禁書ノ記憶
美術館からの脱出
青の間
「深海の世」の世界観を大事にしているのか、壁も床も蒼暗い色をしている。降りてすぐ階段側の壁に掛けられた2枚の絵を眺めつつ、降りて右側の道を進む。壁にひたすら「おいで」と描かれているのを見た降谷さんが僅かに私との距離を詰めた、様な気がした。
「ここまでくるとホラーだな」
「ホラーゲームですからね」
「前もこうだったのか?」
「前?」
「2回帰って来た、って貝津さん言ってただろ」
「ああ…前回はどちらかというとサスペンスでしたね。前々回がホラーでしたけど…はい」
超即死ゲームだったな…。トゥルーエンドは「エレンズナイフ」をゲットすること、一応ゲットして脱出した。もともとセーブなんてできないから黒猫もスルーしてたら、エレンの部屋の前で生きた黒猫…悪魔と会話できた。「君はエレンじゃない、なのにどうしてこの屋敷を知ってるんだろうね?異端な魂の気配を感じるよ」って言われた。そらこの世界の人間じゃないですから、異端も同然でしょうよ。
「気になるようでしたら、帰ったら解読小説お見せしますよ」
「解読し終わると本に内容がかかれるのか?」
「はい。ただ解読者だけが読める仕様になってるみたいなので、内容を誰でも読めるようにしたものになります。おそらくこの本も脱出出来たら私と降谷さん以外読めないんじゃないですかね、多分」
「ということは、君の仕事は本の解読と解読後の翻訳なんだな」
「基本はそうです。一般的な事件だの交通整備だの、降谷さんみたく捜査だのは上からするなって言われてます。捜査中に、今回みたく意図せず解読作業が始まったら色々問題だからと」
「…悪かったな、取り上げて勝手に開いて」
「今回ばかりは仕方ないですよ。一度開いて問題なかったら大丈夫だと思うのが人間の性でしょうし。私としては、巻き込まれた降谷さんには申し訳ないですが本の世界の理解者が増えて嬉しいです」
「魔女の家」や「少女」で体験した出来事は全て私しか分からない。報告書や本を解読すれば他の人も何が起きたか分かるけどそれは理解とは言わない。
「あ、薔薇ありましたよ」
意図したわけじゃないが話をぶった切るような情報を伝える。まっすぐ進んだ壁に突き当たりの左側に青い扉がある。それを阻む様に机と、その上に花瓶に刺さった赤い薔薇があった。薔薇を取り降谷さんの胸ポケットに挿してみる。
「…恐ろしい程似合いますね‥‥」
「顔立ちが整っている自覚はあるからな。誉め言葉として受け取っておくよ」
イケメンは何してもイケメン、と言う言葉がよぎる。くっそこれだからイケメンは…。
机をずらして扉を開けると、額縁をはみ出すほど長い髪の女の絵画が壁にかけられていた。部屋の中央には青い鍵がある。何も考えず蒼い鍵を拾い上げると「うわっ」と降谷さんが驚く声が聞こえ振り返った。
「え、何かありました?」
「絵が…」
女の絵を見る。にっこり閉じていた目がギョロリと見開き、口裂け女のごとく口が大きく開いている。
「そういえばそんなのあったな」
「…できるなら事前に言ってくれ…心臓に悪い」
「何かすみません」
絵画の下にはタイトルパネル。書かれているのは明らかにタイトルではなく私たちへのメッセージ。
「“そのバラ 朽ちる時 あなたも朽ち果てる”か…ルールに会った薔薇の花びらが無くなると死ぬ、やつね…」
「ですです。転んだくらいじゃ千切れることはないので爆弾程丁重に扱う必要はないのでご安心ください」
「敵キャラに触れると、と言ってたな。花びらは確か5枚か10枚と言っていたが、3枚しかないな…?」
記憶力の良い降谷さん、流石覚えていたらしい。話ながら部屋を出ると机の位置が変わっている。
「この花瓶に活ければ復活するのか?」
「そうですそうです」
降谷さんは胸ポケットの薔薇を花瓶に挿した。淡い光を放ちながらバラの花びらが2枚増える。
「…水が無くなった」
「一回タイプの花瓶ですね。無限タイプも出てきますよ」
「定期的に回復ポイントがあるんだな。5枚か10枚って言ってたけど、もしかして結城の方が10枚?」
「この流れならその可能性が頗る高いですね。まあ私の薔薇はもう少し進まないと出てこないです」
「それは大丈夫なのか…?」
ギャリー初登場時ぶっ倒れてなかったか…?無言でいると「途中で死なないでくれよ、頼むから」と切実に言われた。
「おいで」と書かれていた壁の文字は赤い字で「かえせ」に変わっていた。「あ、足元注意してください」と先に伝えてから進むと、案の定行く手を阻む様に机を叩くような音と共に「かえせ」と床にインクが付いた。先に行ったおかげか降谷さんは特にリアクションしなかった。むしろ慣れてきたのか私同様文字の上を普通に超えていた。流石潜入捜査官、肝が据わっている。
階段が消えてることも「階段消えたな」で済ませ、「幾何学模様の魚」を流し見る。このあたりにあった気がするセーブポイントは当然ない。拾った青い鍵で青い扉を開けると、今度は緑色の世界が広がっていた。