あの降谷零爆誕の経緯
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スマホの操作に迷いが無くなりパソコン操作も慣れた降谷は本当に飲み込みが早い。うん、まあこりゃ抜かれるなそのうち。別にいいけど。そもそも将来人間やめる降谷と自分を比較する方がおかしいのだ。
身体が鈍るのは嫌だしストレス発散にもなるからと、降谷はツェッドさん(偶にザップさん)相手に組手をよくしている。ボクシングやってるらしいしね、構えからしてガチ勢だからねあいつ。そんな降谷を見てクラウスさんは「彼は筋がいいな」と驚いていた。ツェッドさん相手には本気で、ザップさん相手には何の恨みがあるのか容赦なく殴りにかかる降谷。
『これが何れ観覧車の上で乱闘するんだな…』
「観覧車の上で乱闘なんて簡単だろ?」
「ダメだこの世界人間やめてる人の方が多いんだった」
「え、観覧車の上で乱闘?」
眼以外は一般人代表のレオさんは素直に驚いてくれたが、血法者な番頭は朝飯作るより簡単じゃないか?と言うような空気で返してきた。朝飯前って奴ですか、はいはい脱人間脱人間。
「俺、リオさんも中々人間やめてると思う」
「何を仰るか。私は車止めるために車ぶつけるなんて発想も道路込み合ってるから線路乗ろうなんて発想もしないですって」
「それこの前そのままやってたよな?リオさん過去を振り返ろ?」
「だからあれは将来降谷がやることを参考にしただけなんですってば」
「将来やる?としても先にやったのはリオさんじゃ…」
「この世界じゃあんなんよくある話なんじゃないすか?」
ザップさんが血法で真剣に組み手をする2人の邪魔をした。ツェッドさんと降谷がそれに切れ2人息よく仕返しをしてザップさんが倒れた。「綺麗に決まりましたねー」と言う感想にレオさんから「ソーデスネ」と棒読みで帰って来た。
事務所生活にレオさんが増えて3日目。何から何まで準備される状況に「全部してもらうのは気が落ち着かない」と超がつくほど真面目な降谷は風呂掃除や事務所の掃除をよく手伝っていた。ツェッドさんの水槽を2人で仲良く掃除しているのはここでお世話になって以来偶に見かける光景だ。なんかもう、お前ら付き合ってんの?
「まあそういうわけで、私はこっち手伝おうかと思いまして」
「お手伝いありがとうございます」
降谷がえっさほいさと言われてもないことを手伝ってるのに私だけのんきに座ってるのは落ち着かない。ということで私は料理の方を手伝うことにした。そもそもギルベルトさんはクラウスさんの専属執事なわけで私らのお世話係なわけじゃない。
「日本食恋しいんで日本食いいすか」
「是非是非。私も食べてみたいです」
「私降谷レオさんツェッドさんギルベルトさん…あ、クラウスさんも食べたがるかな…。大人数…ってなると量産できるものがいいなぁ。それでいて腹にたまるもの…お稲荷さんと味噌汁にしようかな」
「日本の食材が手に入るスーパーがございますが、行ってみますか?」
「おおお!是非是非!」
ギルベルトさんに連れられ超久方ぶりに日本語を見た。
「あきたこまち!ふぉお魚沼産コシヒカリまである!パネェ!!でもたけぇ!」
「お2人にも給料は払われていますし、今回は私もお貸ししますので後で徴収したら如何でしょう?」
「そっすねー、降谷分はともかくレオさん達には申し訳ないけど貰っておきましょかね」
どんくらい食べるか分からないからあるだけ作ればいいか。余ったら明日の朝ごはんにすればいいし。というか食材だけじゃなくて調理器具とかそっち方面もあんじゃん。寿司桶もあるし漬物石もある。
「きゅうりと大根、ナスかって漬物もありか…。お稲荷さんの中身は酢飯とひじきにしよう。味噌汁は大根と…おお夕顔ある、夕顔にしちゃおう。あ、ついでに明日の朝ごはん用に鮭でも買っておこうかな」
「楽しそうですねぇ」
「料理あんまり好きじゃなかったんですけど、日本食恋しすぎて今めちゃくちゃ楽しいです」
思いついた料理に合わせた具材をぼんぼんカートに入れていく。随分重い筈なのに軽々と持ち上げるギルベルトさんも中々細マッチョだよな。
ギルベルトさんのお手伝い、というよりギルベルトさんがお手伝いしてくれながら夕飯を用意した。酢飯とひじきの2種類あるお稲荷さん、大根と夕顔の味噌汁、ほうれん草の白和え、まあこんなもんだろう。漬物は一晩漬けるから明日だな。
「そう言えば今更ですけどレオさんとツェッドさんって箸使えるんですかね?」
「そうですねぇ…文化が違いますのでフォークの方がよろしいかと」
「ですよねー。まあいいか」
出来上がった夕飯を持って事務所に戻る。何か予想外にザップさんと番頭がいるのですがこれは足りるか?
「何か増えてるー」
「お、いい匂いすんな…」
「リオさんが日本食を作ってくださいまして」
テーブルに山盛りのお稲荷さんと白和え、ザップさんと番頭を抜いた人数分の味噌汁を置いた。
「ほい降谷、箸」
「そういえば日本人は箸文化だっけか」
「あ、ありがとう。…柊料理できるんだな」
「そらまあ前世じゃ1人暮らししてたわけだし、1人になればなんやかんや作れるようになるんだよ」
「おーうめえぞー」
「ちょっとザップさん何勝手に食べ始めてるんですか!」
「全く本能のまま生きる男ですねこの人は」
わちゃわちゃと夕飯会みたいなものが始まった。小皿を用意しておいて正解だった。出来立てで温かいお稲荷さんを一つ取り小皿の上でかぶりついた。
「我ながらうめえわ」
「ああ、確かに美味しい。久々に日本食食べたよ…味噌汁もいいな、これ米は?」
否定することなく同じくかぶりついたスティーブンさんにコシヒカリですと伝えると、やはり相場を知っているのか奮発したなと言われた。
「あ、これ食べた方夕飯代の徴収しますのでご協力をお願いしますー」
「はー有料かよ!先に言えよ」
「言う前に食べたのはザップさんですからー」
二口目を食べながら無言で口を動かす降谷を見る。味の感想を聞こうと思ったけどうっすらと目に膜が貼られているのを見て、寝る前に聞くことにした。
『柊』
『おう?』
『夕飯…美味しかった、ありがとう』
『良かったー。無言で食ってんだもん、口に合わないかと思った』
『本当に美味しかった。というか他の人も美味しいって言ってただろ』
『いやいや国や地域によって味覚なんて変わるじゃん。特に
『………………………』
『…は!?ちょ、何で泣くんのさ!うぇえ!?』
『ごめん』
『(イケメンは泣き顔も絵になるけど心臓に悪いなおい!)なんか気に障ること言ってたら謝るよ』
『そうじゃなくて、嬉しくて…』
『嬉しい…?』
『…はぁ、泣いて悪かった。…ライブラのみんないい人だし、正直居心地悪くない、けど…俺日本に帰りたい』
『………私らの世界の日本に、帰れるよ、きっと』
『そう、だよな、うん。弱音吐いて悪い』
『あー、あれだよ、涙の数だーけ強くなれ―るよってやつ』
『はは、なんだよそれ』
『前世でそういう歌があった。Tomorrowって曲名だったかな』
『明日聞かせてくれよ』
『ふっ、私の至って普通な美声に酔いしれるがいい』
『ふは、楽しみにしてる』