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ネタ3

No.14

乙女ゲー転生についてもういっこほんわり考えてるのは、
「乙女ゲーの主人公に転生したけど攻略とかどうでもいい」夢主と
「乙女ゲーの攻略対象に転生したが許嫁も将来も嫌なので自由になりたい」元刀剣男士による
ドタバタギャグコメディー……ギャグ?書けるのか?私に?

夢主はとうらぶユーザーだったんだけど、有志が作った刀剣男士を攻略する同人乙女ゲーとしてちゃっかりプレイ済み。
ただ乙女ゲーを知らなすぎて「こうはしないやろ」と素でプレイした結果バッドエンドになった。悲しみ。
刀剣男士側はその乙女ゲーのボイス担当をしていたから自分のパートはある程度知っている。
誰が作ったかわからないが「審神者と刀剣男士に大変不人気な乙女ゲー」として有名だった。

「攻略どうでもいい主人公になんとか落としてもらおうとする乙女ゲー転生物語」
タイトルながっ
略称は「VSJK」とかにしとこ。刀剣男士側が主人公の「J(常識的に)K(考えて)」と戦うみたいな。

 入学式が滞りなく終わり、担任に寄る説明も終わり下校時間。
 乙女ゲーに、しかもどうやら主人公ポジに転生したみたいだが人のポケモンを奪わないじゃないが手を出そうとは思わない。というかやれ政治家の子どもだの大企業の子息だの、住む世界が違いすぎて入り込もうとすら思わない。
 いろいろあってこの学校に通うことになってしまったけれど、高校卒業したら外部の大学進学して、両親がこじんまりと経営しているパン屋さんの後を継ぎたいなぁみたいな将来設計をぼんやりと考えていた。
 なんてぽやぽや考えながら校門へ向かっていると、突然目の前に誰かが来た。仁王立ちして腕を組み背筋を伸ばしながら睨むように見下ろしてきたのは、
(え、山姥切の長義さんじゃないですか)
「………君、特待生だよね」
 自己紹介もなくやはり何故か睨まれたまま尋ねて……いやこれは尋ねてるというより確認だな。
「……あ、はい、そうですけど……何か……?」
 恐る恐る尋ねればスゥっと息を吸ったかと思うと「違うっ!!そうじゃないっ!!」と地団駄を踏み出した。ご乱心か?
「特待生だろ!!入学初日に遅刻して入学式中に礼儀も詫びなく入り込んで場を騒然とさせるんだろ!!相手が誰であろうが敬語も使わずそしてドジふんでかわいこぶって俺たちを落としてくんだろっ!!」
「えー……」
 それはあの乙女ゲーでの話では?あ、今その乙女ゲーにいるから私は本来そういう立ち回りをするはずだったのか……。というか何故それを知ってるんだ?よくわからんけどとりあえず。
「入学初日に遅刻は流石に意識低すぎでは……?特待生として誘致された以上、相応の立ち振舞をすべきかと……」
「正論っ!!」
 ダンッダンッと踏むだけ踏んで何が納得出来ないのか不満そうな表情で相変わらず睨んでくる。え、こわ。
「えっと、家のことしないといけないので失礼しますね……?」
「そうだね!一人暮らしだよね!自分で家事するの偉いね!でもそこは「今からうちでお茶飲むんだけど一緒にどうかしら?」って聞くところだろ!」
「え、なんで知ってるんですか…こわ……というかそれなら尚初対面の男性を一人暮らしの家に連れ込むとかあまりよろしくはないのでは」
「自衛できて偉いね!!あとストーカーではないから!!怖がらないで!」
 なんだこの山姥切長義、情緒不安定か?こんな面白い人なん、うちの本丸の長義ならもっとクールだからすげえ面白い。まあうちの本丸といってもあっちもゲームだったけども。
「とにかく!明日からはきちんと俺を落としにかかること!!」
「………えー…」
 この人いたよな、許嫁、それもメンがヘラってる系の。
「えーじゃない!まったくどうなってるんだ」
 いかにもぷんすかと擬態語が付きそうな態度で「じゃあね!気をつけて帰ってね!」と去っていった。
 ……いったいぜんたい、なんなんだ……close


