現実主義者リアリストは夢を見たい

 何でも事件に巻き込まれただが事件に遭遇しただか分からないけど、コナン君が怪我で入院したそうだ。ポアロ代表でお見舞いよろしく!って感じで病院に来た。
「えっ銃!?」
「そうなの…もう命の心配は無いし、後遺症も残らないだろうって言われてるから、ひと先ずは大丈夫…」
 流石に一人で行くのは、と蘭ちゃんにお願いして案内してもらっている。事件に関わってって感じの怪我だから重症だろうとは思ったけど、まさかの命に係わる怪我だったのか。
 大丈夫と言う割に蘭ちゃんは随分暗い顔をしてる。…なんだ、検査してたら病気見つかったとか!?後遺症は残らないけどもう立てないとか!?
「まさか…コナン君…」
「…私もまだ信じられないです…でも、思い返せば新一に似ているところ多くて…」
「おう?」
 あ、会話通じてないなこれ。蘭ちゃんは若干自分の世界に入りながら話を続けた。
「誕生日も一緒だし血液型も一緒なんです!シャーロックが好きなところとか、事件の時の表情とか…」
 え、まさか高校生が小さくなったとか考えてる?そんな漫画みたいな話があるわけぇ。
「何かよく分からないけど考えすぎじゃない?誕生日と血液型が一緒の人なんて世の中五万といると思うよ?」
「偶然にしては出来過ぎだと思うんです!」
 苦しそうな顔をしてる蘭ちゃん。私は正直難しい話からは逃げたいという何ともクズい人間なので、とりあえずここは落ち着かせて話を逸らそう。
「蘭ちゃんは、コナン君が新一君であってほしいの?」
「え?」
「高校生が小学生になるだなんて、映画や漫画だったら中々面白い話だとは思うけど。もし、仮に、そうだったとしたらヤバいと思うよ?事情はよく分かんないけど、若返りだなんてのが公になったら、新一君、どっかの研究施設に連れていかれたり…」
 サーッと蒼褪めていく蘭ちゃんに慌てて冗談だって!と笑いかける。あかん不安にさせてどうするよ。
「私は新一君のことよく知らないから、蘭ちゃんが引っ掛かるところあるなら私から何も言えないけどさ、それでどうしたいの?って話になると思うよ、結局は」
 蘭ちゃんはそれから黙ってしまった。ヤバいよヤバいよ常連と決まづくなったらバイト行けなくなっちゃう。心の中でダラダラ汗を流しながら病室まで歩を進める。
「…様子見ようと思います」
 呟くように蘭ちゃんは言った。ドアにかけようとした手を一旦おろし、蘭ちゃんの方を向く。
「もうすぐ文化祭もあるし、その時は新一来ると思うんです。新一とコナン君が一緒にいるところ見たら、私も別人だって信じられる」
 いや、高校生が小学生って普通に考えてあり得ないと思うよ…。と場違いな突っ込みに空気読めと突っ込む。
「まあ蘭ちゃんは一人じゃないし、あんまり不安なら園子ちゃんとかに相談するとか、新一君に「どこいってんねん」って連絡するとか」
「瑠依さんは?相談、乗ってくれないんですか?」
「話は聞くけど相談乗れるかは自信ないなー。基本私適当だし」
 相談乗るってことはきちんと相手のことを考えて意見を言わないといけない。相談に乗るってことは自身の発言に責任が乗っかる。蘭ちゃんみたいな年頃の子の相談に乗れるほど私はできた人間じゃない。
「じゃあ相談しますね」
「いや話聞いてた?」
 先ほどより明るくなった蘭ちゃんにホッとし、今度こそ病室を開けた。


 昨日の今日で再びお見舞いに訪れる。今日は私一人だ。
(絶対安静だけど一日起きてられるくらいには回復してて良かった。けどこういう状況がいっちばん暇なんだよね)
 過去に怪我で入院した身として、その暇さの耐えがたさはよく分かる。流石に銃弾で撃たれるような怪我ではなかったけど。
 ノックしても反応がなく、静かにドアを開けるとコナン君はスヤスヤ寝ていた。体力はまだ回復してなかったか、もうちょい気を遣えばよかった。持ってきた見舞い品を食事用のテーブルの端に置き、カバンからメモを取り出し一筆書いておいた。音を立てないよう部屋を出る。
 動けない状態での最大の暇つぶしは読書だと思う。これは実体験。コナン君はゲームが苦手らしいし、本好きだから大丈夫だろ。ただジャンルはミステリーじゃなくて、コナン君が読まなそうなファンタジーだけど。シャーロックが読めるくらいだし難しい本でも読めるよね?
(…確かにそう考えると、コナン君どっちかっていうと大人なんだよな)
 昨日の蘭ちゃんを思い出す。コナン君の知識や明晰さ、小学生にしては良すぎるのは確かにある。でもなー、だからって縮むなんてことあるぅ?
(ああ、でも赤ちゃんくらいの大きさのおじさんが世の中に入るっていうし、逆に数カ月でおばあちゃん位老けちゃった子供もいるっていうし、絶対ない!とは言えないのかぁ?)
 頭の中がドリームハッピーになりかけ、いやいやと思いなおす。ま、私の中ではコナン君はコナン君なんだけどね。


