うちの従兄弟がクソ可愛い
15歳
中学入学以降、変なところに飛ばされるようになってからは偶に同じように飛ばされるようになった。どこかの建物の中の時もあれば、見覚えのない街中の時もある。お祭りでゲットしたエアガンとそれに合わせて買ったBB弾を隠し持つようになった。その場所に必ず武器になるものがあるとは限らないからね。ちゃんと武器として通用するか不安だったけど大丈夫でした。これで触れずに退治できる。持ってるのがバレたら取り上げられるだけじゃなく、そういうのを持ち歩く…痛い奴だと思われるので凄く隠した。スポーツバックや制服の内側に隠しポケット作ったからね。いやマジで。
史上最高にグロテスクだったあのホテルの件以来、運がいいことにあそこまでグロテスクなのとは出会わなかった。あれ場所が場所だったからなのか?見方によってはあの姿…思い出すのやめよ、気持ち悪くなりそうだ。
そういえばあの日以降、超不定期でヒロ君が帰ってくるようになった。高校まではいらないだろうという両親を巧みな話術で説得したヒロ君により携帯を手に入れた。めっちゃ笑顔だった。そんで最低一日一回はメールでやり取りするようになった。暇な私に対してヒロ君は忙しいらしく、既読は着いても返事が遅くなることがしょっちゅうだった。警察官だもんね、仕方ないよ。寧ろ職務中にプライベートのやり取りするなよ、って送ったら「バレなきゃいい」って中学生みたいな答えが返って来た。その数日後に「零にバレた」って顔文字付きでメールが来た。零って誰だよ。あ、同僚か。名前呼びとか親しいな。
お盆に帰省した宮地一家。父方の方のご両親は他界しているそうで、宮地父の第二の実家みたいになっている。バスケにお熱の清志君と裕也君はバスケしたいと主張し、近場に当然コートなんてないから運動公園まで母に乗せてってもらった。大アリーナは3人では広すぎるので、小アリーナを借りてバスケすることにした。
「じゃあお母さんちょっと買い物行ってくるね」
「はーい」
運動場から車で10分ほどの位置にこのあたりで一番大きなスーパーがある。買い物時間含めて1時間くらいで戻ってくるかな。それまで3人で、正確には2人がバスケして私が写真を撮ればいいんだな。
「瑠依写真ばっか撮ってないで一緒にやろうぜ」
拗ねたようにボールを抱える清志君、シャッターチャンス!とカメラを構えると「やめろって!」とカメラを手で抑えられた。そのまま奪われポイっと清志君のエナメルカバンの中に吸い込まれる。
「そもそも運動部の清志君達と文化部の私が同列に動けるわけないね?」
「頑張れよ」
「瑠依ならいける」
「それでいけたら体育の成績3じゃないわ」
でもまあ可愛い従姉弟のお願いだしと引き受けて早々後悔する。成長期の清志君は今や同じ身長で、裕也君はまだ私より小さいけど来年には抜かされそうな気がする。それでも年上の根性!!
「どりゃあ!」
「すげー!レイアップ!」
前世でバスケ部の友人から教わったレイアップのコツ。今でもよく覚えております。ありがとう友人。普通のシュートは成功率低いのにレイアップだけは10割寄りの9割で入る。
「ドヤァ」
体力のない私は2人よりも多めに休憩を挟みつつ、シュートしたりドリブルしたり1vs2したりとバスケを楽しんだ。3人でぜえはあとコートのど真ん中で寝転ぶ。
「なんでレイアップあんなに入るのにドリブルできねえんだよ」
「足に当たっちゃう」
「へたくそか」
「清志君も裕也君も年々私に辛らつだね?可愛いから許すけど」
「ドMかよ」
MかSかって言われたら多分Mだと思う。言わないけど。
「俺飲み物買ってくるー」
「てらー」
500mlのスポーツドリンクを飲み切った裕也君が財布片手に小体育館を出ていった。ごろんとうつ伏せになると丁度清志君の頭があった。掬ってみるとさらさらしてる。
「めっちゃサラサラ」
「羨ましいだろ」
「いや別に、私もサラサラだし」
「自分で言う奴初めて見たわ」
清志君もごろりとうつ伏せになり私の頭に手を伸ばした。「うわ、マジだ」と何故か悔しそうに髪の毛を梳く清志君にドヤ顔したらほっぺを強めに引っ張られた。その時、小アリーナの外から裕也君の叫び声が聞こえた。
「うわあああああああ!!!」
「「!?」」
尋常じゃない叫び声と「にいちゃああん!!るいいいい!!」と泣きながら名前を呼ぶ裕也君の声が段々近づいてくる。私と清志君は立ち上がり小体育館の扉を開けた。と同時に裕也君は私の胸に飛び込んで来た。背中に手を回しギューッと抱き着いてくる。
「裕也、どうしたんだよ」
「おば、おばけが」
「はぁ?おばけぇ?」
ひぐひぐ泣きながら裕也君は頭のないお化けがいたとつっかえながらも教えてくれた。心当たりがあり過ぎる私は窓の外を見てマジかと呟く。
「清志君、窓の外」
「る、瑠依まで何言って…あ?」
