In My Way
2
2日目、オールマイトの戦闘訓練が行われた。No.1ヒーロー、平和の象徴、よくテレビで見たそのまんまの姿で授業は行われた。兄貴たちから「ちゃんと書かないとピッチピチになるぞ」と助言もらってたからデザイン付きでしっかり描いた。ほぼその通りに来て安心だ。八百万のコスチュームは個性のせいで露出が激しい、あれは流石にきついぞ…。本人が気にしていないならいいけど。
女子は7人しかいない。直ぐに打ち解け…打ち解けてるって言うか分からないけどとりあえず、もう仲良さそうに話しているように見える。そんな6人の会話を聞きながら着替えた。盗み聞きじゃない、聞こえてくるんだ。
「そういえばまだ自己紹介してないよね、ウチ耳郎響香」
一番着替えるのが早かった、耳たぶがイヤホンジャックの形をしている耳郎が声をかけてきた。名前、普通に答えて大丈夫かな。
「………海神、一護…」
「イチゴ?可愛い名前だね!私葉隠透!」
苺の発音されたけど、そうじゃないんだよな…まあ訂正するほどでもないか。
(…名前初めて可愛いって言われた…可愛い名前なんだ…それなら透はカッコいい名前だよなぁ)
海神…?と八百万が反応した。他の女子は反応してない。八百万は知ってるかもしれない。なんか口調からすでにお嬢様というか、まあそういう家なんだろうなって雰囲気は分かってた。反応したけどそれ以上特に何も言わない。でも反応した。
(……あー、全員知らなかったらいけっかなって思ったけど…無理くさい…)
思えばもう一人反応していた人いたじゃないか。席に着く為すれ違った、斜め前の席の男子。彼も確か反応していた気がする。
自己紹介として名前は言ったけどそれ以上何も私からは言わなかった。というか彼女らの会話のテンポ早すぎ…。これくらい早くないとやってけないのか?女子は大変だな…。
「先生!クラスの人数は21名、1人余ってしまいますがどうするのですか!?」
説明を終えたオールマイトにもはや顔が見えず誰なのかすら分からない男子が質問した。
「1人は2人を相手にしてもらう!ヒーローになれば1対多の戦いも十分あり得るからね!」
「でも他の人に比べて不利なんじゃ…」
オールマイトは何故か困った顔をして私を見た。何となく察した。
「その1人は海神少女にしようと思う、いいかい?」
「女子1人?」
「何で指名されてんだ?」
「…学校指定推薦者か」
何でだろうの疑問の声の中に確信めいた言葉を放ったのは、例の斜め前の席の男子。名前まだ覚えてない。
「学校指定推薦者?」
「聞いたことがありますわ。学校から招待を受けて入試を受けずに入学できる推薦だと」
あー、何か面倒そうな感じがする。入学当初からやたら暴言吐いてる男子とか、斜め前の席の男子とかから鋭い視線を感じる。オールマイトはちょっと慌てたように話を切った。
「そ、それじゃあ海神少女以外のペア分けを発表ね!」
ペア分けの発表のおかげで一身に受けていた視線が無くなった。発表とみんなの反応を見て誰がなんて名前か把握する。クラスメートの個性が初めてわかるいい機会だ。パッと見て分かる人も勿論、個性以外の力量もよく分かる。
最初のペアはなんだか私怨丸出しの戦闘だった。視線で射殺さんとばかりに私を睨みつけていた爆豪は、戻ってくると顔を暗くして落ち込んでいるというか、呆然としているというか、何か認めたくないけど認めざるを得ないような、というか…。怪我した緑谷と色々因縁があるんだな。その次のペアは逆にあっさり終わった。轟のやり方、中々スマートだった。昨日の体力テストで氷使ってたから氷使いだと思ってたけど、戦闘後に氷と化してた。凍らせたときは左手、解かした時は右手…。右は熱に関わる個性か…。バランスのいい個性だな。
緑谷を除いてトントンと戦闘訓練は終わっていく。最初の2戦が特殊だっただけでその後は良くも悪くも接戦だった。そして、最後の戦闘訓練だ。
「さて最後に海神少女!対戦相手だが、やりたい人―!」
余力のあるペアと、ではなくまさかの立候補制…。自分の番で負けた人を中心に手が上がる。即席のくじで決まったのは轟と上鳴ペアだ。氷と電気…強個性って言われる自然系の個性だ。先ほど2人はヒーローチームだった。私としては“護るべきものがある”という点でヴィランチームが嬉しかったんだけど、ヒーローとして臨むことになった。
ビルのマップを一目見てしまう。6階建て、窓ははめ殺し、上の階への階段は各フロア一カ所のみ。氷と電気、相手は2人。核を保護しつつヴィランを無力化、あの轟の技は一度に2つできるから凄い。氷を溶かせるようだから同じ手は使えない。
『最終戦、スタート!!!』
魔術書を出してすぐさま術を発動させる。
(…トランスペアレント)
ビルを対象に中を透視する。核は5階で上鳴が同じ部屋に轟は3階か。たった数mだけだけど瞬間移動もできる。核を保護してヴィランを捕獲したいのは山々だけど、核に触れれば戦闘訓練終了なんだよな。勝ち確で態々捕獲するのって授業としてどうなんだ…?
