CCM
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性能の格差はあっても、例えば「会心率アップ」とか「詠唱時間短縮」といった効果はどの武器にもない。逆に言えば矢に毒なり何なり塗ればどの武器も「攻撃時〇%で麻痺」「攻撃時〇%で眠り」という効果をつけられる。問題なのが毒の所持が認められていないんだよねこれが。アメリカとかだとOK出てるらしいんだけど、日本じゃ使用どころか所持も認められていない。でもまあメイドインジャパンだと「軽い」「丈夫」「使い勝手」が他国に比べめちゃくちゃ良い。見た目も拘ってくれるから尚良し。普段使用している武器はトライチャクラムの見た目をしたブーメラン。本部や支部から現場へ向かうときはプラスで白く塗装されたナイトスイーパーの見た目をした弓も使用する。中・遠距離戦が得意で、ハンマーがあれば近距離も可能。ただそのハンマーは使い辛そうだという上層部のイメージで武器開発が行われていない。そこんとこは「かっこよさそうだよね!」と言う理由でGOサインが出るアメリカが羨ましい。
DQでは矢は無限に出ていたが現実はどうなのかというと勿論制限がある。開発部が頑張ってくれたおかげで50本も入るようになった。弓使ってるくせに弓道は詳しくないのでこれが多いのか普通なのかは全く分からないけど、想像だと数本しか入らないイメージだったから私としては多いという印象だ。背負うと背中につけているブーメランが当たっていたいしブーメランも取りづらいので腰に下げている。
訓練場で1人訓練をしているとスマホが鳴った。仕事関係の人間しか登録していない哀しいスマホをポケットから出し耳に当てる。青山上等捜査官からだ。
「はい、柊です」
「青山だ。園崎二等捜査官が負傷してパトロールに出られない、空いた時間は暫く園崎二等捜査官のパトロール区域も巡回してくれ」
今1日14時間パトロールしてるだろ?週6で。園崎二等捜査官は確か1日12時間週5日だろ?単純計算で1週間144時間パトロール…?寝ず食わずで6日か、1日20時間パトロール?食事風呂トイレ睡眠を4時間で?人間としての健康な生活って知ってる?
「それじゃ、頼んだぞ」
ここでノーと言えないのが縦社会の辛さよ……。上の命令はぜったーい。パトロール区域拡大と時間の増加、か。食べながら寝られる器用さが欲しい。
時空の歪みは大抵地上より高い位置に出現することが多い。地中に出現というのは今のところ聞いたことが無い。ただビル内に出現と言った話は聞いたことがある。幸い日本ではまだないが。
とにかくそういうわけで高いところから見渡すのが歪み発見で最も効率的だと言うのは、私たちの中では常識として存在していた。大抵のビルは屋上へは関係者以外立ち入り禁止だから、手帳をチラ見せして上がらせてもらう。パトロールのコースは人によっては固定だ。私はその時の気分でコースを変えるから、なんだかんだで必ず通る道はあってもこのコースを必ず通ると決めてはいない。園崎二等捜査官は固定派だった。だからビルの受付でチラ見せしたら特に慌てた様子もなく関係者用のネームプレートを渡された。
「あ!この人です!」
屋上で見渡し終えて次の場所へ向かおうとエレベーターで下っていたら18階あたりで止まった。乗ってくるかなと気を遣って開くボタンを押してたら、開くや否や女性が私を指さした。その後ろにはスーツを着た男性や女性、高校生らしき人物や子供もいる。
分かりますよ一方的に。というかそういえばパトカーのサイレンの音聞こえてたけど、ここに用があったのか。誰か死んだかおい。女性の後ろに立っていたのは目暮警部、白鳥警部、佐藤刑事、高木刑事、毛利蘭、鈴木園子、江戸川コナン、沖矢昴ってところですかね。というか探偵団にあってからやたら遭遇率高くないか?まさか松田さんと萩原さんに職質されると思わなかったし、安室さんがフォローするかのように話に混ざって来たのはビックリだった。いくら公安でも私の情報を抜くことはできないはずだから、安室さんの言っていた通りあの子らが口を滑らしたか若しくは安室さんが巧みに聞き出したかのどちらかだろうな。
「……乗らないんですか?」
「すみませんがこちらで事件が発生しましてね、お時間よろしいですか?」
目暮警部に言われエレベーターを降りどこかへ連れられる。両開きの扉の先には見知らぬ男女が7名ほどいた。壁際には美味しそうなデザートがたくさん並んでいる。スイーツバイキングみたいなやつかな。
「実は殺人事件がありまして、そちらの女性がCCMを名乗る不審な人物がいたと証言したのでお話を伺えないかと」
