ポケットに入らないモンスター
2
グラウンドに行き先生の話を聞く。入学式そっちのけで個性把握テストとやらをするんだとさ。個性を使って体力テスト。さてどうしようか…。
「…カービィ、ワープスターって呼べたりする?」
「ぺぽぺぽ」
「だよなぁ」
電話が無いしあったとしてもこっちには呼べないと思う、とお答えいただいた。
「ピカピ?」
ウェンディとかギャロップとか呼ぶのはどうかとピカチュウからご提案頂いた。そうね、それができたら一番いいんだけど。
「ぽんぽん呼ぶのはいいんだけど、私の意志でばいばいできないからなぁ。ピカチュウたちみたいに小さければ気にしないんだけど、流石にそのサイズだと厳しいからね」
「ピカ?」
「メタモンって目の前に同じポケモンいなきゃ変身できなくない?」
「ピカピ…」
この子らが全部やったら私の体力測定じゃなくてこの子らの体力測定になる。なるったけ自力で頑張るかぁ。
50m走は同い年の平均よりはるかに速いと思う。3秒は流石にやばい。カービィのジェットなら同じくらいかそれより早く行けるんじゃない?コピーできるものが無いし私がジェット使えるようになるわけじゃないから、やったところで意味はない。
握力測定は平均よりちょい上くらいじゃないかな。男子で540キロ出した奴いて勝てない。ピカチュウがその相手を見てカイリキーに似ていると言っていた。確かに腕6本あるし人間版カイリキーだね。
立ち幅跳び、これは!
「カービィ!君の出番だぞ!」
「ハァイ!」
カービィがホバリングをした。その足を「よっと」と掴んだ。ぷいぷいとカービィはホバリングで立ち幅跳びの砂の上を優雅に飛んでいく。途中で「ぷあ!」と空気が出てしまい記録は40m。私がもっと軽ければ…。
「すげぇ、あんなちっこいのに人運べるんだ」
誰かがボソッと呟いたのが聞こえた。コピー能力に左右されるけど、何もコピーしていない状態であれば45kgの私を40m運ぶくらいはできる。大人3人くらいなら10mくらい運べるんじゃないかな。ぶら下がる人間の握力に掛かってくるからレスキューには正直使えない。
反復横跳び、これなら…
「ピカチュウやってみる?」
「ピッカ!」
スタートの線に立ち構えるピカチュウ。ちらっと先生を見たけど何も言われないからOKらしい。
「よーい、スタート」
「電光石火!」
ピカチュウに指示を出し時間の限りピカチュウが電光石火を繰り返した。「ぺぽ!ほぉよ!」とカービィが横で応援しているのがなんとも微笑ましい。体力切れで後半ばててしまったけど、回数はクラス2位で落ち着いた。1位の小さい男子のあれ、電光石火よりは遅いけどあの速度を時間切れまで継続できるのは凄い。へたり込んでるピカチュウを抱きかかえ「ありがとねー」とお礼を言った。
ソフトボール投げ。さっきの反復で1番回数稼いだ彼の前の名簿の男子が先生から何やら注意を受けていた。その様子に飯田と、「死ねぇ!」と言いながらボールを投げた爆豪があからさまに反応する。つか爆豪ほんと態度悪いな。注意を受けた男子、緑谷は指一本犠牲にして700m超えの記録を出していた。
「怪我せんと発動できないのか、発動の反動で怪我してんのか」
「気になるの?僕は全然☆」
やたらキラキラ?した男子が私の肩に手を置いてウィンクしながら言ってきた。ウィンク上手だな。
「人を救けんのがヒーローでしょ、救ける側が個性使うたびに怪我されちゃ、救けられる側が不安になるでしょうよ」
「君結構言うね☆」
この男子のキャラがよく分からないけど悪い奴じゃないと思う。
反復1位、峰田と私の前の名簿の八百万さんが投げ終え、私の出番になった。ちらりと抱きかかえるピカチュウを見る。
「ピカ」
動けるよ!とピカチュウが地面に降りた。
「んじゃ、お願いしようかな」
「ピカピ!」
1回目は普通に全力で投げた。17m、結構飛んだな。ピカチュウとカービィがその位置を記憶した。そして2回目を再び全力で投げた。と同時にピカチュウが走り出す。カービィは私から離れどこかへ向かったが遠くには行かないだろうから好きにさせる。ボールが下向きに落ち始めた。
「ピカチュウ!電光石火!」
「ピカ!」
ピカチュウが電光石火でボールの真下へ飛んだ。そして範囲内になったと確認すると次の指示を出す。
「アイアンテール!」
「ピカチュウ!」
ボールにアイアンテールをぶつけ上向きに更に飛ばす。空中で回転して綺麗に着地を決めたピカチュウ。ボールは更に飛んでいき50m辺りで地面に落ちた。こうしてみると700mとかバケモンだなって思う。
「53.2m」
先生から告げられた結果を耳にしながら駆け寄って来たピカチュウを抱き上げ撫でまわす。
「ピカチュウありがとー」
「ピィカ」
「渡世」
「はい?…あ」
先生に呼ばれ振り返ると、先程どこかへ行ったカービィが…先生の頭に引っ付いていた。おま、
「なんてところに…猛者か」
「ぺぽ!」
流石星の戦士。何も考えてないだけなのか度胸があるのか分からん。高い!って、そら私より身長高いからね。
「ほらカービィ、先生を困らすんじゃありません」
「ぽよ」
カービィはこう見えてあることを除けば警戒心が頗る高い。そのカービィが躊躇なく先生の頭に上ったということは…そのあることを先生がしたってことになる。カービィが私の頭に戻ってきたタイミングで、先生にそろっと聞いてみた。
「…先生、餌付けしました?」
「…なんのことだ」
ふいっと視線を逸らされた。これはしたな。カービィは食べ物をくれる人間に直ぐ懐く。こっちが心配になるほどあっけなく懐く。先生…小動物嫌いそうな見た目してるけど餌付けしたんだな…。ちょっとほっこりと見ていたら「そんな目で見るんじゃない」と小さく怒られた。
その後の種目、上体起こし、長座体前屈、持久走は自力で頑張った。持久走は応援してくれるかのように2匹が私の両サイドを走ってくれたんだけど、君らの体力と一緒にしないでくれ…君ら速すぎ…。
全種目が終わり結果がホログラムで一括発表された。女子では2位、全体では5位。これでも悪くはないんだよ。なんせ拉致誘拐強盗された回数ピー回だからね。ヒーロー目指して鍛えたというより鍛えざるを得ない状況だった的な。それはそれで悲しい。というか除籍処分は嘘だったという。あれぜってー本気の目だったろ…。