創作には体験がつきもの
降谷零
降谷と篠宮が互いの自宅に行くようになって数か月経ったことだった。その頃には篠宮が腐女子と呼ばれる種族であることも、高校生でありながらどのような方法で調達したか分からない十八禁ものを所持していることも知っていた。更に彼女はどうやら創作することが好きらしい。見たことはないが本棚に感情表現辞典やら文法辞典やらが入っているところから、力を入れて創作していることが伺える。
篠宮は数学が苦手なようで、課題を手伝うこともしばしばあった。今日はその日だ。
「降谷……」
さて始めようかと言ったところで篠宮が正座しながら神妙な面持ちで降谷を呼ぶ。
「どうした、改まって」
篠宮はふぅ、と息をつくと意を決したように顔を上げる。
「“漫画家は体験したことしか書けない”」
「……そうなのか」
「でもこれって漫画家だけじゃなくて創作者にとっては等しく同じ事な気がするんだよね」
「そうとも限らないだろう。ファンタジー小説や漫画だって沢山ある」
「それは一理ある。しかし、やはり何事も経験に基づいたものが最も説得力がある文章が書けると思うんだ」
どうやら篠宮は行き詰っているらしいと降谷は判断した。授業の作文程度は書いたことがあっても流石に小説は書いたことがない。表現力はいかようにも書けるかもしれないがオリジナルティを出すとなると降谷も苦戦するかもしれない。
「なるほど、つまりやりたいことが未経験だからうまく書けない、って言いたいんだな?」
「そう!話が分かるね!だから協力してほしいんだ!」
顔をキラキラさせながら篠宮は「お願い!」と両手を合わせる。降谷としても特に断る理由がなかった。
「いいぞ。まあできる範囲に限られるが……」
「ありがとう!ではさっそく」
篠宮は降谷の隣まで来ると、おもむろにズボンに手を掛けた。
「待て待て待て」
その手を制した降谷に篠宮は「え?どうした?」ときょとんとする。
「何故俺のズボンを下ろそうとしてるんだ」
「いやズボンあるとできないから」
「何しようとしてるんだお前は…」
篠宮は満面の笑みを浮かべ「オーラルセックス!」と元気よく答えた。その元気さに降谷はため息をつかざるを得ない。
「その経験を小説にするのか……」
「いいじゃん、男って一度はやられてみたいものでしょ」
「何かそれムカつくな」
確かにされてみたい。それは否定しない。だが「男って」と適当に扱われるのは釈然としない。
まあまあと篠宮は再びズボンに手を掛ける。されてみたい欲望も相まってか、降谷は今度は止めなかった。
全くその気じゃなかった降谷の己はへにゃりとその首をもたげている。
「私の持ってる知識を総動員してみるから」
何故か自信満々に篠宮はそっと触れてくる。薄い皮に包まれているそれを片手で握るとゆっくり捲り舌先を伸ばした。小さな舌でぺろぺろ舐めるとパクリと咥える。
「っ…」
急所を食べられる恐怖はあれど温かく包まれ気持ちよさが勝る。感触を確かめるように首筋を一周し先端をちろちろと舐めている。右手は緩やかに皮を上下し左手は飴玉を転がしている。存在感が徐々に増してくると篠宮は「ん」と声を漏らしながらずるずると口に含んだ。
筋裏に舌を這わせ口の中をすぼめる。初めてにしては上手で歯が全く立っていない。その様子は少しアホ面だが己を咥えこちらを伺うようにちらりと見上げてくる姿に、惚れた男が何も思わないはずがなかった。
篠宮は一度口を離すと次は右手で上下に動かす。唾液とカウパーに塗れてらてらしている己を観察するかのように見る篠宮。その唇は先程より明らかに艶がある。
「どう?」
「ん…上手」
「痛くない?」
「全く」
「意外と音ならないんだね」
あんまり美味しくない、と呟きながら篠宮は再び咥えると先ほどまでと違い吸いながら出し入れを繰り返した。その気持ちよさに喘ぎ声が出そうになるのを堪える。降谷は篠宮の髪をさらさらと触りながら心地よさに身を委ねる。じゅぽじゅぽと音が鳴りそうで意外と静かに扱かれる。
エロさよりグロさが勝るような気もする己は反り立ち、口内の暖かさと心地よい締付けで先走りがとろとろ出ている気がする。比較したことはないしするつもりもないが篠宮は上手だと思う。だが、欲望を吐き出すには今一歩足りなかった。それを篠宮も感じているのだろう。顔を顰めながら頭を動かしている。
「難しいな…」
「……なぁ、篠宮」
何?と顔を上げた篠宮の肩を押し倒す。「おっと~?」と焦っている篠宮の下腹部に手を置いた。
「ご奉仕されたからには、お返ししないとな」
「降谷変態くさいよ」
「うるさい」
茶化す篠宮の口を塞ぐ。口の中を好き勝手に暴れれば篠宮の吐息も甘いものに変わっていった。