#刀剣乱夢 #VSJK

No.5

とある世界線での物語の欺瞞の理由とはの冒頭

 何のために戦えば良いのかわからない。どこに在れば良いのかもわからない。
 刀解すら許されず、折れることも出来ず、どうすればいいんだ。
 こんなこと言われも困るだろうに、君の話を聞きたいなんて初めて言われたから、いや、もしかしたらどこかで救いを求めていたのかもしれない。
 審神者は「ふむ」と一つ思案し提案してきた。
「なら、―――――?」
 そのあまりに突飛な内容に是と答えてしまったのは、きっとそれだけ疲れていたんだろうと今になって思う。


 本来ならば、戦力を増やすため多くの刀剣を従えるべきである。二振り目以上の顕現は推奨されていないが、歴戦の審神者や育成が趣味のような審神者あたりは二振り目以降を顕現し戦力として数えているという。しかし数が増えれば良いと一概には言えず、刀剣との向き合い方次第では忠誠心が上がらず、あるいは「鈍らになるくらいなら」と刀解を願い出るものもいる。増やしたは良いが運営が下手で資金難に陥り、食減らしのために刀解したらそれを知った同郷や同じ刀派の刀が審神者に刃を向けたなんて事例もある。まあそういう本丸は元々審神者と刀剣との関係が友好ではないことがほとんどだが。
 審神者名を金糸雀というこの本丸の主は、刀剣と向き合える自信があまりないという理由で顕現数を制限しているらしい。采配さえ良ければ無理に向き合う必要は無いんじゃないかと進言したものもいるそうだが、適当なことをしたくないのだと随分真面目らしい。融通が利かない、ともいえる。少ない数で出陣や遠征を回していれば当然練度の上がりも早い。聚楽第の評定から配属された山姥切長義は、主の方針をそこまで悪いものではないと考えている。よその本丸でカンストし出陣も遠征もない所謂隠居の刀がいると政府にいた頃から知っているし、この本丸の刀剣達も他の本丸の刀剣達との交流の中で知っているという。「隠居して刀揮う機会が減るのはなぁ」と主の方針にありがたがる刀剣がほとんどだ。というより、どういうわけだか皆血気盛んがすごい。和泉守あたりは納得する者も多いだろうが、まさか鶯丸が「暇だから出陣したいんだが」と近侍に尋ねるとは思わなかった。縁側で茶を飲むより戦場にいる時間の方が長いんじゃないかとすら思う。多くの本丸が採用している週二休制度がこの本丸にないのは戦好きの多さが所以だろう。「あんたらが良くても主に休みが必要だ」と近侍の説得により、主は週二休でその二日間は遠征のみとしている。逆に言えば休みいらんという者ばかりなので、「休みが欲しい」といえば理由が何であれ編成がどうであれ即通る。ただ自分が非番になることによるしわ寄せが他の刀剣に行くことは本刃も分かっているので、休みたい日に関係する刀剣達に一言告げてからという暗黙の了解があるのだと教えてくれたのは鯰尾だった。「まあ人数少ないしみんなカンストしてるんで、急な休みになってもなんとかなることがほとんどなんですよ。だから山姥切さんも遠慮なく言ってくださいね!」とウィンクまじりに言われた。
 池田屋の攻略どころか延享の攻略も済んでいる。修行済みが2振りしかいないので青野原は難しいようだが、主への忠誠心もしっかり伺える。道具は余っているだろうに、修行に行かないのは少し不思議だった。
 いや、それよりも気になるのは―――。
「山姥切、明日の出陣のことで話がある」
 声をかけられ思考が遮られる。知っている声色に比べれば明らかに高めの声、振り返れば視線が知っているものより下にいく。
「……何かな、偽物ちゃん」
