Reincarnation:凡人に成り損ねた
今後のことはあまり考えていない
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ras iras unikut arat u tas u tam i tan i
to tan o it urat on a kak a it otan it oinit u raret a kan anran asita
『残念ながらアドレスから相手は探れなかったよ。内容も全然分からない。役に立てなくてごめんよ』
「いや、こちらこそお時間とらせてすみません」
1通目が来てから半年。これで4通目だ。相変わらずさっぱり。被害妄想や自意識過剰と言われてしまえばそれまでだが、念の為優作には伝えずジャックさんに相談した。結果は惨敗。プライベートで依頼したためジャックさん直々に調べてくれたらしい。申し訳ないことをした。
日本語に直してアナグラムとか、英字そのものを入れ替えてとか、ありとあらゆる方法で解こうとしたが結局解けず。マジで意味が分からない。
『そういえば一時帰国はいつからだっけ?』
「帰国は再来週なんですけど、その前に何故か帰国前にアメリカ寄ることになりました。なので急ですが明後日イギリスを発ちます」
『アメリカ?寄るっていう距離でも方向でもないと思うんだが」
「友人が知り合いからニューヨークのホテルのタダ券頂いて。その知り合いの父親が経営しているグループの傘下のホテルらしいです。折角だしってことで」
『アメリカへ行くのは構わないが、イギリスへ戻ってきたときに俺の前であっちの英語は使わないでくれよ』
イギリス人にアメリカ英語使うと嫌な顔されるのは本当のようだ。アメリカではどうなんだろう。ちょっと気をつけよ。
「はは、気を付けます。お時間いただきありがとうございました。また何かあったら連絡します」
電話を切ったタイミングで、ただいまという声が聞こえた。優作が帰ってきたようだ。
「おかえりー」
「椎名ちゃん、荷造り終わった?」
「もちのろん」
宿泊先にランドリーもあるというし、日本へ戻ったら実家に帰るわけだから衣類は少ない。荷造りもそう時間はかからなかった。
「楽しみだなぁニューヨーク。そうだ、ついでにハワイにも行こうよ」
「そんな短いスパンであれこれ行けるかよしんどいわ」
「じゃあ今度行こう。うん、そうしよう」
ハワイか…ハワイで親父に、の、あのハワイか。そりゃ行ってみたいけど遠距離を気軽に移動できるほど気持ちは若くない。中身はババアだからね。
「分かったから、優作も荷物纏めなよ」
遠足前の子供のような優作を朗らかに眺めながら、ニューヨーク観光や久々の日本に思いを馳せた。
「いやぁ君は本当に凄いな!今は大学生だっけ?卒業したらうちに来ないか?」
快活に笑う警察。丁寧にお断りする優作。遠い目で見る私。
コナンは行く先で事件が起きたが、優作は事件が起きてから行く。ニューヨークに来て今日で4日目。いよいよ市警達と友人レベルで仲良くなった。私はおまけだが。
「ちっこい嬢ちゃん、飴いるか?」
「わーい可愛いーやったーありがとう!」
精いっぱいのぶりっ子を発動しニコちゃん模様の飴を口に入れる。日本では味わえないドギツイ甘さが口内を走り回る、いや暴れる。コーヒーはおいしかったのに……。持ち前の忍耐力でおいしいと言う。甘党は好きな味だと思うが、甘いのは苦手な私には毒を食らった冒険者のようにじわじわと何かが削れていく。
事情聴取はもはや雑談タイムだ。市警は優作の勧誘を頑張り、優作はにこやかに人脈を増やし、私は餌付けされる。貰うお菓子はどれも甘いものばかりで、ただでさえ苦手な甘味が嫌いになりそうだ。
「レックが晩御飯一緒にどうだって聞いてきたんだけど、椎名ちゃんどうする?」
「私はホテル戻るよ。かほりさんも待ってるだろうし。優作行ってきなよ。いろんな話聞けるだろうし」
「ありがとう、母さんをよろしく」
優作は基本私を子供扱いしないので、ここで「送るよ」「一人で帰れる?」とは聞いてこない。凄くありがたい。
口直しをしたくて自動販売機を探す。すると別のものを見つけた。向こうも私に気付いたようだ。
「椎名ちゃんじゃないか。一人でどうしたんだい?」
「赤井さん、この辺で自動販売機見てない?口の中甘ったるくてコーヒー飲みたい」
赤井務武さん。優作には言っていないが、こちらに来てすぐ実は誘拐されそうになった。空港の人込みの中、優作とかほりさんと一回逸れてしまったのだ。その時見知らぬ男が「お嬢ちゃんのお母さんがあっちで探していたよ」といきなり腕をつかんできたのだ。一目見てアカンやつだと察したが、掴まれる力が強く逃げられなかった。大声出したろかと深呼吸したときに男の手を掴み「アンディ・ターナーだな?」と助けてくれたのだ。ここ最近子供の誘拐事件が相次いでいたらしく、その犯人だったという。折角観光に来たのに早速事件に巻き込まれて事情聴取なんてごめんだと、手が離れた瞬間にダッシュで逃げた。こういう時小柄な子供は見つけ辛いからいいね。人の合間を縫って無事優作たちのもとにたどり着いた。まさかその日の夜ホテルで助けてくれた人に会うとは思わなかったけど。
