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悩み相談室1

No.3

とある審神者のお悩み相談室その①~大倶利伽羅~
設定はほとんど上記リンクにあるので省略まとめなおしのためリンク先削除

「最近、光忠が眩しい」
休憩の手慰みに政府から依頼された呪物の解呪を、縁側で日向ぼっこしながらしていたら突然隣に大倶利伽羅が座った。馴れ合わない系男士No.1はうちでも変わらず基本1人でいることが多い。まあ本刃がそれを望むならと程よく接していたら「主なのにちゃんとみてあげないと駄目でしょ!!」と見知らぬ審神者に何故か叱られ、なんだこいつ…と思ってたら「自己満足のためにつきあわされるそっちの俺より、刀として扱いつつ一個人として尊重してくれるこいつのほうがよっぽど主だがな」と言い返したのは大倶利伽羅が初めて演練に行ったときだったか。顕現して2週間ほどだったと思うが、私が思ってるより好印象を抱いていてくれたらしい。まあだからといって馴れ合いには行かないけど。
休憩中はみな気を使ってくれているようで、用事がなければ執務室周辺には誰も来ない。最初は休憩時間はまちまちだったが、いつしか八つ時が休憩時間になっていた。食べられる甘いものと食べられない甘いものがあり、お八つに関しては大変面倒な味覚だと自覚があるため、お八つの内容を聞いて欲しければ貰いに行くというスタイル。今日のお八つは練りきりだから残念ながら私は食べられないなと気にせず休憩していた。いつもは1人の休憩時間に、馴れ合わない一匹龍がお盆を持って近づいてきたかと思えば、私の隣にそれをおき間に挟むように自分も座った。お盆の上にはお茶よりカフェ系を好む私がよく飲むカフェオレとクッキー、自分用にだろうお茶と練りきりがあった。
珍しいこともあるもんだなぁとひとまずお礼を告げようと口を開いたときである。
「光忠がきらきらして見える」
先程の言葉が聞こえてなかったと思ったのか、言い方を変え同じようなことを言う。
さて、今朝見た燭台切はきらきらしていただろうか。最近ということは今朝方だけの話じゃなさそうだが…。主の負担を減らしたいからと食事に関して担ってくれている燭台切とは毎日話す。得手不得手関係なく最低限出来た方がいいという私の要望で厨当番は基本全員に回ってくる。とりわけ得意な燭台切と歌仙は進んで当番に入っているようだ。本人が望んでいるとは言え負担を減らしてやりたいと、和泉守と鶴丸が彼らの代わりに馬当番を勝って出ることが多いらしい。優しい子がお遅れ主は嬉しいぞ、というのは置いといて。
何かと視える便利で不便な目でみた燭台切を思い出す。普段と変わった様子もなかった。となると大倶利伽羅だけがそう視えるのだろうか。同郷だから?鶴丸にも聞いてみたほうが良いか…?
「なにか特定の条件下でそう視える?それともそう視えるようになってから常に?」
何か要因があるだろうか。うちは、というか私が特殊な事情を持つ審神者なので不安要素は可能な限り早期に排除したい。
「…そうだな…」
ずずっとお茶を静かめにすすった大倶利伽羅は少し思案し続ける。
「明確にいつからというのは正直分からない。気付いたら、そう見えた。気付いてからはなんだかあいつを見ていたいと思うし、あいつの目にうつりたいと思うようになった。敵の首を切り落としたときに誰にも見えないよう不敵に笑う顔、料理中に味加減を少し間違えて恥ずかしそうにする顔、俺が近づいたら嬉しそうに呼ぶ声。眩しく見えるのはそういうときだな」
以前この本丸では、ある刀剣が言いづらくてでも言うほどでもないからと隠していたら大事になった事件があった。それ以降「最低限主には隠さないこと、聞かれたことには正直に答えること」がルール化した。何でもかんでも把握したいほど支配欲もないし、知られたくないことの一つや二つあるだろうしルール化までしなくとも…と言ったら「主を失いかけたんだ、これくらいしないとだめだ」と初期刀南泉一文字が真剣な表情をしていたのを思い出す。私にとってはまたかという出来事でも、思えば彼らにとっては初めて遭遇した出来事だった。主が逢魔人というのは大変だなと少し申し訳なく思う。
そういうことがあり、この本丸の刀剣達は私に対しては包み隠さず心情を打ち明けることが多い。といっても他の本丸に比べて素直だねくらいのもの。だから正直に話す大倶利伽羅については「ああ彼もルールを守ってるんだなぁ」くらいの気持ちではあったが、内容を聞く限り「そこまで包み隠さず話すのか」と驚きもある。
思わず箱の形をした呪物から大倶利伽羅に視線を移す。大倶利伽羅は視線に気づいてこちらの目をしかと見つめてくる。