 退院したらサービスすると言っておきながら、退院の時にポアロにいない私である。というか東京にすらいない。
「ああほら、私やるからお母さん休んでなよ」
「あら、ありがとう」
「流石に怪我人に家事やらせるほど親不孝のつもりはない」
「態々帰ってきてくれるくらいだからねぇ」
「親思いでしょう?わ、た、し」
「姉ちゃんきもい」
 ママさんバレーに張り切りすぎて転んだ挙句、体育館のステージにぶつけ腕の骨にヒビが入ったそうだ。母の利き手は包帯でぐるぐる巻き。父は自衛隊で今は沖縄だ。昨年まで東京だったのに、私とすれ違うかのように南国へ行った。
 洗濯物を取り込みながら見慣れない服に首をかしげる。この家に今いるのは弟の夕弥と母だけだから、男物だし夕弥のだとは思うけど、お洒落との距離は日本とアメリカ位ある我が家にしては随分シャレオツな服だ。
 田舎の一軒家、田畑が広がる、というより目の前が山。勿論田畑もあるけど、とりあえず山。このあたりは集落だから家と家の距離も近いが、このあたりで学生なのはもう高二の弟だけというくらいにはド田舎で過疎地域で超高齢化なんちゃらだ。でも最寄り駅まで十キロだしスーパーも五キロくらい行けばいくつかあるから、限界集落ではない…はず…。東京に住み始めたらここがいかに田舎かって理解したよ…。
「夕弥、お前こんな服持ってたっけ?」
「ああそれ、やーさんがくれた」
「え、やーさん来たの?」
 やーさんとは10年前に父が拾った人だ。正確には怪我しているところを父が連れ帰った人。見た目がヤの付く人っぽかったので2人でやーさんと呼んでいる。本人も特に嫌がって無いからそのままだ。あと、やーさんには子分みたいな人がいる。そっちはいつもグラサンをしてるのでぐーさんと呼んでる。子供のネーミングなんてこんなもんよ…。
「うわー会いたかったー。ぐーさんも一緒だった?」
「一緒一緒、なんかすっげー高そうな車乗って来たよ。父さんと飲もうとしたらしくて酒持ってきてた。持って帰ったけど」
「そら今この家に酒飲みいないからね」
 私もそこそこ飲める方だが、やはり酒豪の父と飲みたかったのだろう。見た目のわりに可愛い人なんだよな。待てよ、あの人もツンデレ属性じゃないか?
「姉ちゃんいなかったの見て「バカ女、ついに死んだか」って言ってた」
「勝手に殺してんじゃねーよ…」
 くっそ想像できる。つか「ついに」ってなんだ。まるでいつ死んでもおかしくないみたいな言い方っ。…昔の私なら否定できないけど流石に今死んだりしねえわ。
「で、俺の服見てダセえって一言。次の次の日にそれ持ってきた」
「服届けに態々辺境の地に来るとかあの人暇人かよ」
「ぐーさんが姉ちゃんにってシャンプーとかおいてってたよ」
「ぐーさん相変わらずあの成りで女子力っ」
 夕弥から渡されたお洒落な花柄の袋の中には、まーた高そうなシャンプーとリンス、ボディーソープと洗顔料があった。私のことをよく分かってる、匂いなしだ。今度会ったらお礼言わないと。連絡先知らないからいつ会えるか知らんけど。


 母も職場に復帰できるくらい怪我も治り、もういなくて大丈夫だろうと東京に戻って来た。以前の様に来店してきたコナン君に挨拶する。
「いらっしゃーいませー。ひっさしぶりだねー」
「瑠依さん!今までどこ行ってたの!?」
「え、実家。色々あって」
 説明がめんどくさいので端折る。コナン君はすっかり元気を取り戻したみたいだ。
「めっちゃ遅いけど、退院おめでとう」
「え、ああ、ありがとう」
 そこから久々にまた他愛のない話をする。コナン君もまた色々あったみたいだ。
「そういえばコナン君って5月4日生まれでO型なんだっけ?」
「そ、そうだけど、なんで?」
「いやさー凄い偶然だなーって」
 コナン君と新一君は誕生日も血液型も一緒。親戚同士でってのもまた珍しい。
「コナン君と私の弟、誕生日も血液型も一緒なんだよねー」
「へ?弟?」
「そうそう。しかも、新一君も一緒なんでしょ?あと、新一君とは全然会ってないから確証は持てないけど、新一君とうちの弟、身長一緒だと思うんだよねー。新一君の方がはるかにイケメンだけど」
「へぇ、そうなんだ、はは」
「まあそれだけだけどね。新一君はサッカー好きらしいけど、うちの弟は野球派だし」
「そういえば瑠依さんって弟いたんだね」
「そうそう、今高校2年生だから蘭ちゃんたちと一緒だね。あ、新一君ともか」
 弟の顔を思い浮かべる。不細工ではない、どちらかというと可愛いほうの顔立ちだとは思う。ただ童顔。身長で何とか高校生に見えるってところか。あれでチビなら完璧中学生、いや、小学生…。
(おっさんくさいよりはマシか?)
「もし弟が東京来る気力あった時には、仲良くしてやってよ。あいつ人見知りだけど子供好きだからきっと仲良くなれるよ。蘭ちゃんたちとはちょっと厳しいかもだけど」
「え?なんで?年が近いから仲良くなれるんじゃないの?」
「小学校とか中学校からの仲ならいいけどねぇ、初対面でしかも年の近い女の子が苦手みたいで。女性のみ人見知り発揮するから」
 いっそ年上ならいいのに、年が近いとどうもシャイになる。あれ治んねえかなぁ。将来可愛い義妹ほしいよ。


