ポケットに入らないモンスター
9
(……やっぱりツケられてるな…)
カバンに隠れて視線に気付けない2匹でも、私の緊張感が伝わっている筈だ。
マスコミが高校に押し寄せたあの日から数日間、特に高校周辺で誰かにつけられているのが分かった。家はバレないよういつも違うルートで帰って、なんなら途中で制服から私服に変えたりリバーシブルタイプのカバンをひっくり返して全く別人を装ったりしてるから、まだ家はバレていないはず。心当たりがあり過ぎる…先生に相談すべきか…。悩んでいる間に事件は起きた。
ピカチュウのお気に入り生徒は上鳴、カービィのお気に入りは一に先生、二に轟。先生は餌付けされたとして、轟の頭がおいしそうというカービィの考えは全く理解できない。上鳴も上鳴でピカチュウを好意的に見ててくれるので安心して預けられる。救助訓練で乗ったバスで、ピカチュウは上鳴の肩にいた。あそこまで気にいるのは珍しい…上鳴の個性に相当惹かれたみたいだ。カービィは私の肩に乗って窓の外を眺めている。
隣に座った轟と特に会話することもないので、轟にならって私も目を瞑った。カービィの背に頭を預けうとうとする。この弾力…ぽよぽよ感がたまらない…。
バスの騒がしさに混ざることなく着いた設備はテレビで見たUSJみたいだった。おおーとみんなと共に驚く。
「ウソの災害や事故ルーム、略してUSJさ!」
「「「ほんとにUSJだった」」」
ネーミングセンス…いいのかそれ、著作権的に大丈夫?
授業が始まるからピカチュウが上鳴から私の元へ戻って来た。スペースヒーロー13号のお小言というか演説にパチパチと拍手をする。
ヒーローになるにあたって恐らく私が今一番持ってない能力はレスキュー関連だ。医療知識とか持ってないし、ピカチュウとカービィと共にどのような場面でどう助ければいいかまだ想像力が足りない。めっちゃがんばろ、と1人意気込んでいると空気が変わった。
「なんだあれ、またもう始まってるってパターン?」
「違う…あれは、ヴィランだ」
「ピカピ!」
敵意を感じるとピカチュウが教えてくれる。どうやら本当に予期せぬ事態のようだ。ピカチュウとカービィが私から降りて戦闘態勢に入った。先生に言われ上鳴が通信を図るけど、ジャミングが酷く交信できないらしい。やーな個性がいるようだ。
「全員一塊になって動くな!13号、生徒を守れ」
「イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ、正面からの戦闘は……」
「一芸だけじゃヒーローは務まらん」
先生はヴィランの元へ行き、13号先生が「みなさんは出口へ!!」と指示を出す。「ピカチュウ、カービィ、ここは引くよ」と今にも飛び出しそうな2匹に声をかけ、他の生徒に混ざり出口を目指した。
先頭を走るクラスメートの前に突然黒い靄が現れた。さっき遠目で見えたのと同じだ。 ワープ的な個性の持ち主か…?めちゃくちゃ厄介じゃん…。
「はじめまして。我々はヴィラン連合。僭越ながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは、ヒーローの象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして。本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるハズですが…、何か変更合ったのでしょうか?」
余裕たっぷりな口調でご丁寧にも目的を語りながら私らを見下ろすヴィラン。警戒するピカチュウとカービィ、そしてその背後の私で目が留まった。
「それともう一つ、“モンスター使い”を頂戴させて頂こうかと。貴女の個性は非常に魅力的ですからね」
「…ここ最近のストーカーはおたくらかな?」
「私めは心当たりありませんね、流石“歩く1億円”…大変人気の様で」
「いや流石にそれは初耳」
なんだよ1億円って……と戸惑っていると13号先生が個性を使おうとするのと、爆豪と切島が殴りかかろうとしているのが見えた。その隙にカービィにウェストポーチから取り出した鏡を吸い込ませた。星柄の赤と水色のピエロの様な帽子に水晶の付いたステッキをもつ。
カービィをコピーできたがあのワープの発動範囲範囲かなり広い。あっという間に視界が黒い靄で覆われてしまった。
「ピカチュウ!カービィ!誰かと一緒にいるんだ!」
「ぽよ!!」
同意の返事ではなく1人になろうとするなという批判的なカービィの返事が、足元にからではなく少し遠くから聞こえたような気がした。