 この本丸の初期刀、山姥切国広は女の姿をしていた。
「写しと偽物は違う、と言ってもそう呼ばれるのは仕方ないとも、思っている」
 目深に被った白いボロ布から顔色は伺えない。亜種というだけでも珍しいのにそれが女体ともなれば、見目の綺麗な己の写しともなればより目を惹くのは想像に容易い。実際連れ去られかけたことが何度もあるため、万屋街や演練に一緒にいく時は気をつけてあげてほしいと兄弟刀に頼まれた。といっても連れ去られかけたことが本刃よりも主が気にしたのかその事件以降外出を制限されているらしい。もともと外に出る性格ではなかったらしく支障はないと本刃は気にしていない。放っておけばいいのに何となく気にしてしまうのは、偽物くんと歩いてる同位体に僅かばかりに羨望があるからだろうか。憎しみと同じくらいの愛おしさはどうしても捨てきれない。
「言っておくけど、お前が山姥切の名で顔を売ってるからそう呼んでるだけであって」
「亜種が理由ではないんだろう?」
「……分かってるじゃないか」
 だが彼、じゃない、彼女のいう「仕方ない」は何か別の意味が含まれているような気がしてならない。この引っかかる気持ちは3ヶ月たった今でも取れやしない。
「それで本題だが、出陣先を三条大橋に変更だ。編成は薬研、秋田、小夜、鯰尾、骨喰、部隊長は変わらず山姥切」
 三条大橋は夜戦だ。短刀脇差しの独壇場、打刀も動けるは動けるがやはり彼らにはかなわない。
「夜戦の経験は早いうちにしておいた方がいい、今の練度ならギリギリ許容範囲だろうとのことだ」
「三条大橋は検非違使が確認されていたと思うんだけど」
「検非違使に打刀以下は確認されていない。有利不利ならこちらのほうが有利だ。むしろ検非違使が出たほうが都合がいい」
 検非違使はこちらの練度に合わせて出現する、となると間違いなくカンストレベルの強敵が出るはずだ。いくら自分が特を超えたからと言って一撃で倒せるとは思っていない。練度上げ、というよりまさしく夜戦の経験のための出陣だろう。
「後れを取るつもりはない、が…」
 資材を消費するほどの練度でもないし、資材管理がしっかりしている本丸だからたとえ重症になっても問題ないだろう。それでも自分の力量くらいは分かっている。手入れ部屋行きは間違いないだろうなと密かに心構えをする。
「…手入れの資材は浮くようにしよう」
 重傷より軽傷の方が少なく済む。微々たるものかもしれないが、そうやすやすと重傷になってたまるかとプライドがある。自分の言葉に偽物ちゃんは少しの間の後にふっと笑ったような気がした。
「アンタのそういうところ、好ましいと思う」
 見た目でも十分亜種な彼女だが、これがまた性格も恐らく亜種だ。少なくとも自分が知ってる偽物くんは口下手で言いたいことが上手く言えないようなやつだ。政府で関わった偽物くんの言葉足らずに何度苛ついたことか。既に本丸配属になっていた同位体や、どうしてそうなったか全く理解できないが偽物くんと恋仲だという同位体から偽物くんの話を聞いている。「自己完結が過ぎるし本歌だから気を損ねたくないと余計に緊張して口が回らない。だから言いたいことの半分も伝わりはしない」とボヤいたそいつはいかにもそんなところも愛おしいと言いたげな……惚気話を聞かされて甘ったるさにその夜は激辛カレーを食べた記憶がある。
 とにかく、この偽物ちゃんは言いたいことが伝えたいように言えるタイプの亜種だ。そして自己完結しやすい偽物くんと比べ素直に聞いてくる。自分なんかが聞いても答えてくれないだろうだとか、余計に苛立たせてしまうかもだとか、そういう理由で聞きたいことも聞けない偽物くんがいるらしい。こちらの機嫌が悪ければ「何か嫌なことがあったのか?」と聞いてくるし、来て間もない頃は(正直大人気なかったと思うが)「お前と会ったからかな」なんて返したりもした。