私がCCMだと知っているのは受付嬢だけの筈。彼女が誰かにそれを言おうものなら彼女は処罰対象だ。しかし聞いたところによると、園崎さんは顔パスで通れるほどその受付嬢と顔見知りの仲のはずだ。人が変わったからと言って他者に言うとは思えない。
事情聴取、ってことは私が容疑者に上がっているらしい。いやいや何をおっしゃるか。命賭けて市民を守る職業の人間が何でその市民を殺すんだよ。……人間じゃない相手に、いつ死ぬか分からない恐怖から自殺するハンターも病みに病んで人を殺めてしまったハンターがいることも事実だけどさ。
とりあえず顔確認として遺体の元へ案内された。首を引っ掻いた跡あり、口から泡を吹いて瞳孔かっぴらいて亡くなっている。まさしく「苦しんで死んだ」ようだ。両手を合わせ静かに黙とうを捧げる。
「こ、この女が正彦に近づいているの見たんだから!CCMだとか何とか言って彼を騙したのよ!そして殺したんだわ!」
誰だ正彦、多分亡くなられたこの男性のことか。なるほど、話は読めた。この女性が私を犯人に仕立て上げようとしてるってことかな。色々言ってやりたいところだがここで本物のCCMだって分かったら警察は怖気つくと思う、多分、経験上。
「お名前をお伺いしても?」
デジャブだ……どうしたものかと思いつつ公平に捜査されるべきだと判断し馬鹿正直に「柊椎名です」と名乗った。同じ捜査一課だけど松田さんや萩原さんは見当たらない。非番か?お疲れ様ですしっかりお休んでください。
ご職業は?公務員です。ここへは何しに?仕事の一環で。どのようなお仕事を?パトロールとか、色々。ごにょごにょと我ながらもっと誤魔化さないんかいと突っ込みながら正直に答えていく。怪しいぞこの人みたいな空気を肌で感じながらどうしようと悩んでいると、「この人犯人じゃないよ!」と元気な子供の声が聞こえた。
「そうですね、彼女は犯人ではないかと」
コナン少年に便乗したのは顔の整ったイケメン男性。はい、沖矢昴さんですねはいはい。
「だって斉藤さんがこのコーヒー飲んだ時、この人近くにいなかったじゃない?コーヒーはあそこのテーブルから自由にと取れるし、この女性が毒を入れたなら僕たちが会場でこの女性を見ててもおかしくないでしょ?」
「飲み物は僕らが来てから補充されていませんでした。そして貴方方の話から斉藤さんは自らコーヒーを選んで持ってきています。彼女がこっそり毒を入れたとしても斉藤さんをピンポイントで狙うのは難しいでしょう」
「誰でも良かったのよきっと!」
「いや、でも俺正彦のコーヒー一口飲んだけど何ともないし……」
喚く女性の傍らで知り合いらしい男性がポロリと何とも重要なことを吐いた。その発言に沖矢さんとコナン少年の眼鏡が光った気がした。
結局犯人は私を犯人に仕立て上げようとしたあの女性だった。一口飲んだという男性が目を離したすきに毒物をコーヒーへ混入したらしい。理由は浮気されてただけでなくその相手との間に子どもが出来たということを知った恨みだとか。うわー痴女のもつれー。
私は完全に巻き込まれただけの人間として開放された。良かった、上手いこと身分を明かさなくて済んだ。女子高生が「沖矢さん名推理―!」「コナン君もお手柄だったね」と燥いでいるのを耳にして少年を見る。
「コナン?」
「うん!僕江戸川コナンって言うんだ」
意図してかそうでないのか分からんけど率先して自己紹介してきた少年に目線を合わせ、眼鏡の向こうの瞳を見つめる。
「少年、知らない人にそう簡単に名乗っちゃいけないぞ」
「え?」
「君のお友達もそうだけど、なんでこう、危機感が無いかなぁ……」
私吉田歩美!僕は円谷光彦です!俺小嶋元太!と元気に自己紹介してきた子供たちを思い出す。灰原哀は最後まで自己紹介しなかったから素晴らしい。普通は名乗らんぞ。
「でもお姉さん悪い人じゃないでしょ?」
「そういう問題じゃなくてね」
「とってもいい人だって探偵団のみんなから聞いたよ!」
「あの程度でいい人判定って君ら基準低くない?大丈夫?」
「あの……コナン君とお知り合い何ですか?」
保護者立場の毛利蘭が恐る恐る聞いてきた。即座に「初対面です」と返す。戸惑うJK、ホー?と興味深そうに私を見降ろすイケメン男性。
「それにしては随分コナン君が慕っているようですが?」
「僕お姉さんとお友達になりたいなー」
お 友 達 に な り た い な ― !?
いやいやいやと思いながら、多分口から漏れてたと思うけどすくと立ち上がる。
「仕事あるので失礼します」
彼女らに一礼、刑事さん達にもお疲れ様です失礼しますと声をかけ早々に部屋から出た。と言うかコナン少年、探偵団から聞いてたなら私の正体知ってるでしょうが。