強くてニューゲーム

その一、「名探偵コナン」における主要人物は死んではならない。彼ら“キーパーソン”が如何なる怪我や病気、又は原作に沿わない行いをしても問題ない。尚、原作時に死の描写がある原作前に死んだ人間はキーパーソンに含まれない。また、原作中に死んだキーパーソンは以降キーパーソンから外れる。

その二、組織は江戸川コナン主導の元で壊滅させなければならない。工藤新一による壊滅はそれに限らない。

その三、組織の壊滅は工藤新一が江戸川コナンになってから1年以内にさせなければならない。

その四、江戸川コナンは工藤新一に戻らなければならない。組織が壊滅してから1年以内に戻らなければならない。

その五、私の本来の姿、声、名前を知ったキーパーソンは最短で数時間以内、長くとも1年以内に死ぬ。変装や変声による接触は問題ない。但しそれが変装無いし変声であると見破られると本来の自分を見られたと同義になる。想起によるものはこの限りではない。

その六、接触したキーパーソンが死なないようにする為にはそのキーパーソンに絶望が訪れた後、一定以上の好感度がなければならない。

その七、キーパーソンは本来死ぬべき時でないときに死の危険が訪れる。必ず起こる事件、または偶発的な事件、想像の範囲内で本来は起こらない事件など。

その八、キーパーソンが私のように繰り返しを実感するには、私との深い関わりもしくは私の身に起きている事象を心から理解すること…だと思われる…。


 現場に行ってみればそこにあったのは解体済みの爆弾だった。
「これは、どういうことだ?」
 解体済み、というより寧ろこれから作りはじめるかのように、パーツの一つ一つが丁寧に並べられている。基盤にハンダの跡がなければこれから爆弾を作ろうとしていたといってもおかしくはないくらい。そしてそのパーツから爆弾だったものは本物であると分かる。
「…爆弾犯が自らこんなことをするとは思えない。マンションの監視カメラの確認、爆弾と…こいつから指紋が出るか確認しろ」
 部下に指示を出し、供えるように置かれていた、どこにでも売っているような市販の缶コーヒーを手に取った。
 動きづらいという理由で防護服は来ていないが、証拠を上塗りするほど馬鹿ではないつもりだ。白い手袋をはめて、指紋を拭き取らないよう慎重に缶コーヒーを確認した。
「…なんだ?」
 缶コーヒーの裏に英語が書かれている。単語は中学生でも習うものだが、どうもうまく訳せない。
「おい馬場、お前英語得意だったよな」
 防護服を着ている部下の1人に声をかける。馬場は解体済みの爆弾の状況を写真におさめていた。
「え?ああ、得意って言っても読み書きだけですけどね」
「これ、読めるか?」
 防護服のヘルメットを外した馬場に、缶コーヒーの底を見せる。
「えーっと?…うーん、『“そして”、だから真実ではない』?”And”の訳し方が難しいですね。他に文章があって、それの抜粋とかなら分かるんですけど、Andを強調してる理由がわからないですし…すみません、正直意味が分からないです」
「だよなー。俺も」
 “And”,so it not true.
 英語が得意なやつ他にいたかと思い浮かべるが、今はほとんど連絡の取れない同期の顔しか思い浮かばなかった。