「それは悪かった。ただ近侍の都合上俺から話しかけることが多いと思うから諦めてくれ。まあ俺はアンタと会えて嬉しいんだが」
 目深にかぶった白いボロ布では表情は伺えない。しかし声色はどう聞いても楽しさで跳ねていた。
「好き嫌いが出来てしまうのは仕方ないだろう。特に俺たちの間には複雑な事情がある。きっと俺がアンタを嫌いになることは無いだろうが自分の気持ちを押し付けるつもりもだから仲良くしてくれと言うつもりもないから安心してほしい。どうしても俺と会うのが嫌なら対処するから遠慮なく言ってくれ」
 からっと晴れたような声で全く気にしている様子のない言葉に拍子抜けして。
「お前は気にしなすぎだ。そもそも俺は嫌ってると言っていないんだけど」
「そうなのか、嬉しいから主に報告しておこう。まあ、細かいことは気にするな」
「それは鶯丸の言葉じゃないかな」
「実は結構気に入ってるんだ」
 自分が配属されて、偽物くんと普通に会話できるのはいつになるだろうと思っていた。山姥切長義は決して偽物くんを嫌ってはいない。写しが本歌を嫌わないと言うなら、己が愛された形でもある偽物くんを嫌いになれるわけがないのだ。だが号の事情でどうしても憎しみが出てきて嫌悪丸出しの対応をしてしまう。自分で言うのも何だが偽物くんに対してだけやたら拗らせてしまってるが故、偽物くん呼びの後にどう距離を縮めればいいか悩む同位体がほとんどだ。自分が配属した暁に起こりうる様々なパターンを予想し、どう返すかシミュレートして…なんて馬鹿真面目な同位体もいたな。自分はそこまでではなかったが普通の会話をするまで年単位はかかると踏んでいた。だから配属して1週間もせず意外と普通に会話できたのに驚いた。
 彼女が女だから、というより、あの陰鬱な雰囲気もなく兄弟の山伏のような雰囲気に近いのも理由の一つかもしれない。嫌味に対する返答も、こちらへの態度も、テンポの良い会話も、どうにも心地よいと思ってしまう。気安い、とはこれを言うんだろうな。
 出会った頃を思い出し得も言われぬ気持ちになる。反応のない自分に「山姥切?」と小首を傾げる声色に怯えや緊張はない。
「みんなお前くらいわかり易ければいいのに」
そしたら余計に拗れることも距離を詰めるのに時間がかかることもないだろうに。
「それは無理だろう。卑屈さも上手く言葉に出来ないのも、そうなるに至る理由があるのだから」
 何となく困ったような顔をした気がした。表情が見えないから気がしただけだ。
「アンタたちは号に思考がいっているように、山姥切国広は写しとして比較されてきた過去に思考がいっている。傑作である誇りと矜持で、偽物ではないのだと主張し続けて、やっと会えた己の根源から偽物呼ばわりされれば望まれていないのだとショックを受けるものだ。アンタが来たから写しの自分はいらないだろうとより卑下するやつもいるだろうし、隣に立ち共に戦いたいだとか認められたいと奮闘して空回りするやつもいるだろう。山姥切国広は愛情表現が不得手でとても不器用なんだ」
「なんだか随分他人事みたいな言い方をするね。お前のことでもあるだろ」
「さて、どうかな」
 まただ、この何かを含ませた、この言い方。
 ただの亜種なのだろうか、それとも何か別の理由があるのだろうか。
 そしてその原因はきっと主にあるのだろうと思う。
 何故なら、配属時の契約以降一度も主に会っていないのだから。



