うちの従兄弟がクソ可愛い

5歳

 家から南の方向に歩いて3分そこいらにお堂がある。確か、仏像を運んでいる途中の休憩地点だったからできた、だっけな。お堂が出来た経緯が木の看板に書いてあったけど随分昔から変わらないみたいで、擦り減って読めなくなってしまった。だから詳しい経緯は正直よく分からない。
 そして同じく家から北の方向に歩いて3分そこいらに小さな祠がある。お堂と違って石段を上った先の、見通しの良い林の中にある祠は“山の神様”と呼ばれていた。ここの詳細はもっと分からない。苔だらけの祠は多分地元の人もあんまり来ないんじゃないだろうか。整備の為に年に一度くらいは来るかもしれないけど。
 更に、家から北東の方向に歩いて5分程の場所にもまた小さな祠がある。道路に面してあるその祠は“山の神様”以上にもっと分からない。道路に面してる分その道を歩けば必ず目にする。
 小さいころ、転生したんだなーってのは分かったけど従兄妹が黒バスの宮地家だとか、近所のお兄さんが諸伏家だとは一切気付かなかったくらい小さいころ。近所に同い年の人間がいなかった私は1人で冒険をよくしていた。虫が平気だったから森も林も気にせず“気になったら行く”精神で道なき道を探索していた。お堂とか祠は道あるけど。あ、芋虫系の虫は無理、気持ち悪い。
 そんな私の日課はお堂や祠に毎日お参りに行くことだった。自転車に乗れるようになって行動範囲が広がると、自転車で20分くらいの場所にある、小さな山のふもとの神社とか町中にある神社やお寺も毎日とは言わないけどお参りに行くようになった。毎回お布施をするほど小金持ちじゃなかったから、鐘慣らしたり二礼二拍手一礼でお参りするだけ。
 家にあったお祖母ちゃんのおせんべいを持って山の神様の階段を上る。今日は賄賂を持ってきましたぜゲヘヘなんて見返りないのに変な思考で登り切る。祠にせんべいを袋から出して、ポケットティッシュを引いて置いた。
「このおせんべ、おいしいよ。きよしくんと、ゆうやくんちいさいからまだたべれないけど、おおきくなったらいっしょにたべるんだ!」
 3歳のきよしくんと2歳のゆうやくんはまだ硬いものが食べられない。小さくすれば食べられるかな、でもおせんべいって食べてるときは鋭利だから、口の中傷つくかな。そもそも東京にいる2人と会えるのはお盆と正月の2回だけなんだけど。
 思考は自称大人だけど感情や口調が実年齢に引っ張られる。理解してるのに感情が許してくれなくて泣いてしまったり、頭では言いたいことが纏まってるのに口に上手く出せなかったりで、まあ年相応な生活をしていると思う。
「でもしょうじき、おせんべよりちょこのほうがすきー。あ!なしがいちばんすき!でもこのまえりんごあったんだけどね、なしもあったんだけど、なしたべたいってわがままいったらおかあさんにおこられて、そとのものおきにとじめ、と、じ、こめ、られたー。すっごいこわいんだけどね、おばけじゃなくてね、ねずみがでるんだって!おっきいの!おばあちゃんがねずみとりで、このまえおっきいのつかまえたって!」
 拙い言葉で1人祠に向かってお喋りする。…別に話し相手がいないわけじゃないぞ、友達もいるぞ。ただこの辺りで子どもなのが私とヒロ君以外いないんだ。そのヒロ君は中学生だからあんまり遊べない。一番近い友達の家は車で15分のところ。園児に車で15分のところまで遊びに行く方が無理って話よ。
「かみさまは、おせんべすき?ちょこはあんまり?せーよーのおかしってあんまりすきじゃない?」
―お煎餅も好きじゃが、甘いのもええのう―
 いつものひとり言、答えを求めていない問いかけにおじいさんの声が聞こえた。目をパチパチしながら祠の少し上へ視線をずらすと、おじいさんがいた。仙人みたいな白い髭、頭はつるつるだ。立っているというより、祠から浮き出てる。
 今思うとこの時の私の思考は明らかに実年齢に引っ張られていた。でなければこんな不可思議なことを受け入れている筈がない。直感的に山の神様だと思った私は返事があったことがただ嬉しかった。
「わたしもあまいのすきー!」
 きゃっきゃと山の神様と会話を続ける。二度目だが、今思うとこの時の私の思考は実年齢に引っ張られていた。
 いつも以上に話をしたあと、ばいばーいと手を振って階段を降りた。その後向かったお堂や北東の祠でも同じように見た目は違ったけどおじいさんがいて、いつも通りそれぞれ違う話をして、いつもと違うのは1人ではなく会話をして帰った。あれから推定神様を見ることはなかったけど、代わりと言うか“妙なもの”が見える…視えるようになった。
 何もないところに向かって突然きゃっきゃと笑ったりびええええ!と泣き出したりした私は正直気持ち悪かったんじゃないかと思う。楽観的な両親は特に気にしなかったし、ばあちゃんに至っては「何が視えてるんだろうねぇ」と私は何も言って無いのにすんなり認めてくれたから、拗れずグレず真っすぐ成長できたんだと思う。家族に感謝。
 何より“巻き込まれた”ときのヒロ君の存在は当時の私にとって精神安定剤そのものだった。

橘瑠依
 ド田舎に住む転生者。宮地の従姉弟で宮地兄の2つ上。近所に諸伏兄弟がいる。諸伏家、橘家、宮地家は仲良し。母親の妹が宮地家の母親で、宮地母にとっての実家にあたる。根っからの文化部だがバドミントンは得意。バスケはレイアップだけ妙に上手く成功率が高い。体力はないが反射神経と柔軟性だけはやたらある。
 何かよく分からないけど霊的な能力がついてしまい、物理的にお祓いが出来るようになった。だが当人はリアルのホラーやグロが嫌い。小説や漫画(ひぐらしのような明らかな二次元絵)なら平気。
 諸伏景光がスコッチだと一切気付いていない。原作を追いかけていなかったので兄の高明を見ても全くピンと来ていない。東京ではなく東都と言う点に違和感を覚えておらず、上京した時漸く気付く。
 ハンドガンタイプのエアガンとBB弾を標準装備。練習したので命中率は高い。