(…まぁ初回授業だし、保護だけでいいか…)
風魔法を駆使し宙を飛ぶ。そして5階の高さで術を変えた。
(テレポーテーション)
視界がガラッと変わり屋内に入った。隣の部屋を透視してみたが、どうやら私の潜入に気付いていない。テレポで座標を核のすぐそば、上鳴の死角を取り核に触れた。
(…?あれ、触れれば終わり、じゃなかったっけ)
さっきまでの戦闘を考えればここでオールマイトが終了の合図を出す。一向に終わりの合図が聞こえない。
『あ、えっと…ヒーローチームWIN…』
「え!?なん…ぬああああ!?」
漸く聞こえた終了の合図は結構戸惑っていた。そして終了宣言に驚いた上鳴は振り返って私を認めると益々驚き声を上げた。
「え!?いつのまに!?どうやって!?え!?」
(…元気だなぁ…)
素直に驚かれるのは久しぶりだ。部屋の外から足音が聞こえ荒々しく扉が開かれる。入って来た轟が私を認めると上鳴のように口には出さないが「どうやって」と言いたげな表情をしていた。
「空飛んで瞬間移動して、海神少女の個性はトリッキーだね!」
訳も分からず終わったヴィランチームの為に、録画したてのデータを再生。オールマイトの講評は講評ってよりただの感想だった。
「いやいや!どうやって来たかは分かったけど、何で核の場所…つかそもそも海神の個性なんだよ」
私の個性…みんな自分の個性が何なのか言って無いのに私は言わないといけないのか…。一発で分からないような個性だからいけんのか、なるほど。
「…魔術」
「すげー!そんな漫画みたいな個性あるんだな」
「じゃあ左手に出してた本みたいなのって…魔術書的な?」
「ますますゲームみたいだな」
クラスメートのあれこれ言い合う会話を眺める。自分の個性を本人前にあれこれ言われるのも久しぶりだ。
「ヴィランに気付かれることなく瞬時に核の場所を把握し保護、時間をかけずそしてヴィランを一切刺激しない素晴らしい行動だったよ!」
「あれ勝つの無理じゃね…」
しょぼんとしている上鳴、ヒーロー目指しているのに諦めるのは良くない。ここの校訓、Plus Ultraだよ。
「ねね、放課後反省会しようと思うんだけど、イチゴちゃんも一緒にどう?反省することないかもしれないけど、他の戦闘見てて思ったこととか教えて欲しいな!」
コスチュームから着替え終えると、脱ぐ作業が無く誰よりも早く着替え終わった葉隠がぴょこぴょこ尋ねてきた。可愛い。放課後か…急な予定は基本的に入れられないからな、お嬢が拗ねる。それ以前にスケジューリングが色々と埋まってる。
「…予定がある」
「そっかー、残念…」
「男子も誘ってみようよ!」
「そうだね!」
あっさり引き下がり男子も誘おうときゃいきゃいしている葉隠たち。昔同じように放課後誘われて、予定があるって断ったら「お高くとまってさ、私らといるのも嫌なんだね」とか何とか言われた記憶がある。さっぱりしているのは好感触…
(待てよ、私いないところで色々言うのかもしれない。学校指定枠ってさっき判明したし、八百万なんか知ってるっぽいし)
明日登校したら私を見る目が、空気が変わってるかもしれんな。まだ今日も終わってないのに明日の登校がどことなく陰鬱になった。
「いちごー!みてみてーつくったのー!」
家に帰り制服から家の服…燕尾服に着替え終えお嬢のいる部屋に入った。私を見るや否や、折り鶴を片手にお嬢が駆け寄って来た。そのまま流れるようにお嬢を抱きかかえる。
「ばぁばがね、おしえてくれたんだぁ」
ばぁばと言うのは私の祖母だ。嫁入りだったからヒーローじゃないけど、日中は祖母がお嬢の面倒を見ている。
「お上手ですね」
「ながらね、おりがみできるんだよ!」
「流石永良姫ですね。これは何でしょうか?」
「えっと、つる!いちごにもおしえてあげるー!」
にこにこ楽しそうに笑うお嬢は見た目も中身も立派な5歳児。違うのは生きている年数だけ。私より遥かに年上なのに成長しないのは幸か不幸か…。