 顕現したとき以降一度も会ってないな、と皆口を揃えて言う。正確には堀川派以外の刀は。
 近侍の偽物ちゃんは毎日会っているようだし、堀川と山伏は時折主の世話をすることがあるという。
 だがそれ以外の刀剣は顕現時に一度会っただけ、もっと言うなら声すら聞いたことがない。それは自分も含めて。
 一時期は審神者もいたが今時そんな審神者はほぼいない。その絶滅危惧種が主というわけだが…顔どころか頭部を黒い布ですっぽり隠しているので、髪の色も長さも分からない。落ち着いた色合いの着流しで座した状態で対面したから身長も分からない。監査に来る前に見た情報だと二十歳になる女性らしい。それにしては女性らしさのかけらもない着流しだった。
(主に仕えられないと判断したらすぐに申告を、か…)
 自分も含め全員が主に、正確には主からの言葉だと契約時に近侍から言われた言葉。その意味が全くわからない。疚しいことをしているのかと勘ぐっても、2年目にしては刀剣数が少ないことを除けば優良本丸と言えるだろう。離から出てこないのを優良といっていいか分からないが、過剰出陣もなければ刀剣達の生活も十分保証されている。中傷での進軍はあるがそれが悪いと言ってしまえばそもそも戦は怪我をしないほうが難しい。進軍と撤退の見極めの的確さはこの3ヶ月で理解している。勿論近侍を通してだから主の声を直接聞いたことはない。刀装の色は大事にされているかどうかと直接関係しているとは思わない。金以外認めないとなれば資材を溶かすのは目に見えている。並でも問題ないと判断されれば並から使われるし、金でなければ厳しいと判断されれば躊躇なく金を使う。練度が低い自分は念の為と金刀装が多いが、特に夜戦にいく短刀脇差は並のことがほとんどだ。そして刀装が削れない。結局使うものの実力に左右される。
 偽物ちゃんを筆頭に堀川派を贔屓しているようにも見えるが、夜伽をしている気配はない。むしろそっちの話は嫌悪しているようだ。女性同士でのまぐわいかたは全く分からないが一度偽物ちゃんに「夜伽させられてないだろうね」と聞けば「女同士でどうやるんだ?」と純粋に質問された時の居た堪れなさといったら。堀川は「まさか!そっち方面にいい思い出ないみたいですから」、山伏は「主殿は刀剣思いが過ぎる方、同意ならまだしも私欲のために動く方ではない」と笑っていたしどちらも嘘をついているようには見えない。
 堀川派以外の刀剣は主と会えない話せないことに寂しさはあるものの、ひとまず刀として使ってもらえているから良しとしているようだ。
「あまり柿好きじゃないけど、小夜が好きなら好きになりたいって言ってたんだって」と自分のために植えられた柿の木の下で小夜が嬉しそうに話してくれた。植木を植えたから8年待つ必要のない柿は次の秋で収穫が初めての収穫だという。
 厨を担うことが多い燭台切や大倶利伽羅も「僕らが凝った料理作ったり拘ったりすると、そこに気付いて美味しいって言ってくれるんだ」とニコニコ言っていた。人数が少ないから全員料理が出来る。二振りはその言葉が嬉しくてつい手が空いたら厨当番に入ってしまうという。大倶利伽羅の作った甘味が特にお気に入りらしい。
「直接は会えなくても、体調が悪い時は近侍を通して真っ先に俺っちに相談してくれるからな。頼られてるってのは分かるもんさ」と様々な医学書に囲まれた薬研は誇らしげだ。詳しい話は主から余り知られたくないからと言われているようで教えてもらえなかったが、精神面でも何かと世話になっているようだ。