真昼間だというのに窓の外は真っ暗だ。黒い絵の具をベタベタ塗ったかのような有り得ない黒さ。時刻は15時、おやつの時間。疲労で気付かなかった。理解した今空気の悪さを肌で感じる。清志君も冗談抜きで様子がおかしいことに気付き、私の腕に引っ付いてきた。顔をうずめて居た裕也君も気になったのか恐る恐る顔を上げ、窓の様子を見てしゃくりをあげた。
「何だよ…これ…」
可愛い可愛い従姉弟が怯えている。ここで私まで怖がってたらダメだ。慣れてるだろ、大丈夫、年長者じゃないか、しっかりしろ自分。
ぽんぽんと裕也君の背中を優しく叩き顔をあげさせる。カバンのある場所へ動こうとするとマグネットのようにぴったりと兄弟が引っ付いてきた。状況が異なれば悶えていたのに笑う余裕もない。カバンからいつものごとくエアガンを取り出した。弾はしっかり入っている。
「それ、BB弾?」
「清志君、裕也君、2人はここで待ってて」
「え、や、ヤダ、行かないで」
ぼろぼろ涙を流す裕也君がイヤイヤと右から引っ付いてくる。清志君も「何するんだよ」とびくびくしながら腕を掴んでくる。
「裕也君が見たお化け倒しに」
「BB弾で倒せんのかよ」
「安心なさい、何ら問題ない」
右手でエアガンを持ちながら両腕を広げ清志君と裕也君をギューッと抱きしめる。過去の経験で奴らは壁貫通したりできないことは分かっている。扉を開ける動作は出来ても鍵を開けることはできない。だから内側から鍵をかけて置けばここには入ってこないはずだ。
「大丈夫、ここにいればお化けは来ないから」
安心させるようそっと囁く。腕を掴む力が緩まりゆっくり立ち上がる。怯えながら見上げる2人に内側からくる恐怖を打ち消すよう笑顔で言う。
「大丈夫」
某ヒーローも言っていたな。恐怖とプレッシャーに押しつぶされそうになるのを笑顔で誤魔化しているとか何とか。そうだ、今の私はヒーローだ、絶対守って見せる。
「私が出たら私がいいって言うか空が明るくなるまで、鍵かけて待ってるんだよ」
「鍵かけたら瑠依が「だーいじょうぶ」」
唯々大丈夫と言い聞かせる。2人にか、自分にか。そうして今度こそ扉を開け小アリーナの外に出た。
小アリーナを出れば天井の高いエントランスだ。左側に広いスペースで下駄箱と玄関、右側は待合スペースでソファと自動販売機、前方へ10mほど進むと左側にカウンターと事務室、右側に2階へ通じる階段がある。更に真っすぐ10mほど進めば大アリーナがある。2階は大アリーナの観客席以外は行ったことないから分からないが、事務室の真上に当たる部分にトレーニングルームが、下駄箱のあるスペースの上の部分には会議室があるらしい。
飲み物を買いに行った裕也君はすぐそこの自動販売機に向かったはずだ。しかし周囲にお化けはいない。裕也君が小アリーナに入ってくるときお化けはいなかった。ということは追いかけてこなかったということ。私を見ると直ぐに欲しいだの頂戴だの言いながら追いかけてくるのに裕也君はそうではなかった。裕也君だから?違うな、2年前のホテルでもあいつは私だけを見ていた。
(奴らは私以外見えていない、とか?若しくは私だけが欲しい?…きめえなそれ)
どっちの説が濃厚か分からないけど、だとすれば裕也君も清志君も仮に見つかったとして追いかけられないなら良しとしよう。事が終わるまであの2人が出てこないことを祈るばかりだ。
周囲を警戒しながら1階を探索するがお化けはいなかった。ってことは2階か。頭のないお化け、って言ってたな。後で裕也君の心のケアもしっかりしないと。
2階も探索したが何故か見当たらない。おかしい、綺麗にすれ違ってる?つか動きすぎだなお化け。階段を音を立てないよう降りていると裕也君と清志君の叫び声が聞こえた。ハッと小アリーナの方に目を向けると、扉が開いている。急いで階段を駆け下りる。
「なんで…!くっそ、あっ!」
最後の段を踏み外して足を思い切り捻った。痛みで呻くも尚も聞こえてくる悲鳴に何とか立ち上がり不格好ながらも小アリーナへ走った。
「清志!裕也!」
裕也君を庇うように立つ清志君、清志君の背中にしがみ付く裕也君が小アリーナの奥にいた。コートの丁度3Pライン当たりに、確かに頭のない人間がいた。人間と言っても見た目は人ではなく着ぐるみだ。見覚えのない汚い黄色で丸みを帯びた着ぐるみには首の部分から血が滴り落ちている。結構大きいそいつは私の身長では首の中が見えなかった。見えない方がきっといい。そいつは私の時のように襲い掛かろうとはせずゆっくりと近づいていた。しかし私が2人の名前を呼ぶとピタリと足を止める。無い筈の頭がこちらを向いた気がした。
―イ”イ”ナァ…ヂョウダイ…―
ツキンと頭が痛むと同時に潰れた声が頭に響く。リアル「こいつ脳内に直接!」だ。身体が完全にこちらを向くと、先程より倍のスピードで私の方に近づいてきた。
「瑠依!!」
パァン!