 コナン君はブラックを飲む。どのくらい砂糖を入れたら気付くかチャレンジをしてみようと思った。
「スプーン一杯も入れてないのに気づくなんて…」
「瑠依さんのコーヒー何度も飲んでれば流石に分かるよ」
「舌が肥えてると捉えておくよ」
 チャレンジは初めてから二回目の来店でバレた。
「というかコナン君って暇さえあればポアロ来るけど、友達と遊ばないの?お金はどこから出てくるの?子供のうちなら何しても許されるんだからいい感じに遊んどかないと後悔するよ」
「子供のうちならって、はは」
「黒歴史となるか笑い話となるかはコナン君の性格次第だけどね」
「瑠依さん僕に何をさせたいのさ」
 小学校1年生で、許される程度の危ない遊び。私はよく弛んだ立ち入り禁止ロープの先を行ったりしたな。大抵森や川だからまだいいけど、このあたりだと工事現場とか廃屋みたいなところになっちゃうだろうから危険すぎるかな。森や川みたいに何かあったときに発見されやすさなら都会の方が高そうだけど。さてコナン君なら…うーん…。
「このあたりって程よい危険な場所ないよね」
「危険に程よいも何もないと思うんだけど」
「変に脇道入ろうものなら、怪しい取引現場でも見そうだよねー。人通りこんなにあるのに横道の人気のなさと言ったら」
「はは…」
 このあたりは子供が遊べる場所が少ないのかもしれない。都会には都会の遊び方があるだろうけど、田舎もんの私には想像つかないや。


 いつもなら賑わうポアロも今日は様子がおかしい。人の入りが少なかった。おやつの時間なんて閑古鳥が鳴いた。今日はポアロの店員が勢ぞろいなのに、お客がいない…。買い出しから戻って来た梓さんが答えを教えてくれた。
「集団食中毒と、交通事故と異臭騒ぎ?」
「ええ、それで今病院が大変みたいよ。交通渋滞もひどいし」
 何そのトリプルコンボ。小さな事件が一日に何件も、日本中ならどこでも起きてるだろうけど、ピンポイントな場所でそこそこニュースになりそうな事件が3件も起きるか?
(どれもやろうと思えば意図的にやれるよな…ま、考えすぎだよな)
「うちも気をつけないとですねー。衛生面は特に」
「そうだね。食器とか調理器具の消毒回数増やそうか」
「良いと思います!」
 外は大変みたいだけど、ポアロは今日も平和です。


 うちにテレビがないので世間の情報収集は専ら携帯だ。その携帯も通信料は基本料金でおさめたいので、インターネットにつなぐことはあまりない。今日はノートパソコン欲しさに家電屋に来た。
(どうしよう、ネトゲやりたいからそこそこいいの買いたいけど、だったら専門店行った方がいいよな)
 並べられているパソコンは、ビジネスや検索だけなら問題なさそうだがゲームをやるには心もとないスペック。パソコンは詳しくないからよく分からないけど、ゲーミングパソコン系探しとけばいいかな。でも高いんだよな。何件かは梯子して探すか。
 次の店に行こうと並べられたテレビの合間を縫って出口を目指す。テレビをきょろきょろ見ながらあるいていたら、丁度良さそうなサイズのテレビを見つけた。
――…に、来葉峠で車が爆発しました――
(ほしいなーこのテレビ。サイズ良さそうだしこれなら持って帰れそう。でもこれ買ったらパソコンは買えないな)
――発見された遺体は、FBI捜査官の赤井秀一さんであると判明しています――
(ほんとこの街きてから爆発音を聞くようになったよな。最初花火かと思った。…うーん、パソコン優先して、3、4カ月したらテレビ買うか)
 まあそれまで米花にいたらの話だけど。今のところ実家に戻る予定はないから、当面はテレビを買うために頑張るかなー。