「僕が持って帰ったお土産、部屋に飾ってくれてるんです!」と何枚かの写真を見せてきたのは秋田だ。綺麗な丸い石や紅葉や小さな花など、文机に置いているらしいその写真には「綺麗だ」とか「秋田の秋がきたな」とか「枯れる前に押し花にして栞にしようと思う」など、ささやかなメッセージが裏面に書かれていた。意外と角張った、しかし大人びた文字からは確かに主の優しさがにじみ出ている。
「一度喧嘩して、謝るに謝れなくて、どうしようってときに相談に乗ってくれたんですよ」とノートを見せてくれたのは鯰尾と骨喰だ。何かと忙しい偽物ちゃんに相談するには申し訳なくて、ぐるぐると悩んでいた時に主からノートが来たのだという。「思い悩んでいるように見えるが近侍には言えないのかもしれないと、近侍から聞いた。便箋がなかったからノートにしてしまったんだが、自分で良ければ話を聞こう」とどこか偽物ちゃんを思わせる文面に、初期刀は主の性質をよく受け継ぐときくが逆もあるんだなと思わず笑ってしまった。鯰尾と骨喰とそれぞれ所謂交換ノートを重ね、そうしてやっと仲直りできたという。「今まで誰も折れていない。だからといって今後誰も折れないという保障はない。いつどこで何があるか、予期できても回避できないこともある。後悔しないようにしてくれたらと思う。あんたたちは思いを素直に言える刀だと、思っている」の文章が随分重たく感じる。何か過去にあったのだろうか。
 相手の厚意にあぐらはかきたくないからと堀川になにかしてやりたいと思った和泉守もまた、鯰尾や骨喰のように交換ノートをしていたらしい。同じ兄弟刀の山伏や偽物ちゃんは「和泉守からもらったら何でも喜ぶんじゃないか」とあまり為にならなかったとか。骨喰から交換ノートの話を聞き和泉守から近侍を通して渡したという。鯰尾や骨喰のときもそうだがノートの中身を偽物ちゃんは当然見ていない。なんなら鍵でもつけるか?と偽物ちゃんから言われたらしいが彼女なら約束を違えないだろうと信をおいていたので鍵までは付けなかったらしい。「主に相談したのは正解だったぜ。なんつうか、結構俺たちのこと見てくれてるんだな」と少し照れながら話していた。和泉守の髪を束ねるものと同じリボンを堀川が身につけているのはそれがプレゼントだからだろう。堀川も非常に嬉しそうにしていた。
「子細は知らないが、俺の入れた茶は飲めるらしい」と主に認められたという茶を飲ませてくれたのは鶯丸。彼は燭台切や大倶利伽羅より半年ほど先に、本丸が稼働して2ヶ月目に顕現したという。初期刀で近侍の偽物ちゃんから「主に茶をいれてやってくれないか」と頼まれ、実際に渡したのは偽物ちゃんだがその後に「主が飲んでくれた!やっと口に入れてくれた!」と大層喜ばれたという。そういえば薬研が顕現当初真っ先に偽物ちゃんから食欲を増幅するような薬を作れないかと頼まれたと言っていた。食欲不振、というやつだったのだろうか。以降主の茶をいれるのは必ず鶯丸となったらしい。「近侍の茶はまだ飲めないらしい。飲んだことがないからどんな味化は知らんがな」と追加で二人分を入れたタイミングでやってきた偽物ちゃんが「アンタの茶が美味すぎるんだ」とそれを持っていった。主のもとへ持っていくんだろう。ふふっとまんざらでもなさそうに鶯丸は笑みを零す。
 皆、会わずとも、主からの愛を感じている。ここに来て3ヶ月の自分はどうだろうか。
 偽物ちゃんとの関係も良好、誰かと喧嘩もしていないし欲しい物もない。だがまあ理由なんて何でも良いだろう。主の刀なんだ。それだけで十分。
 買ってきたノートは花がらで可愛らしい。主の好みは分からないが、着流しから察するに落ち着いてシンプルなものを好んでいそうだ。だからこそ敢えて可愛らしいものを選んでみた。こういうのも乙なものじゃないかと。
 さて、何から書こうかと万年筆を手に取った。close