エアガンであれば本物とは違いパチン!というおもちゃのような音が出る筈なのに、こちらの世界で撃つと何故かスタートピストルの様な大きな音が響く。着ぐるみの胸元に当たったBB弾はバチィ!と音を立てる。青白い稲妻が着ぐるみの全身に広がる。それに呼応するかのように頭痛が激しくなり立っていられなくなった。
―イ”ア”ア”ァア”ァ!!!―
「るっさいな…!」
ズキズキとした痛みと聞こえてくるのは潰れた叫び声。エアガンを手放して頭を抱える。ぽたぽたと体育館の床を濡らす雫が自分の涙だと判断できるようになったころ、漸く頭の痛みが引き、瑠依!と私を呼ぶ声と肩のぬくもりを感じた。顔をあげるとハラハラと涙を流す清志君と裕也君が。あのお化けはもうおらず、窓の外には屋外の風景と青空が広がっていた。
乱暴に目元を拭い、出る前と同じように2人をぎゅっと抱きしめる。
「ごめん、怖かったね」
「大丈夫、もう大丈夫だよ」
「頑張ったね」
涙は痛みによって出てきた生理的なものでもう涙は出てこなかった。両耳から聞こえてくる同じ声色の泣き声と両肩に感じる湿り気に、ちゃんと守れたと心から安堵した。
捻った足は全治2カ月もかかる捻挫でした。結構ガッツリ捻ったからね、うん。清志君と裕也君は親に今回のことを言うつもりはないようだ。そんな2人のアフターケアはばっちり行った、つもりだ。中学に入ってから一緒に寝るのを嫌がる清志君とそんな兄をまねて同じく嫌がる裕也君は昨日別で私と寝た。でもその後宮地君達が東都に戻るまでは一緒に寝た。というか拒否られなかった。清志君、私、裕也君と川の字になって挙句同じ布団で寝て3人で手を繋いで寝た。宮地母は「何だかんだ寂しかったのねぇ」なんてニヤニヤしながら清志君と裕也君を見ていた。そして珍しくうんと頷いた清志君に愈々私の心臓が破裂した。速攻ヒロ君にメールしたよね。「いとこがわたしをころしにかかってやばい」って。翌日に「はいはい可愛い可愛い」とあしらうような返信が来ていた。
流石都会っ子の清志君は既に携帯を持っていたのでしっかり連絡先を交換した。2人はあの事を掘り返してくることも確認してくることもせず、ただ早く忘れようとしている節が見られた。その方がいい、怖いことは、忘れたほうがいい。だからあの時使ったエアガンを絶対に見つからないよう隠した。
お盆が終わり2人が東都に帰っていったあと、今回の出来事をヒロ君に報告した。向こうに連れてかれたら必ず報告しろと口酸っぱく言われたのだ。夏休み明けに学校から帰ったらヒロ君が何食わぬ顔で家にいたからめっちゃビックリした。怪我の具合をみるとヒロ君は私より痛そうな顔をして「鍛えれば鍛えるほど怪我をしにくくなるから、ちょっと鍛えたほうがいい」とできればやりたくない助言をくれた。一度「忙しいんだろうからあんまり私に構わなくてもいいのに」と言ったら、連れてかれてしまうことはヒロ君自身どうしようもないから、せめて私が壊れてしまわないようにと言うか、精神的にダメにならないよう支えたいという理由でこうも連絡を取ってくれているらしい。大変嬉しかったので「一生ついていきますぜ兄貴」と言ったら何故か凄く嫌そうな顔をして「その言い方と兄貴呼びはマジで止めて」と言われた。何でだ。