 爆弾があると思われる観覧車の籠に入るやいなや見えたそれらに思わず「は?」と声を出してしまった。ガムテープで拘束された男が涙目で椅子の上に横たわっている。何かを必死に訴えるその視線の先には、本来の目的である爆弾があった。
「…いや、は?」
 行ったら既に解体済みだったんだよ、と4年前の親友の言葉が脳裏をよぎる。ご丁寧にパーツ1つ1つ丁寧に解体されていたという。写真で見たが、フリーマーケットで部品を売ってるみたいだなと感想を零した記憶はある。なるほど、こういうことかと変に冷静に思った。
 観覧車は止まる。今いる籠と地面とは、飛び降りれなくはない高さだ。一先ず拘束されていた男の口だけ解放してやる。
「これはどういうことだ?」
「お、俺が聞きてえよ!爆弾の様子を見ようと近くにいたら、いきなり布みたいなのを口に当てられて、気付いたらこうなってたんだよ!」
 ここに爆弾が仕掛けられているとはまだ報道されていない。つまり、ここに爆弾があるのを知っているのは警察と、その犯人のみ。拘束された男が被害者の線もあったが、自分から犯人である証言をしてくれた。
「…そうか、とりあえず、ついてきてもらおうか」
 口元と足の拘束は解いたが腕は解放してやらない。馴染み深いサイレンの音が近くまで聞こえてきた。開け放したままの扉から少し外を様子見ると、最近親しくなった女刑事がいた。
「松田君!無事!?」
「ああ、爆弾は解体済みだった。犯人がいる、籠を戻せるか?」
「ええ、もう少しで逆回転するはずよ」
「ところで…もう一つは」
「それが…ついさっき萩原君から連絡があったんだけど、発見した時には既に解体済みだったそうよ。「4年前と同じだ」って」
 観覧車に向かう途中であった通報は「病院に不審物がある」というもの。気が動転していた看護師を落ち着かせ、その不審物が爆弾であろうと予測をつけた。病院には心臓の弱い患者も、精神的に負担を掛けてはいけない患者もいる。なるべく冷静に避難するよう指示を出し、自分は観覧車の方へ、親友は病院の方へ向かったのだ。
 ここから病院まではそこまで近くはない。パトカーに乗せられる犯人を横目に一服吸う。着信を知らせるポケットの震えに手を伸ばした。
「よー萩原、そっちも同じ、らしいじゃねえか」
「松田の方もな。…そっちに、他に変なものなかったか?例えば、缶コーヒーとか」
 萩原に言われ、改めて籠の中を見る。椅子の下に、4年前写真で見たものと同じ缶コーヒーがあった。
「ああ、あったぜ。どうせ指紋ないだろうけどな」
「俺のところにもあった。底には『Do not die at best.』…馬場翻訳によると『せいぜい死ぬなよ』と書いてあるそうだ」
 あの意味を知るべく馬場は大分英語を勉強していると聞いた。そのおかげか英語に強くなったやつの訳を馬場翻訳と言われるようになった。けれど馬場は4年前のあの英文に合う訳を未だ確定できていない。
「俺のも馬場翻訳頼んだ。メールで送る」
 電話を切り、缶コーヒーの底の写真をとり萩原にメールを送った。
「松田君!行くわよ!」
「おー」

 警視庁に戻ると既に萩原はいた。片手をあげ、馬場翻訳の結果を聞く。
「馬場曰く、これくらいなら4年前も読めた、だそうだ。突然難易度が下がって少し拗ねてたな」
「変な対抗心燃やしてるところあるなあいつ。それで?」
「『Originally you guys are not so』、『お前らはもともとそうじゃねえ』って意味じゃねえかってさ」
「『せいぜい死ぬなよ、お前らはもともとそうじゃねえ』…お前らっていうのは警察のことか?」
「4年前もこの爆弾事件も警察を狙ったものだからな、可能性はありそうだが…こんなまどろっこしいことするか?」
「こいつ、何がしたいんだろうな。ま、おかげで誰も死なずに助かってはいるんだけどな。やはり調べる必要があるか」
 爆弾を解体し犯人を捕らえていた。一般人がやったとしたら厳重注意ものだ。だが…
「通報してきた看護師によると、発見した時は紙袋に入った状態だったらしい。だが、俺たちが発見した時には既にあの写真の状態だった」
「通報の後に病院で解体、直ぐに観覧車へ向かい犯人を捕らえ籠に入れる。そして爆弾を解体…病院から観覧車まで車で15分、お前が通報から病院へ着いたのも丁度同じくらいか」
「松田が観覧車に着いたのはその5分後だったか。…解体が早すぎる、加えて爆弾の位置も知っていたし犯人も知っていた。只者じゃねえな」
「ああ…」
 周辺の監視カメラの確認、病院から観覧車まですっ飛ばした車探し、当分暇が無さそうだ。松田と萩原は顔を見合わせ不敵に笑った。
「ぜってえ見つけてやる」
「逃げられると思うなよ」