#刀剣乱夢 #欺瞞

No.3

とある審神者のお悩み相談室その①~大倶利伽羅~
設定はほとんど上記リンクにあるので省略まとめなおしのためリンク先削除

「最近、光忠が眩しい」
休憩の手慰みに政府から依頼された呪物の解呪を、縁側で日向ぼっこしながらしていたら突然隣に大倶利伽羅が座った。馴れ合わない系男士No.1はうちでも変わらず基本1人でいることが多い。まあ本刃がそれを望むならと程よく接していたら「主なのにちゃんとみてあげないと駄目でしょ!!」と見知らぬ審神者に何故か叱られ、なんだこいつ…と思ってたら「自己満足のためにつきあわされるそっちの俺より、刀として扱いつつ一個人として尊重してくれるこいつのほうがよっぽど主だがな」と言い返したのは大倶利伽羅が初めて演練に行ったときだったか。顕現して2週間ほどだったと思うが、私が思ってるより好印象を抱いていてくれたらしい。まあだからといって馴れ合いには行かないけど。
休憩中はみな気を使ってくれているようで、用事がなければ執務室周辺には誰も来ない。最初は休憩時間はまちまちだったが、いつしか八つ時が休憩時間になっていた。食べられる甘いものと食べられない甘いものがあり、お八つに関しては大変面倒な味覚だと自覚があるため、お八つの内容を聞いて欲しければ貰いに行くというスタイル。今日のお八つは練りきりだから残念ながら私は食べられないなと気にせず休憩していた。いつもは1人の休憩時間に、馴れ合わない一匹龍がお盆を持って近づいてきたかと思えば、私の隣にそれをおき間に挟むように自分も座った。お盆の上にはお茶よりカフェ系を好む私がよく飲むカフェオレとクッキー、自分用にだろうお茶と練りきりがあった。
珍しいこともあるもんだなぁとひとまずお礼を告げようと口を開いたときである。
「光忠がきらきらして見える」
先程の言葉が聞こえてなかったと思ったのか、言い方を変え同じようなことを言う。
さて、今朝見た燭台切はきらきらしていただろうか。最近ということは今朝方だけの話じゃなさそうだが…。主の負担を減らしたいからと食事に関して担ってくれている燭台切とは毎日話す。得手不得手関係なく最低限出来た方がいいという私の要望で厨当番は基本全員に回ってくる。とりわけ得意な燭台切と歌仙は進んで当番に入っているようだ。本人が望んでいるとは言え負担を減らしてやりたいと、和泉守と鶴丸が彼らの代わりに馬当番を勝って出ることが多いらしい。優しい子がお遅れ主は嬉しいぞ、というのは置いといて。
何かと視える便利で不便な目でみた燭台切を思い出す。普段と変わった様子もなかった。となると大倶利伽羅だけがそう視えるのだろうか。同郷だから?鶴丸にも聞いてみたほうが良いか…?
「なにか特定の条件下でそう視える?それともそう視えるようになってから常に?」
何か要因があるだろうか。うちは、というか私が特殊な事情を持つ審神者なので不安要素は可能な限り早期に排除したい。
「…そうだな…」
ずずっとお茶を静かめにすすった大倶利伽羅は少し思案し続ける。
「明確にいつからというのは正直分からない。気付いたら、そう見えた。気付いてからはなんだかあいつを見ていたいと思うし、あいつの目にうつりたいと思うようになった。敵の首を切り落としたときに誰にも見えないよう不敵に笑う顔、料理中に味加減を少し間違えて恥ずかしそうにする顔、俺が近づいたら嬉しそうに呼ぶ声。眩しく見えるのはそういうときだな」
以前この本丸では、ある刀剣が言いづらくてでも言うほどでもないからと隠していたら大事になった事件があった。それ以降「最低限主には隠さないこと、聞かれたことには正直に答えること」がルール化した。何でもかんでも把握したいほど支配欲もないし、知られたくないことの一つや二つあるだろうしルール化までしなくとも…と言ったら「主を失いかけたんだ、これくらいしないとだめだ」と初期刀南泉一文字が真剣な表情をしていたのを思い出す。私にとってはまたかという出来事でも、思えば彼らにとっては初めて遭遇した出来事だった。主が逢魔人というのは大変だなと少し申し訳なく思う。
そういうことがあり、この本丸の刀剣達は私に対しては包み隠さず心情を打ち明けることが多い。といっても他の本丸に比べて素直だねくらいのもの。だから正直に話す大倶利伽羅については「ああ彼もルールを守ってるんだなぁ」くらいの気持ちではあったが、内容を聞く限り「そこまで包み隠さず話すのか」と驚きもある。
思わず箱の形をした呪物から大倶利伽羅に視線を移す。大倶利伽羅は視線に気づいてこちらの目をしかと見つめてくる。