まあ、主なので、一応自分の刀剣のことはそれなりに分かってるつもりではある。恐らく彼は燭台切がキラキラして見える理由を分かっている。分かっているが、合っているのか自信がない、あるいは明確に定義づけて良いのか分からない、といったところだろうか。
「うーん……心ってのは面白いもんでね、ときに流れ移ろい、それでいて変わらずそこにあったりする」
視線を戻し再び解呪の作業に入る。呪物を扱いながら話すのは私にとって弾き語りくらいの難易度だ。
「この気持ちは、この感情は、名付けるならこれだ!ってあるなら決めてもいいと思うけどね。決定打に欠けるなら見つけるまで存分に動いてみればいい」
「…面倒ではないか?」
珍しくどこか弱気な言葉に「何が?」と返す。すこしの躊躇いの後、大倶利伽羅は一気にお茶を煽った。
「自分の刀剣が色恋沙汰など、面倒だろう。気にしないといけないことが増える」
「おや、私が恋仲同士を気にすると」
「するだろうあんたなら。こっそり非番を合わせようとしたり悟られないよう逢引の機会を与えたり」
「えらい具体的な…」
「加州が言っていた」
つい最近「実は…恋仲に、なったんだ」と恥ずかしそうに大和守と報告してきた加州を思い出す。本丸全体に公言はしていないが私と新選組には報告したそうだ。茶化されるのが好きじゃないという彼らの気持ちはよく分かる。とはいえ隠すものでもないからとこそこそしている様子はない。気付いているものは気付いているし、付き合っているのか聞かれた時は素直に答えているようだ。気を遣いすぎることもなく、見守るような当刃たちの好きにさせるような。割りと良い環境だとは思う。
加州と大和守は練度差があるから部隊が一緒になることはあまりない。部隊が異なると途端に非番が噛み合いづらくなる。恋仲になったことで本丸や主に不利益が生じるのは嫌だというので、編成に関しても気を回さなくて良いとは言われている。だがそうすると本当に、下手すると一週間合わないなんてことも出てしまうわけで。現世から離れることを理由に恋人と別れた私からすると、折角同じ屋根の下で生活してるのに会うことすらかなわないなんてと悲しくなる。だからこっそりあれこれ手回ししていたわけだが、流石に本刃たちにはバレバレだったようだ。
「面倒かどうかでいったら全然、むしろ楽しいとすら思ってるかも…?」
「楽しい……?」
一月ごとに出すシフト表みたいな予定表を思い出しているのか不可解な表情をされる。私は割と好きな作業だが、役に立ちたいからと事務仕事を頑張ってくれている長谷部も「主命でもできればやりたくない作業」と評しているらしい。「別の本丸で当番がほぼ固定されてるって言った理由がよく分かる」といったのは燭台切、「数字はいいけどこれはちょっと…」と苦笑したのは松井。よその審神者と話してるとこの作業が得意な人と苦手な人がはっきりと分かれていて面白い。ただし皆一様に「頭使うし疲れる」と言っていた。だから私が楽しいというのはなんでと思うのも仕方ないんだろう。
「なんかテトリス…パズルやってるみたいな感じがして楽しい」
穴を埋めていくような作業、かっちりハマってそれが理想に近いと達成感がある。だからシフトを組むのはかなり好きだった。
「うつつを抜かして本懐を忘れるんであれば考えものだけどね。君らはオンオフしっかりしてくれるから、その当たりは心配してないかな」
どれだけ喧嘩しても出陣となるとその気配を瞬時に消し背中を預け合う仲間となる。揉め事は他のものを巻き込まない、私闘で消費した資材は自分たちで調達。私が定めたものではなく刀剣達が自分たちなりに考えた様々なルール。担当にも「そちらの刀剣は非常に自立していて、共同生活の意味をよく理解してらっしゃいますね」と褒めていたな。自信が担当している他本丸で色々あるらしく刀剣男士に関しては手がかからなくて助かると言っていた。
「……そうか」
どこか安堵したように息を零す。いつのまにかしっかり練りきりも完食していた。
じゅわっと手元の箱から呪いが消える。焼けるような痛みはあるも怪我はしていない。ひとまずこれで呪いについては大丈夫だろう。中身を知ってどうするかは政府が判断することだ。要望通りのことはしたので私の仕事はここまで。
送られてきたときと同じものに包み直しこんのすけを呼ぶ。どうやら厨で油揚げをつまみ食いしていたらしく口の中をモゴモゴしながらやってきた。また鳴狐のお供とつまみ食いしていたんだろう。口の中が空になったのを見計らってティッシュで口元を拭ってやる。物を持たせてこんのすけが政府へ消えたときにはすでに大倶利伽羅はいなかった。
相変わらず猫みたいな刀だな、と思ったのはここだけの話だ。close


#刀剣乱夢 #悩み相談室