「コーヒーが飲みたいのかい?だったらさっき買ったやつがあるからあげよう」
「赤井さんのでしょ?いいよ、自分で買うから」
「まあまあいいから。お礼は俺とお喋りしてくれればいいから」
ホテルで会った時缶コーヒーを飲んでいる姿をばっちり見られてしまったので、彼に対して取り繕うことはやめた。赤井という名字にまさか、と思ったが、案の定、赤井秀一の父親だった。赤井秀一は重要人物だった記憶があるので、できればよろしくしたく無いが父親ならまだいいだろうと交流を深めた。因みに赤井さんと優作の面識はない。
「お菓子くれるのは嬉しいんだけど、甘いものばかりは流石にしんどい」
「ああ、市警か。あそこは近くにでっかいお菓子屋があったからな。買いやすいんだろう」
赤井さんもホテルに帰るところらしくゆったり一緒に歩く。ありがたく頂戴したコーヒーは欲していた苦みだった。
「そういえば帰国は明日じゃなかったっけ?」
「ああ。明日イギリスに帰る。君も今はイギリスに住んでいるんだろう?今度飯でも行こう」
「いや人の子より先に息子を気にかけなよ。2人いるんでしょ、奥さん一人じゃきっと大変だよ」
「あいつなら大丈夫さ。怒らせたら息子が怪我するのは確定だ。ああそういえば連絡先知らないから飯も行けないか」
流れるようにポケットから携帯を取り出し、自身の連絡先を私に見せてきた。この人ちょっと意味わからないっすわ。
「ほら、連絡先」
「はいはい……こんな子供ナンパするなよ…」
「10年経ったら是非息子の恋人にならないかい?」
「遠慮いたします」
連絡先を追加しワンコールと空メールを送る。今送ったの私ですと口頭で伝える。
「うーん、息子も中々優秀だとは思うが、君を見ていると息子は子供だなって思うよ」
「子供っぽく無いもので」
「話しやすくて俺は好きだけどね。ほら、ホテル着いたよ」
ホテルに入りエレベーターを待つ。赤井さんとは泊まっている階が結構違うため乗るエレベーターも違う。
「椎名ちゃん見てると、ちょっと心配だなって思うよ」
「心配?何がですか?」
「相談できる相手、ちゃんといる?」
「相談内容にあった相手はちゃんといますよ」
頭をよぎるのは優作とジャックさん。サディアスさんはカウントしていいのか悩む。
「近すぎるから言えないこともきっとある。何かあったらいつでも頼りなさい」
ポンポンと私の頭を叩き、降りてきたエレベーターに赤井さんは乗っていった。
ジャックさんもそうだったけど、赤井さんも、私に対してガード緩すぎだろ。別に両親に虐げられた過去もないし、今だって優作もかほりさんもいる。恵まれた環境だと思うんだが……。
(ガードの緩さで言ったらコナンの回りの大人がダントツだけど)
この世界の、7大摩訶不思議の1つにしよう。他の6つはまだないけど。
「全く、優作ったら事件ばっかりで!ねぇ椎名ちゃん」
日本行きの飛行機の中、かほりさんはぷんすかしながら私に同意を求める。
「親孝行しないとだめだよ優作」
「自重するよ」
この時の言葉を録音して聞かせてやりたい。空港で事件が起きていた。
さらっと捜査に参加し、ちゃちゃっと関係者に話を聞いて回り、つらつらと推理を述べ、すっと犯人を指す。その一部始終をかほりさんと共に遠くから見ていた。
(…あの男の人の様子を見ると…友人が殺したって知ってたな?会話が聞こえないから事情は分かんないけど、擁護したわけでもなさそうだし、知っちゃって戸惑ってたってところか)
捜査に来た刑事は見たことのある面々だ。こうして優作は目暮警部、今はまだ警部じゃないか、目暮刑事と仲良くなっていくわけだな。
「優作が事件を解決する姿、初めて見るけれど、いつの間にか大きくなったのねぇ」
かほりさんは少し寂しそうだ。その顔はまさしく母親の顔だ。
「きっとこれから沢山の人に囲まれて、頼られて、でも自分のやりたいことを貫いて、あの子は生きていくのよね」
「私が知る限り優作に反抗期がないですけど、親としてそれはどう思います?」
「そうねぇ。10年20年経って、あの頃の優作は、とかそういう話はきっとできないから、ちょっと寂しいわね。でも椎名ちゃんといるときの優作はきっと何年たっても話題にできるから気にしてないわ」
「あ、私ですか」
「ふふっ。椎名ちゃん、これからも優作をよろしくね。椎名ちゃんも、存分に優作を使うのよ?」
「あはは、使うって」
殺人事件の現場だと分かっているが私たちの周辺に関係者はいない。場にそぐわないだろうが、私とかほりさんは和やかに談笑して優作を待った。不謹慎だって分かってるんだけどね。