まあ、主なので、一応自分の刀剣のことはそれなりに分かってるつもりではある。恐らく彼は燭台切がキラキラして見える理由を分かっている。分かっているが、合っているのか自信がない、あるいは明確に定義づけて良いのか分からない、といったところだろうか。
「うーん……心ってのは面白いもんでね、ときに流れ移ろい、それでいて変わらずそこにあったりする」
視線を戻し再び解呪の作業に入る。呪物を扱いながら話すのは私にとって弾き語りくらいの難易度だ。
「この気持ちは、この感情は、名付けるならこれだ!ってあるなら決めてもいいと思うけどね。決定打に欠けるなら見つけるまで存分に動いてみればいい」
「…面倒ではないか?」
珍しくどこか弱気な言葉に「何が?」と返す。すこしの躊躇いの後、大倶利伽羅は一気にお茶を煽った。
「自分の刀剣が色恋沙汰など、面倒だろう。気にしないといけないことが増える」
「おや、私が恋仲同士を気にすると」
「するだろうあんたなら。こっそり非番を合わせようとしたり悟られないよう逢引の機会を与えたり」
「えらい具体的な…」
「加州が言っていた」
つい最近「実は…恋仲に、なったんだ」と恥ずかしそうに大和守と報告してきた加州を思い出す。本丸全体に公言はしていないが私と新選組には報告したそうだ。茶化されるのが好きじゃないという彼らの気持ちはよく分かる。とはいえ隠すものでもないからとこそこそしている様子はない。気付いているものは気付いているし、付き合っているのか聞かれた時は素直に答えているようだ。気を遣いすぎることもなく、見守るような当刃たちの好きにさせるような。割りと良い環境だとは思う。
加州と大和守は練度差があるから部隊が一緒になることはあまりない。部隊が異なると途端に非番が噛み合いづらくなる。恋仲になったことで本丸や主に不利益が生じるのは嫌だというので、編成に関しても気を回さなくて良いとは言われている。だがそうすると本当に、下手すると一週間合わないなんてことも出てしまうわけで。現世から離れることを理由に恋人と別れた私からすると、折角同じ屋根の下で生活してるのに会うことすらかなわないなんてと悲しくなる。だからこっそりあれこれ手回ししていたわけだが、流石に本刃たちにはバレバレだったようだ。
「面倒かどうかでいったら全然、むしろ楽しいとすら思ってるかも…?」
「楽しい……?」
一月ごとに出すシフト表みたいな予定表を思い出しているのか不可解な表情をされる。私は割と好きな作業だが、役に立ちたいからと事務仕事を頑張ってくれている長谷部も「主命でもできればやりたくない作業」と評しているらしい。「別の本丸で当番がほぼ固定されてるって言った理由がよく分かる」といったのは燭台切、「数字はいいけどこれはちょっと…」と苦笑したのは松井。よその審神者と話してるとこの作業が得意な人と苦手な人がはっきりと分かれていて面白い。ただし皆一様に「頭使うし疲れる」と言っていた。だから私が楽しいというのはなんでと思うのも仕方ないんだろう。
「なんかテトリス…パズルやってるみたいな感じがして楽しい」
穴を埋めていくような作業、かっちりハマってそれが理想に近いと達成感がある。だからシフトを組むのはかなり好きだった。
「うつつを抜かして本懐を忘れるんであれば考えものだけどね。君らはオンオフしっかりしてくれるから、その当たりは心配してないかな」
どれだけ喧嘩しても出陣となるとその気配を瞬時に消し背中を預け合う仲間となる。揉め事は他のものを巻き込まない、私闘で消費した資材は自分たちで調達。私が定めたものではなく刀剣達が自分たちなりに考えた様々なルール。担当にも「そちらの刀剣は非常に自立していて、共同生活の意味をよく理解してらっしゃいますね」と褒めていたな。自信が担当している他本丸で色々あるらしく刀剣男士に関しては手がかからなくて助かると言っていた。
「……そうか」
どこか安堵したように息を零す。いつのまにかしっかり練りきりも完食していた。
じゅわっと手元の箱から呪いが消える。焼けるような痛みはあるも怪我はしていない。ひとまずこれで呪いについては大丈夫だろう。中身を知ってどうするかは政府が判断することだ。要望通りのことはしたので私の仕事はここまで。
送られてきたときと同じものに包み直しこんのすけを呼ぶ。どうやら厨で油揚げをつまみ食いしていたらしく口の中をモゴモゴしながらやってきた。また鳴狐のお供とつまみ食いしていたんだろう。口の中が空になったのを見計らってティッシュで口元を拭ってやる。物を持たせてこんのすけが政府へ消えたときにはすでに大倶利伽羅はいなかった。
相変わらず猫みたいな刀だな、と思ったのはここだけの話だ。close


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