ポケットに入らないモンスター

1

「ほぁ」
「ピカピ」
 見上げた門の大きさにカービィが思わず声を出した。ピカチュウも大きいと言っている。門をくぐる生徒は私を、正確には頭に引っ付くピンクボールと肩に乗る電気鼠を興味深そうに眺めながら通り過ぎている。
「というか君ら、2月も来たでしょ…」
 後期試験で来たのに同じリアクションってなんなん。
「ピカピカ」
「ぺぽ?」
 ピカチュウは何度見ても大きいと言い、カービィは来たっけ?と言った。…そういえばあんときカービィにぺろぺろキャンディあげてたんだっけ。そっちに夢中で覚えてないのか。
 好奇の目は今に始まったことじゃないしとうの昔になれた。周囲の目を気にせず教室の1-Aの馬鹿デカい扉を開けた。教室にいた人から一斉に視線を受ける。その視線をスルーして黒板に貼られた紙を見た。まあ定石だよね、席順貼るなら黒板。いつも名簿後ろだったけど今回もいつも通り後ろだ。んで席も一番後ろ。
「き、君!ペットを連れてくるとは何事か!」
 自分の席に着こうとしたら眼鏡をかけた男子が私の肩や頭にひっつく2匹を指さしながら注意して来た。中学時代もこうして生徒指導の先生にキレられたなぁ。家にいさせるのも可能だけど、過去にそれで強盗にあったからだったら一緒にいた方がいいと許可取って一緒にいるようにしてんだよな。雄英への入学に当たって諸々書類を提出したときも、事情を話して許可を取った。普段大人しいから授業中騒がしくすることもないし、席順も一番後ろだから他の生徒の集中力を切らすこともないっしょ。
「ペットじゃないよ、この子ら、私の個性で生まれた子」
「何?個性で…?そうか、それはすまなかった!俺は飯田天哉だ」
 クソ真面目そうに見えて結構柔軟な頭の持ち主かな?素直に謝罪してくれた。
「よく言われるし気にしなくていいよ。渡世召可。頭に引っ付いてるピンクボールがカービィ、肩に乗ってるネズミがピカチュウ。よろしく」
「ハァイ!」
「ピカチュウ!」
 手をびしっと出してるから握手なのかなと思って握手してみたら、らなんかビックリされた。あれ、握手じゃなかったか、ちょっと恥ずかしい。
 席の間を縫い事績に着く。分かっちゃいたがやっぱり好奇の目で見られる。ピカチュウとカービィは私の机の上で座りながらその好奇の目をきょろきょろ見渡している。初めての環境でちょっと興奮してんのかも。
「ピカ、ピカピカ!」
 ピカチュウが私の方を向き、電気の気配があると訴えてきた。電気タイプのピカチュウはそういうのに敏感だ。
「そういう個性持ってる人いるんじゃない?」
「ぺぽ」
 ぼくと同じ個性もあるかな。ちょっと期待しいな目で見てきたカービィに「どうだろうねぇ」と答える。大食い個性なのかコピー個性なのか分からんけど、前者なら出費が嵩むだろうなぁ。経験談だ。出禁になった食べ放題のある店舗数は両手じゃおさまらない。ピカチュウは小食でよかった。
「お友達ごっこは余所へ行け…ここはヒーロー科だぞ」
 続々と生徒が登校してきてわちゃわちゃと騒がしくなっていく教室。そこへひと際低い声が聞こえた。黄色い寝袋をもぞもぞとして入って来たのは…誰やねん。
「はい、みなさんが静かになるまで8秒かかりました。君たち合理性に欠くね」
 相澤消太、と黒板に書き担任だと今世で最も短い自己紹介を終えるや否や、体操着に着替えてグラウンドに出ろと言われた。展開変わり過ぎ。
 更衣室で改めて女子人とは自己紹介した。カービィもピカチュウも一応オスで恥じらいがあるのか、着替え中は両手で顔を覆い「きゃー」とでもいうかの様な表情で照れながら待っていた。その様子に可愛い可愛いと女子人が写真を撮ろうとするのをやんわりと止めた。
「ごめん、この子ら写真嫌いだから。一度にたくさんの人に撮られるのはちょっと」
 過去何度か私諸共誘拐され、この子らも戦闘ができないほど憔悴していたときのことは忘れない。私もおかげで写真はあまり得意じゃないのだ。ヒーローになったら写真を撮られる機会も多いだろうと判断し、学校の敷地内にいる間は敢えて隠さず少しずつ慣らしていくつもりだ。
「あ、ごめんね!」
 透とアシミナがかざしたスマホをしまった。またいつか、おいおいね。