」
「それです。技術は進歩してますからねー。技術においてかれないように日々自分の腕も磨いてるんですけど、その延長上と言いますか、後は興味本位と言いますか、バレたら割とガチでお縄になるところいっちゃいまして」
「それは例えば、警察とか」
「はっはー…そのあたりです…はは…」
「確かにそれはバレたら不味いですね。因みにどこまで潜り込めたんです?」
 うわーやべえぞ、でも安室さんならいいや、私今頭馬鹿になってるわ。だって推しキャラだぜ?推しキャラで押し倒されてほしいキャラNo1だぜ?押し倒してもいいよ。つまり何しても神。
「思った以上にどこまでも行けたので途中で止めときました」
 お縄になるかなー、お縄になったら姉に会えないよなー。どちらかというとこれでお金はいるなら姉に楽させられるよなー。
「身を売った方がむしろいいのでは?」
「何を言ってるんです?」
 ちらっと安室さんを見上げる。神は、じゃない、安室さんはイケメン、じゃなくて、本当にそんな素振りすら見せずきょとんと私を見ている。
「例えば自分の得た情報を当人にちらつかせることで、自分の実力を推し量ってもらって、使えると判断されたら今より給料上がると思います?」
「脅してお金を得るつもりですか?」
「そうじゃないですって、こういうことできるので雇ってください的な方向で。どう思います?」
 ちょっと怖いけどこれで案外上手いこといったら給料上がるんじゃないかとか思ってやってみた。掲示板をコンコンコンと3回中指で。ノックした。
「ここまでは潜り込めちゃったんですよねー、はは…」
 へけっと笑ってみた。安室さんは、すっごい笑顔、やばい、いい笑顔。怖いとかじゃなくて、写真におさめて●●りたい、女だけど。
「立ち話もなんですし、良ければいいお店を知っているんですがお茶でもいかがです?」
 お茶!安室さんと!
「行かなわけがない!!!…あ、じゃあこれ」
 ポケットからスマホと車のカギを出して安室さんに差し出した。安室さんは受け取りながら不思議そうな顔をする。
「多少、怪しまれないように?的な」
「…ふふ、それでは遠慮なく預かっておきます」
 いやもうだめ、眼福じゃ。


 安室さんについていくと勿論喫茶店ではなく、どっかの空きビルの一室に連れてかれた。予想外過ぎて流石にビックリを止められない。ゼロの執行人で見たあの部屋にめっちゃ似てる。でもエッジオブオーシャンって今建築中だよね。小さな机を挟むようにパイプ椅子が2つ。安室さんに促され座ると正面に安室さんが座った。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。僕は安室透、ポアロで働きながら毛利探偵に弟子入りしている探偵です」
 トリプルフェイス乙です。ところで安室さんは僕だけど降谷さんは俺なのかな。どうなんだろう。
「あ、はい。えっと」
 カバンから財布を取り出し免許証を出す。口頭より目にした方が信憑性が増すかなって。
「東條夕です。ホワイトエージェント株式会社で働いてる、ホワイトハッカーです」
 安室さんはそれを聞くと徐にスマホを取り出し何かを打って直ぐしまった。あれかな、風見さんに「東條夕について調べろ」とか指示出したのかな。何それ滾る。
「それで、貴女はどこまで知っているんです?」
 安室さんがここまで態々誘導したんだし、ここには耳がないんだろうなー。あ、そういえばコナン少年からつけられた盗聴器を家に放置しっぱなしだった。この前充電切れてたからもう盗聴機能は無いと思うけど。
「え、ペラペラ言っちゃっていいんですか?」
「どうぞ?」
「まじかー、いやー照れるな―、うわー恥ずかしい」
「…君、変だねって言われない?」
「誉め言葉です」
「…………」
 安室さんの引いた目頂きました!ふぁー!安室さんの引いた目!
「あ、この場にツッコミいないから止める人がいないんだ。じゃあ話します。安室さんはゼロのNOCでバーボンなんですよね」
 凄い、たった一文で全て語れたよ。これ言えばどこまで潜ったか分かるっしょ。安室さんはふって、ふって笑った!ふぁー!!!
「…君がどこまで知ってるかよく分かったよ…」
「ぐへへ、仕事と金くれたら何でもやりますぜ?」
 胸の前で親指と人差し指で輪を作る。安室さんは少し考えた後、そうだな、と言うと。
「僕は君の言う通り、ゼロの人間だ。君のその能力を是非、僕の為に使わないかい?」
「はい喜んで!もう何でもしますよ!むしろダイジョブです?そんな簡単にぽっと私を信じて?いやいや不味くないです?……え、本当に大丈夫です?口封じに死にましょうか?」
「落ち着きなさい、そして死ななくていい、ほんと君変だね」
「照れる」
 どんな人相手でもつらつら世辞が出そうなこの人から変人扱いとかレア過ぎね?ヤバすぎでしょ、ヤバい、頭もボキャブラリーもヤバい。
「物理的に身分証明してくる人はそうそういないからね。それに、もし君が敵になったら相応の対応をするまでさ」
「…た、例えば?罵倒?拉致?監禁?安室さんならおk」
「ちょっと黙ろうか」
「すみませんでした」
 本当に大丈夫かこいつ、主に頭の方が、という目で見られた。やめろ、興奮する。
「君の腕は、確か見たいだからそこは信用しているよ。改めて、僕は降谷零だ」
「HO!N!MYO!マジすか!あ、東條夕です」
「…はぁ、知ってるよ」
 ゼロの執行人で「協力者」って単語出て来たよね、私今その立場なのでは?あれって信頼関係が強くないとだめなんじゃなかったっけ?あれ、ここに信頼関係ある?超一方的じゃね?なるほど、これが利用するってことか。いやでも本名言ったぜ?…ま、いっか!


 情報を渡す場にポアロは確かに丁度いいんだけどね、でもあそこはコナン少年いるからやめといた。今私は安室さん…基、降谷さんに会っている。後ろに風見さんもいた。
「こちら、本日の献上品でございます」
 1枚の紙を渡す。書かれているのは、私が情報を置いている私が作ったサーバーへのアクセス方法と期限。
「…これは安全なのかい?」
「はっはーどこぞの宇宙局と違いますから抜かりないですよー」
 1年前のNAZU不正アクセス事件。もち調べたさ。Norを使ったとかいうあれね。言うほどNorも難しいものじゃなかったぞ。あれならノアズ・アークの方がヤバい。
「…本当に、よく知っているようだ」
「あっイケメンの為ならと色々いれといたんで!期限内に見といてくださいね!期限過ぎたら情報そのものも消滅するんで、ローカルにコピーとかしても消えるので」
「分かった、ありがとう」
 ありがとう…ありがとう…お礼言われた…ああ…耳が孕む…
「ぐへへ」
「…降谷さん、この人大丈夫なんですか」
「ほっておけ、いつものことだ。しかし、まさかこういう形で渡されるとは思わなかった」
 若干降谷さんが出てるよねこれ、安室さんじゃないよね、いや今は降谷さんか。にたにたを止めず答えた。
「物理的な媒体で渡すのはヒューマンエラーが起きやすいですからね。それにそっちの方が防衛も追跡もしやすいですし」
 本当はメールで伝えようと思ったけど、降谷さん見たさに態々会いに来た。尊い。
「それじゃ、私は仕事があるので!」
「助かった、態々ありがとう」
「ぐひひ、またどうぞよろしくです!」
 シュバッと敬礼して降谷さんに背を向ける。これでまたしばらく萌えの給油ができたので大満足だ。